世界初の「GT」&市販車初「V6」はランチアだった! 「アウレリア」は一体どんなクルマだった?
テクノロジー至上主義、そして上質さを追求したランチア
アウレリアB10のデビューから約1年後、2021年からちょうど70年前に追加設定されたクーペ版「B20」。そのボディは、1940年代のチシタリア「202SC」に続く、ピニンファリーナの傑作と称されている。
しかしオリジナルデザインはピニンファリーナ側ではなく、ピニンファリーナ出身のスタイリストで、この時期にはカロッツェリア・ギアの共同オーナーでもあったマリオ・フェリーチェ・ボアーノが手掛けたものである。
またボディのコーチワークは、当初ランチアのプロトタイプなどを製作していた小規模カロッツェリア「ヴィオッティ(Viotti)」に委ねられたものの、ランチア首脳陣が予期していた以上のオーダーが舞い込んだことから、ヴィオッティではごく少数が試作的に製作された段階で、より大規模な生産が可能なピニンファリーナに移管。その後はすべて、ピニンファリーナに委ねられることになった。
●失われてはならないブランド、ランチアの名声を決定付けた傑作
一方、ベルリーナB10の1754cc・56psでスタートしたアウレリアV6ユニットは、B20では1991cc・80psにスープアップされ、乾燥重量1000kgを標榜する美しいボディに100mph(約160km/h)以上の巡航速度をもたらしていた。
また、1953年のマイナーチェンジで発売されたB20シリーズ3以降のV6ユニットは、2451cc・118psに拡大されることになった。これは、マーケットにおける数少ないライバルだったアルファ ロメオ「1900CSS」が2000cc・115psに進化したことへの対応策と思われる。
さらにシリーズ3では、ボディワークについてもピニンファリーナによる手直しを受け、ヘッドライト周辺などが若干ながらモダナイズされるとともに、はじめて「2500GT」を正式に名乗ることになる。
そしてこの翌年の1954年発売のシリーズ4からは、2.5リッター化によって増大したトルクに備えて、リア・サスペンションは従来のセミトレーリングアームから、キャンバー変化のないド・ディオン・アクスルに変更されることになった。
また「アウレリアGT」は当初クーペのみだったが、1953年には同じピニンファリーナによるダイナミックなスパイダーボディを持つ「B24GT」も追加設定。初期モデルは「B24アメリカ」とも呼ばれ、ラップアラウンドのウインドスクリーンと取り外し式のサイドスクリーンを持つ真正のロードスターだったが、後期はよりコンベンショナルなウインドスクリーンと、巻上げ式のサイドウインドウ、対候性に優れたソフトトップを持つコンバーチブルへと進化を遂げた。
こののちも、矢継ぎ早の改良を受けていくアウレリア・ファミリーだが、このクルマをはじめとする各生産モデルのテクノロジー至上主義と、上質さを過度なまでに追求したつくりは必然的にコストの高騰を呼び、ランチアの台所事情を苦しめてゆく。
しかも、ジャンニ・ランチア社長の個人的意向もあって進められたモータースポーツ活動が、ランチア社の窮状にさらなる拍車をかけてしまう。
●ランチア復活を求める声
このような状況のもと、1955年にジャンニ・ランチアは、父ヴィンチェンツォが創業した会社の経営権を、セメント業で財を成した実業家、カルロ・ペゼンティに譲渡するという決定を下すに至ったのだ。そして、ヴィットリオ・ヤーノはランチア社レーシング部門とともに、「居抜き」でフェラーリへと移籍することになる。
新たにランチアの主となったペゼンティは、自身も熱心なエンスージャストであったとされている。しかし自動車技術へのロマンチズムを諦めてでも、会社を立て直すことこそ先決という結論を下した。
そしてヤーノ時代の、高度だがコストの高騰を顧みない設計方針を断腸の思いで放棄。新たに迎え入れた主任設計者、アントニオ・フェッシア教授の手による後継車として、より生産性の高い「フラミニア」をアウレリアに代えて1958年から送り出すことになるのだ。
とはいえ、フェッシア教授の設計したモデルたち、たとえばフラミニアはもちろん、小型車の「フルヴィア」やミドル級の「フラヴィア」もまた、当時の常識からすれば充分という以上に高度かつ高品質なクルマだった。
当然ながら、コストが過大であるという問題は抜本的改善には至らず、それゆえに1960年代のランチアは再び経営の危機を迎えてしまう。そして1969年には、開祖ヴィンチェンツォの古巣であるフィアットの傘下に収まることになったのである。
ここ数年、フィアット・グループ内におけるブランド存続が危ういとされているランチアながら、新生「ステランティス」グループのもと、新たな展開についての噂も語られているとも聞く。
ランチアが失われてはならないブランドであることは、世界の愛好家すべてが認めること。「ラムダ」や「アプリリア」、「アウレリア」、あるいは「HFストラトス」や「デルタ」などの名作が築いてきた名声に相応しい存続であることを、ひとりのファンとして心より願ってやまないのである。
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