ちょっとユニークなモデルも誕生? 1980年代にデビューした異色の高性能車3選
1980年代は国産車の高性能化が飛躍的に進んだ年代です。そして、この頃に誕生したハイパフォーマンスモデルのなかには、ちょっとユニークなクルマが存在。そこで、1980年代にデビューした異色の高性能車を、3車種ピックアップして紹介します。
1980年代に登場した異色の高性能車を振り返る
1980年代の国産車というと、ターボエンジンやDOHCエンジン、さらに両者を組み合わせたエンジンが登場。また、駆動系やサスペンションの電子制御化も進み、走行性能が飛躍的に向上しました。
1970年代は排出ガス規制の強化や燃費向上に注力するため、高性能モデルは消滅するか牙が抜かれた状態になってしまいましたが、そうした環境性能の向上がひと段落した後の1980年代は、各メーカーとも再び高性能化に舵を切りました。
振り返ってみると、1980年から1989年までの10年間は国産車にとって、日本の自動車史でも特筆すべき進化を遂げたといえるでしょう。
メーカー間で出力や運動性能を競い合ったことも、高性能化に拍車をかけました。
そんな時代に誕生したハイパフォーマンスモデルのなかには、ちょっとユニークなモデルも存在。そこで、1980年代にデビューした異色の高性能車を、3車種ピックアップして紹介します。
●スバル「アルシオーネ 2.7VX」
スバルは1985年に、同社初の本格的なスペシャリティカーとしてスタイリッシュな2ドアクーペの「アルシオーネ」を発売しました。
当時はライバル車がひしめく状況にあり、アルシオーネは他メーカーとの差別化をおこなう上で、空力性能の向上を突き詰めたモデルです。
外観は直線基調のシャープなウェッジシェイプのフォルムで、スバル車では最初で最後となるリトラクタブルヘッドライトを採用していました。
リトラクタブルヘッドライトも空力向上の手段のひとつであり、ほかにもドアノブやウインドウ取り付け部のフラッシュサーフェイス化や、空気の乱流を抑えたドアミラー形状の採用、後端をわずかに跳ね上げたダックテール状のトランクリッドなど、さまざまな箇所に空力性能向上の施策が図られています。
その結果、空気抵抗係数であるCd値は0.29と、日本車で初めて0.3を下回る数値を達成。また、内装など、随所に航空機のイメージを取り入れた機能的なデザインが特徴でした。
エンジンは当初、最高出力135馬力の1.8リッター水平対向4気筒ターボのみでしたが、1987年にスバル初の2.7リッター水平対向6気筒自然吸気「ER27型」を搭載した「アルシオーネ 2.7VX」を追加ラインナップ。最高出力は150馬力を発揮しました。
2.7VXのボディ形状は4気筒モデルと共通でしたが、全長を4450mmから4510mmに拡大。主に前後バンパーの変更によるものですが、より伸びやかなフォルムとなった印象があります。
駆動方式は前後駆動力配分を自動で制御する「アクティブトルクスプリット4WD」を採用。トランスミッションは4速ATのみとされ、車高調整機能と乗員の数に関わらず車体姿勢を一定に保つエアサスペンションを装備するなど、ツアラーとしてのポテンシャルが高められていました。
そして1991年に後継車である「アルシオーネSVX」にバトンタッチされ、アルシオーネは生産を終えました。なお、このER27型エンジンは2.7VX以外には搭載されないまま消滅したことから、かなり贅沢なモデルだったといえます。
●三菱「ギャランΣ」
かつて三菱の主力セダンの座を担っていたのが「ギャラン」シリーズです。1969年に誕生して以来、FRモデルとして代を重ねていきましたが、1983年に登場した5代目の「ギャランΣ(シグマ)」からFFとなる大きな転換期を迎えました。
ボディサイズは4代目からほぼ変わっていませんが、デザインを一新してより伸びやかでスタイリッシュなフォルムとなり、ロー&ワイドさが強調されてエレガントかつスポーティなセダンといった印象です。
また、FFとなったことから、室内の広さ、とくに後席スペースの拡大は目覚ましいものがありました。
