「ジープ」にしか見えないアルファ ロメオがあった! 「マッタ」の数奇な運命とは

アルファ ロメオが第二次世界大戦後に軍用車として生産した「1900M」、通称「マッタ」の誕生から70年を記念して、その歴史を振り返る。

まるでジープのようなアルファ ロメオはこうして生まれた

 2021年は、数多くの自動車史上に冠たる名作、あるいはエンスージアストの記憶に残るクルマたちが、記念すべき節目の年を迎えることになった。

 アルファ ロメオの完全戦後型モデル「1900 ベルリーナ/スプリント」のパワートレインを流用したジープタイプ多目的ビークル「マッタ」こと「1900M」もその1台だ。1951年のデビューから、今年で70周年を迎えた。

 今回は、われわれVAGUEでもその誕生にまつわるストーリーを紹介することで、自動車の歴史の陰でひっそりと、しかし確たる存在感を示す1台への敬意を表したい。

民生用に生産された「AR52」
民生用に生産された「AR52」

●イタリアの国策として誕生した「1900M」

 アルファ ロメオ1900Mが生み出された訳は、1971年の「アルファスッド」誕生と同じ要因が絡んでいる。それは、この時代のアルファ ロメオが事実上の国営企業だったことが、重要なバックグラウンドとなっていたのである。

 第二次大戦前から、モータースポーツへの過大な投資などによって、経営ひっ迫状態が慢性的なものとなっていたアルファ ロメオ社は、時のファシスト政権の強い意向もあって1934年から国営公社「イタリア政府産業復興公社(I.R.I.)」の傘下に入る。

 大戦後には、自動車製造や造船、航空機製造、鉄道開発まで含む重工業全般を集約したI.R.I.の持ち株会社「フィンメカニカ(Finmeccanica S.p.A/現レオナルドS.p.A.)」が、アルファ ロメオの実質的な親会社組織となっていた。

 そしてフィンメカニカ首脳陣が、イタリア国軍に納入する車両は国営企業であるアルファ ロメオが受託するべきと考えたのは、しごく自然の成り行きといえるだろう。

 1900Mの名が示すとおり、メカニカルコンポーネンツの供給源となったのは、アルファ ロメオが戦後初めて新規開発したミドル級セダン「1900」だった。

 一方、末尾の「M」は「Militare(ミリターレ=軍)」の頭文字。第二次大戦中に世界の戦場にて活躍し、1943年のイタリア無条件降伏・連合軍参入後は、イタリア軍にも配備されたアメリカの「ジープ」の影響を受けたものとされる。

 1949年の北大西洋条約機構(NATO)軍設立に伴い、1950年にイタリア防衛省がおこなった、軍および警察用多目的車両の入札に参加することが開発の目的だったのだ。

 フレームは、このクルマのために新規開発された閉断面の鋼鉄製ラダー。リアアクスルは、この類いのクロスカントリーカーでは一般的なリーフリジッドながら、フロントアクスルは1900ベルリーナと同じ、ダブルウィッシュボーン式の独立懸架とされた。

 車体サイズは元祖ジープや最初期の「ランドローバー」に近いもので、ホイールベースは2200mmで、全長3520mm×全幅1575mm×全高1820mm(ソフトトップ込み)であった。地上高は20.5cmで、走行可能な最大水深は70cmとされた。

●高度なDOHCエンジンを搭載したクロスカントリーカー

 このあたりのスペックは、お手本であるジープやランドローバーと大きくは変わらないのだが、アルファ ロメオ1900Mには当時の常識を覆すトピックがあった。それは、アルファ ロメオが第二次大戦後に初めて開発したベルリーナ(セダン)「1900」用の直列4気筒DOHC(!)1884ccエンジンを搭載していたことである。

 このツインカムエンジンは、悪路走行時に必要な低速トルクを得るため、1900ベルリーナの80psから65psにディチューンされていた。それでも、元祖ウィリスMBジープの2.2リッターSV(サイドバルブ)4気筒エンジンが約60psだったことを思えば、300cc少ない排気量で同等以上のパワーを得ていたことになる。

 加えて、最低地上高をより稼ぐために障害となる、クランクケース下のオイルパンを排除。レーシングカー譲りのテクノロジーであるドライサンプの潤滑方式を採用していたことも、特筆に値するトピックといえよう。

 この高度極まりないエンジンに、副変速機つき前進4速のトランスミッションを介して、通常は後2輪、または、トランスファーレバーの作動で全4輪を駆動。最高速度は105km/hをマークするかたわら、50度の坂を上る登坂能力も兼ね備えていたと謳われていたのだ。

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