小さな巨人 地味だけど名車だったフィアット「127」は誕生から50年

2021年は、技術的にもデザイン的にも現在の小型大衆車のルーツともなったフィアット「127」が誕生して50年の節目の年。そこで、フィアット127の誕生秘話を紹介しよう。

「ダンテ・ジアコーザ式」って、知ってる?

 2021年は、自動車史上に冠たる名作、あるいはエンスージアストの記憶に残る数多くのクルマたちの記念すべき節目の年である。

 フィアット「850」の後継モデルとして1971年に登場し、今年でちょうど半世紀を迎えたフィアット「127」もその1台である。デビュー年の「カー・オブ・ザ・イヤー」にも輝いた小型大衆車の佳作であり、この時代のイタリアでは国民車のごとく愛されたクルマである。

 今回、VAGUEではその誕生にまつわるストーリーを紹介し、自動車史に輝く1台への敬意を表することとしよう。

●前輪駆動レイアウトの改革を果たした傑作車

1971年、デビュー時のフィアット「127」の広報写真
1971年、デビュー時のフィアット「127」の広報写真

 いまや自動車界においても死語となりつつあるのだが、1980-1990年代頃までの自動車専門誌では、前輪駆動車のレイアウトを語る際に「アレック・イシゴニス式」、「ダンテ・ジアコーザ式」なる謎のワードが多用されたことを、記憶している人も多いだろう。

 前者の「イシゴニス式」は、英国BMCで名作「ミニ」や「ADO16」を生み出したことで知られる偉大なエンジニア、アレック・イシゴニス技師が発案したものだ。横置きエンジンとデフ/トランスミッションを2階建てに一体化し、その左右にほぼ等長のドライブシャフトを介してフロント2輪を駆動するシステムである。

 この手法ではBMC各モデルのほか、プジョー「204/304」や日産の歴代「チェリー」、初代「パルサー」などにも採用例があったものの、現在ではほとんどが消滅してしまった。

 一方、横置きFWDのパワートレイン配置に革命をもたらした「ジアコーザ式」前輪駆動は、エンジンの脇にトランスミッションを配置し、左右不等長のドライブシャフトで前輪を駆動するシステムである。第二次大戦前から1960年代にかけて、フィアットのテクノロジーを支えた名匠、ダンテ・ジアコーザ博士が考案したことから自然発生的に命名され、現在に至るまで全世界における横置きFF車の大部分に採用されている。

 ジアコーザ式が初めて実用化されたのは、1964年にフィアット傘下のアウトビアンキが発売した「プリムラ」であった。もちろんジアコーザ博士が開発を主導し、その後本命たるフィアット・ブランドでも1969年に小型ベルリーナの「128」が正式発売される。

 さらに同じ年には、サブコンパクトカーへの導入を模索するべく、再びアウトビアンキから「A112」が誕生。この成功を確信した上で、満を持して1971年にデビューしたのが、フィアット127であった。

 フロントに横置きされるエンジンは、フィアット850後期型から継承され、アウトビアンキA112にも載せられた903ccの水冷直列4気筒OHV3ベアリング。そのパワーは47psとささやかなものながら、700kgを少しだけ上回る軽量ボディを活発に走らせるには十分と評価されたようだ。

 誕生早々から大ヒットを博した127は、当初2ドア版のみのラインナップだったが、翌1972年にはテールゲートを備えた「3P(トレポルテ)」も追加。デビューからわずか3年に相当する1974年6月には、フィアットより、トリノ・ミラフィオーリ本社工場からラインオフした127が100万台に到達したと発表された。これは、以前のベストセラーである「セイチェント(600)」が100万台の生産に7年を費やしたことと比べれば、紛れもなく快挙であった。

 1977年にはノーズ周辺にフェイスリフトを施した「セリア2a(シリーズ2)」。さらに、1982年にはスラントノーズや樹脂製大型バンパーで80’sスタイルに装った「セリア3a」に進化。127と同様に素晴らしい後継車「Uno(ウーノ)」が1983年に登場した後も、1986年ごろまで生産継続されるというロングセラーとなる。

 そして、フィアット127および上級の「128」がもたらした成功によって、ダンテ・ジアコーザ式前輪駆動システムの優位性が決定的なものとなったことが、現代における世界中のコンパクトカーの大部分が横置きFFとされたことにも、絶大な影響を及ぼしたと考えられているのだ。

【画像】デザインが秀逸すぎるフィアット「127」の系譜(15枚)

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