スズキの2ストバイク「GT380」の匂いで甦る記憶 ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.119~
レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、スズキの2ストバイク「GT380」の白煙に青春時代を思い出すと言います。どういうことなのでしょうか?
香りで甦る記憶、郷愁を誘う2ストバイク
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このところ僕(筆者:木下隆之/レーシングドライバー)は、BMW M440i カブリオレでドライブする日々を過ごしている。「駆け抜ける歓び」をタグラインとする“ビーエムのカブリ”は、陽射しがやや弱くなった初冬が似合う。髪を撫でる風がひんやりして気持ちいい。カブリオレにとって最高のシーズンであろう。
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そんなとある日、信号待ちをしている僕の傍に、1台のレトロバイクが停まった。スズキ「GT380」だ。
ズンズンと不規則に響く2サイクルのサウンドは、リズミカルにタップを踏んでいるように軽やか。ライダーがスロットルを軽く煽るたびに回転が跳ね上がる。そのリズムが郷愁を誘ったのだ。
1972年に発売された「GT380」は、2ストローク空冷直列3気筒エンジンを搭載する。排気量は350ccのバイクがあった当時、30ccの排気量アップをするために、直列2気筒のスクエアシリンダー(内径54mm×行程54mm)をひとつ足して3気筒化とし、371ccになった。という意味でいえば“GT370”なのだが、“GT380”としたのは、より大排気量なのだとイメージさせる販売戦略上のギミックだろう。
3気筒なのにマフラーは4本出しだった。より一層の高級感と、ライバルより格上の印象を高めるためだったに違いない。
その戦略にまんまとはまった僕は、当時2本出しマフラーのヤマハ「RD350」に乗っており、たいそう憧れを募らせたものだ。中型免許にカテゴライズされながら、大型モデルのような重厚なたたづまいに惹かれた。僕が高校生だった頃の、淡い憧れだ。
信号が青に変わってから僕は、しばらくその「GT380」を追走した。4本マフラーからはほのかな白煙が巻き上がっており、それが渦となってカブリオレで後を追う僕の鼻腔を刺激した。焼けたオイルの甘い匂いは2サイクルエンジンの証であり、独特の雰囲気がある。
青かった僕の高校生時代、大排気量モデルに憧れを抱き、友達とワインディングを駆け回った日々。駐車場にたむろして、夜中まで語り合った青春時代が思い出された。
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香りには「プルースト効果」があるという。香りを嗅ぐことにより、その当時の記憶が蘇り、感情が踊る現象のことらしい。フランスの作家マルセル・プルーストが、自身の小説の中で紹介している。口にしたマドレーヌの香りによって幼少期の家族を思い出したと記していることが、「プルースト効果」の語源だという。
これは科学的にも証明できるらしい。脳の「嗅覚皮質」が鼻から吸った情報を記憶の中枢である海馬に伝達するというのだ。
僕が2ストロークの香りによって青春を思い出したことは、「ジーティサンパチ効果」であろう。レトロバイクは見た目だけでなく、音や香りでも郷愁を誘うようだ。
提供:バイクのニュース
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スズキGT380に取り付けられた三段シート背面にはポエムが記されていた
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。
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