「高齢ドライバー事故」はなぜ日本で目立つのか 脳活動とヒューマンエラーの関係がカギに?

高齢ドライバーの事故が目立つ理由…考えられるのは?

 ひとつの理由は、日本が世界屈指の高齢化率(全人口のうち65歳以上が占める割合)が高い国であり、そのなかで免許所持者の高齢化も進み、結果的に高齢ドライバーの実数が増えていることです。

 警察庁によると2020年度時点で運転免許保有者の総数は約8200万人でした。このうち65歳以上は1908万人、70歳以上では1245万人、75歳以上は590万人、80歳以上が243万人という構成です。

「団塊の世代」と呼ばれる戦後のベビーブーマーが2025年に75歳以上になりますし、また、男性に10~15年ほど遅れて普通運転免許を取ることが一般化した女性ドライバーの高齢化がこれに続く状況にあります。

運転状況を模した状態でのMRI解析実験のイメージ
運転状況を模した状態でのMRI解析実験のイメージ

 もうひとつは、運転に対する“思い込みが強過ぎる”ことです。

 若いときのつもりで運転していて状況はある程度分かっているはずなのに、判断と操作が遅れたり、正確にできなかったりという高齢ドライバーが多いように感じます。

 その仮説の裏付けとして先日、ホンダのさくらテストセンター(栃木県さくら市)で最新技術説明会が開かれましたが、ここで公開されたMRI(磁気共鳴機能画像法)を用いた研究で興味深いことを知りました。

 ホンダは国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の関連施設のMRIを使い、ホンダの研究員や各世代の一般の人が被験者となり、運転状況を模した状態でMRIでの脳活動を実測しました。

 そこから、ドライバーによるヒューマンエラーの本質的な原因は、「環境に応じて認識・行動が最適化されない脳活動にある」ということが分かってきたといいます。

 運転に不慣れな若年層の場合、視覚情報は前方中心のみで局所的である一方、運転のリスクを最小限化しようと認知行動は広範囲にわたっておこなわれることが分かりました。

 その結果として、運転行動としてはニアミスした急ブレーキが多くなりました。

 一方で、高齢ドライバーは自身のこれまでの経験から、視覚情報は十分にあっても、それを判断してハンドルやブレーキを操作する反応が遅れがちなことに不安を感じている傾向があるのです。

 その結果、まっすぐ走れずふらついたり、車間距離が近く前走車に対するブレーキのタイミングが遅れたりします。

 この領域のホンダ研究員と意見交換しましたが、今回の研究結果だけでは、日本で高齢ドライバーの重大事故が目立つ理由を明確に説明できないといいます。

 そのうえで、彼は個人的見解として、自動車文化など社会のおけるクルマのあり方や、運転に対する責任感といった領域など、日本の社会環境全体との関連をより深く考えていくべきという点を指摘しました。

 高齢ドライバー問題を考えていくうえで、MRIを活用したデータ分析のみならず、今後さまざまな方向から課題解決に向けたアプローチが必要と感じます。

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。

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