まさに歴史が始まった瞬間! 昭和の初ものエンジン車3選
現在、クルマのパワーユニットは多種多様です。とくに内燃機関では複数の燃料であったり、大きさ、気筒数、バルブ駆動の形式、過給か自然吸気かなど、多岐にわたります。そこで、昭和の時代に誕生した日本初のエンジンを搭載したモデルを、3車種ピックアップして紹介します。
日本初のエンジンを搭載した歴史的なクルマを振り返る
近年、世界中の自動車メーカー各社は脱炭素へと舵を切り、内燃機関を搭載するクルマの縮小が始まっています。しかし、現状ではまだまだ内燃機関がパワーユニットの主流であり、当面は生き残るでしょう。
現在はクルマのパワーユニットも大きく進化し、多種多様です。とくに内燃機関は燃料や排気量の違い、気筒数、吸気の方式、バルブ駆動の仕組み、ピストンの配置など、数多くの種類が存在し、車格やニーズに合せて組み合わされています。
そうしたエンジンの歴史には、必ず始まりとなったモデルが存在。そこで、昭和の時代に誕生した日本初のエンジンを搭載したモデルを、3車種ピックアップして紹介します。
●ホンダ「T360」
ホンダは1948年に静岡県浜松市で創立され、当初はオートバイの生産から始まったメーカーです。その後、F1に参戦するのと並行して4輪車の開発に着手し、1963年に同社初の4輪車が誕生。
その記念すべきモデルが、360ccエンジンを搭載したセミキャブオーバー型軽トラックの「T360」です。
T360が搭載したエンジンは、当時としては驚異的なメカニズムの360cc水冷直列4気筒DOHCで、これが量産車では日本初のDOHCエンジンでした。
なぜ軽トラックにDOHCエンジンを搭載したかというと、並行して開発していたスポーツカーの「スポーツ360」がお蔵入りとなり、これに搭載していたエンジンしかなく、新たに開発するのはコスト面で負担が大きいという判断があったということです。
当時の軽トラックは20馬力から25馬力ほどの出力が一般的だったなか、T360は4キャブレターを装備し、最高出力30馬力(グロス、以下同様)を8500rpmで発揮する、まさにレーシングカー並の高回転高出力エンジンでした。
今ではDOHCエンジンを搭載していることをアピールすることも皆無となったほど広く普及していますが、半世紀以上も前に軽トラックへ4気筒DOHCエンジンを搭載したのは、すでにオートバイ用レースエンジンで実績があったホンダだからなし得たといえるでしょう。
しかし、軽トラックに精密な高回転型エンジンを搭載したことは、ユーザーニーズに反していたことは一目瞭然で、T360の販売は低迷。
1967年には、360cc空冷2気筒SOHCエンジンを搭載した「TN360」にバトンタッチするかたちで、T360は生産を終了しました。
今では現存数が少ないながらも愛好家が存在し、栃木県の「ツインリンクもてぎ」内にある「ホンダコレクションホール」には、新車のようにレストアされたT360が動態保存されています。
●トヨタ「クラウンエイト」
高級車で要求されるエンジンの特性は、余裕あるパワーを発揮しつつ低振動と静粛性をいかに実現するかです。そのため、高級車のエンジンは大排気量の多気筒エンジンというのが通例でした。
その要求を満たすエンジンを搭載したのが、1964年に発売されたトヨタ「クラウンエイト」です。
クラウンエイトは2代目クラウンをベースに、全幅とホイールベースを拡大したショーファードリブンカーとして開発されたモデルで、主に法人の役員専用車やハイヤー向けに販売されました。
搭載されたエンジンは国産乗用車初のV型8気筒で、排気量2.6リッターから最高出力は115馬力を発揮。エンジンブロックなどがアルミ製とされるなど先進的な技術も導入され、軽量化とともにスムーズな回転と高い静粛性を実現しました。
ボディサイズは全長4720mm×全幅1845mm×全高1460mmと現在の水準でも大型と思えるほどで、2代目クラウンに対してホイールベースを50mm、前後トレッドを160mm、全長を120mm、全幅を150mm拡大することにより、それまでの国産車にはない威風堂々とした外観と広い室内空間を実現しています。
装備面では2速AT、パワーステアリング、クルーズコントロール、パワーウインドウ、電磁ロックドア、電動式三角窓など、贅を尽くした高級車にふさわしい仕上がりとなっていました。
クラウンエイトの価格は東京店頭渡しで165万円と、1966年に誕生した初代「カローラ」のトップグレードが49万5000円(東京価格)でしたから、いかに高額だったことがうかがえます。
その後、1967年に登場した初代「センチュリー」にバトンタッチするかたちで生産を終了、クラウンエイトの総生産台数は3834台でした。
●日産「430型 セドリック/グロリア」
2000年代に普及が始まったダウンサイジングターボエンジンは、今や欧州車では主流となり、日本車でも採用するモデルが増加中です。
このターボエンジンはもともと航空機用に開発され、クルマではレース用エンジンに採用されるようになり、1970年代の終わりには市販乗用車にも搭載されました。
そして、国産車で初めてターボエンジンを搭載したのは、1979年に発売された日産「430型 セドリック/グロリア」です。
ターボは大気圧以上の圧力に圧縮した空気をエンジンに送り込むことによって、出力向上を図る装置で、排気量をアップするのと同じ効果が得られるというものです。
430型 セドリック/グロリアに搭載されたエンジンは、2リッター直列6気筒SOHCターボの「L20ET型」で、最高出力145馬力、最大トルク21.0kgmを誇り、同車の2.8リッター自然吸気エンジンと同等の性能を実現しました。
1989年の税制改正以前は、3ナンバー車の自動車税が3リッター以下で8万1500円と非常に高額だったことから、2リッター車で3ナンバー車並の出力を発揮できることは、経済的にも優れていました。
ほかにも出力に対して燃費の向上もアピールしていましたが、実際はアクセルを踏み込んでからパワーが出るまでに時間が掛かる「ターボラグ」が大きく、異常燃焼を抑止するためにガソリンを余分に噴射する必要があり、市街地での実燃費は2.8リッター車よりも悪かったといいます。
技術的にはまだまだ改良の余地がありましたが、L20ET型の誕生によって1980年代にはターボエンジンの急速な普及が始まりました。
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ターボエンジンの普及によって、風前の灯火となってしまったのが大排気量の自然吸気エンジンです。今も大排気量NAエンジンは生き残っていますが、多くは趣味性の強い高性能車に限られており、近い将来に淘汰されてしまう可能性が高いとえいます。
一方、大排気量NAエンジン特有のフィーリングは大いに魅力的で、とくにアクセル操作にリニアに立ち上がる出力やレスポンス、音など、ファンを魅了しつづけています。
ターボエンジンが可能にする大出力も魅力がありますが、やはりさまざまな感覚に訴えてくる自然吸気エンジンも絶やさないでほしいところです。
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