そして、1984年には、「スタリオン GSR-V」と同時に2リッター直列4気筒SOHCターボの「シリウスダッシュ 3×2」エンジンを搭載した高性能モデルが登場。
新開発のシリウスダッシュ 3×2エンジンは、吸気バルブに可変バルブ機構が採用され、低回転域のトルクを犠牲にすることなく高回転域で高出力を発揮。当時、FF2リッター車ではトップの最高出力200馬力(グロス)を誇り、高性能FF車の先駆けとなりました。
さらに1984年にはよりラグジュアリー色を強めた4ドアハードトップの「ギャランΣ ハードトップ」が追加ラインナップされ、同じくシリウスダッシュ 3×2エンジン搭載車を設定。
サスペンション、電動パワーステアリング、オートマチックトランスミッション、アンチロックブレーキなど、高度な電子制御化も図られました。
そして、1988年には6代目ギャランへとフルモデルチェンジし、シリーズ初の高性能4WDモデルである「VR-4」が登場。ギャランは二世代にわたって大きな転換期を迎えたことになります。
●日産「フェアレディZ 200ZR-I/ZR-II/300ZR」
もうすぐ、7代目となる日産新型「フェアレディZ」が登場します。フェアレディZは1969年に誕生し、日本以上にアメリカでヒットしたことから、たちまち日本を代表するスポーツカーとなりました。
その後、代を重ね、1983年に登場した3代目(Z31型)で最初の大きな転換期を迎えました。
外観は初代と2代目の特徴的なロングノーズのファストバッククーペを継承しつつ、デザインを一新。ボディ表面はフラットな印象となり、サイズアップしたことでグランツーリスモ的な要素が強まりました。
さらに、大きな改革だったのがエンジンで、それまでの直列6気筒SOHC「L型」から全グレードとも新世代のV型6気筒SOHCターボエンジン「VG型」に統一されました。
トップグレードの「300ZX」は最高出力230馬力(グロス)を誇る、3リッターターボを搭載。走行性能は欧州製高級スポーツカーに肩を並べました。
ところが、1985年10月には7代目「スカイライン」用に開発された、最高出力210馬力(グロス)を発揮する2リッター直列6気筒DOHCターボエンジン「RB20DET型」を搭載した「フェアレディ 200ZR-I/ZR-II」を追加ラインナップ。V型6気筒エンジンから伝統の直列6気筒に回帰し、初代の高性能モデル「Z432」以来となるDOHCエンジンが復活しました。なお、ZR-Iはスタンダードルーフ、ZR-IIはTバールーフです。
また、1986年にはビッグマイナーチェンジがおこなわれ、全体的に丸みを帯びたデザインを採用し、より洗練された外観へと変貌。3リッターモデルはワイドフェンダー化も図られました。
同時に、最高出力190馬力を発揮する3リッターV型6気筒DOHC「VG30DE型」エンジンを搭載した「300ZR」が、新たに登場しました。
300ZRはZ31型で唯一の自然吸気エンジン車という異色のグレードで、出力的には300ZXよりも5馬力下まわっていましたが、大排気量NAエンジンならではのシャープなアクセルレスポンスや、強化されたサスペンションを採用するなど、大いに魅力的なモデルでした。
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1989年には80年代における高性能化の集大成ともいうべきモデル、「Z32型 フェアレディZ」と「R32型 スカイラインGT-R」が誕生しました。
また、スバル初代「レガシィ」やトヨタ初代「セルシオ」など新時代のモデルや、ユーノス「ロードスター」というエポックメイキングなモデルも登場。
昭和から平成へと時代が変わった1989年は、国産車にとっても、大きなターニングポイントとなった年といっても過言ではありません。
Zに直6を積んだころローレルにはV6を積んだのを評して、徳大寺有恒は「同じ車種に乗り味の違うV型と直列を載せるとは日産という会社は自動車がわかっていない」と激怒していた。