【R129型】メルセデス「SL」のちょうどよい古さが掻き立てる濃厚な“シブさ”【中古車至難】
2ドアラグジュアリーロードスターのメルセデス・ベンツ「SL」は、バブル期を中心に日本でも絶大な人気を誇っていた名シリーズだ。ちょうど現在、新型モデルの開発が進められているSLだが、なかでも「R129型」は、ある信念を掲げた最後のSLとしてファンの記憶に根強く残っている名車だ。当時最高峰といわれていたワケと、今だから深まった魅力について解説したい。
過剰ともいわれた驚異のクオリティ
正確な販売統計データを見たわけではなく、あくまでフィールドワークに基づく私見でしかないが、このところメルセデス・ベンツ「SLクラス」を街で見かける機会が激減しているように思える。
直近のR231型SLクラスは悪くないロードスターだったが、今となってはジャガー「Fタイプ コンバーチブル」や、こちらは4座式だがBMW「8シリーズ カブリオレ」など、SLに比肩しうるオープンカーが多数あるため、SLのシェアは相対的に低下した──ということなのだろう。
しかし過去には「ワン・アンド・オンリー」としかいいようがないほどのオーバークオリティ(過剰品質)を、その身に備えたメルセデス・ベンツSLクラスも存在していた。
1989年から2001年まで販売された「R129型」と呼ばれるSLクラスだ。
この、メルセデス・ベンツが「Das Beste oder nichts(最善か無か)」を地で行っていた時代の最後のモデルであり、今となっては他のコンバーチブルでは真似しようのないクラシカルな風格を帯び始めたモデルにぜひご注目いただきたい──というのが本稿の主旨である。
自動車にいわゆるハイテクが積極採用されはじめた1980年代、メルセデス・ベンツも各モデルのフルチェンジを進めたわけだが、それらに忙殺されたせいか、2座オープンモデルの「SL」だけは、1971年にデビューした3代目SL(R107型)を改良しながら長らく生産していた。
しかし主流となるセダンモデルのモデルチェンジにある程度の目処がついた1982年頃、いよいよ4代目のSLである「R129型」の開発がスタートする。
開発のテーマは、「SLとしての伝統を受け継ぎつつ、スタイリングとインテリア、走り、安全性などのすべてにおいて“世界最高峰のロードスター”にする」というものだった。
そして1980年代といえば、ダイムラー・ベンツ(当時)にDas Beste oder nichtsの精神が色濃く残っていたからだろうか、1989年9月にデビューを果たしたR129型SLクラスは、まさに当時の世界最高峰となった。
●すべてが世界最高峰、富裕層に愛されたロードスター
ボディは世界トップクラスの安全性と剛性を確保したオープンタイプのモノコック。フロントメンバー部とフロア部で異なる材質を使うことで、衝撃を段階的にやわらげるプロテクション構造も採用。さらに、車体の片側に受けた衝撃を3方向に分散させる三叉式緩衝機構の採用も、R129型SLのボディ構造における特徴のひとつだ。
ルーフは優れた密閉性を有する電動開閉式ソフトトップに加え、脱着可能なハードトップも装備。このハードトップは軽合金仕立てで、正しい位置にセットされればスイッチひとつで自動的に固定される、精密なロック機構を伴っていた。
オープンモデルならではの安全機構としては、わずか0.3秒でポップアップするオートマチックロールバーを採用。これは約5トンの荷重に耐える強度があり、ロールバーを支えるボディ部にも3層の高強度材が使われている。
初期のメインエンジンは、可変バルブタイミング機構や電子式イグニッションなどを内蔵したM119型5リッターV8 DOHC。1992年に6リッターV12 DOHCのM120型エンジンを追加し、1994年には3.2リッター直6 DOHCユニットも追加された。
このような流れで登場したR129型は、まさに開発陣が目指したとおりの「世界最高峰のロードスター」だったといえるだろう。
たった10メートル運転しただけで即座にわかる、オープンモデルであることが信じられないほどの圧倒的なボディ剛性。そして数百メートル走らせるだけで理解できてしまう、パワーユニットと足回りの全能感。さらには、ほんの1週間も所有してみれば心の底から湧き上がってくる、インテリア全体の圧倒的な上質感。
そんな特色を備えた世界最高峰のロードスターだけあって、新車時のR129型SLクラスは大変によく売れた。そして初期モデルもヒットしたが、1996年のマイナーチェンジで「後期型」となった世代も、そして1999年に行われた2度目のマイナーチェンジで「最終型」となった世代も、多くの富裕層に愛された。
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