トヨタはなぜ水素エンジンに挑戦? 内燃機関の行く末はいかに

トヨタは、2021年4月22日に発表した「水素エンジン」をスーパー耐久シリーズ2021の公式テストでお披露目しました。なぜトヨタは未知なる水素エンジンをモータースポーツに実践投入するのでしょうか。

なぜトヨタは水素エンジンをモータースポーツに投入?

 2021年4月28日、スーパー耐久シリーズ2021「第3戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」の公式テストデーでは、「32」のゼッケンを付けたトヨタ「カローラスポーツ」をベースとしたレーシングカーが静かにコースインしていきました。

 ニューマシンのシェイクダウンによくある風景ですが、今回はちょっと意味が異なります。
 
 このマシンこそが、トヨタが4月22日に発表した「水素エンジン」を搭載したレーシングカーなのです。

トヨタ「カローラスポーツ」をベースとした競技車両に水素エンジンを搭載して「スーパー耐久シリーズ2021」に参戦へ!
トヨタ「カローラスポーツ」をベースとした競技車両に水素エンジンを搭載して「スーパー耐久シリーズ2021」に参戦へ!

 2020年末に水素エンジンの試作車に乗った豊田章男社長が「レースに出るぞ!」と宣言してから4か月、「水素技術を活用して内燃機関の可能性を探る」という挑戦の第一歩がスタートしたわけです。

 これまでのトヨタなら、ここから耐久試験を繰り返して「やっぱりできません」だったと思いますが、このスピード感こそが今の「トヨタらしさ」だと筆者(山本シンヤ)は考えています。

 一見無謀な提案に見えるかもしれませんが、その背景には「オレが責任を取る、失敗しても挑戦しろ!」と豊田章男社長の親心のような優しさだと感じました。

 とくに今回のプロジェクトは将来有望な水素とこれまで培ってきたエンジン技術を応用するという重要な挑戦なので、それを普通の時間軸でやっていたらいつまでも未来はやって来ません。

 だからこそあえてモータースポーツで、それもいきなり24時間レースという過酷ステージを選んだのでしょう。

 ルーキーレーシングのピットに向かうと、筆者はいきなりこのプロジェクトの本気度を目の当たりにしました。それはここに携わっている「ヒト」です。

 筆者はこれまでGRカンパニーが関わっている3本の柱のモータースポーツ活動(WRC/WEC/ニュル24時間)や量産車について取材をしてきましたが、そのメンバーがこのプロジェクトにさまざまな形で関わっていることに気が付きました。

 つまり、水素エンジンでの挑戦はGRカンパニーが持っている知見やノウハウを結集させた“総力戦”というわけです。この辺りは豊田章男社長が常日頃から語る「ワンチーム」がより濃い濃度で実践されているのです。

 ちなみにレースオペレーションはルーキーレーシングが担当していますが、今回は車両製作を担当したトヨタの凄腕技能養成部のメンバーもサポートに入っています。

 話を聞くと、「ひとつは何が起きるかわからないので即座に対応できるように、もうひとつはコロナの影響でニュル24時間のプロジェクトも中止なので人材育成という意味でも活用させていただいています」とのことでした。

 この水素エンジンプロジェクトを統括する伊東直昭氏はレクサス「LF-A」(コンセプトカー)から「LFA」、実験車両「LFAコードX」、「GRスーパースポーツコンセプト」と、ある意味“特殊”なモデル開発を担当してきたエンジニアです。

 2008年に開発車両LF-Aでのニュル24時間への挑戦と今回の水素エンジンでの富士24時間の挑戦と、どちらが大変だったか聞いてみました。

「どちらも大変ですが、水素エンジンはその“質”がまったく違います。

 LF-Aは『既存技術を研ぎ澄ます』という意味での難しさでしたが、水素エンジンは『未知の判断を積み重ねていく』という難しさです」と語っています。

 では、水素エンジンを搭載するカローラスポーツとは、どのようなクルマなのでしょうか。

 エクステリアは、幅広のタイヤを履くために前後のフェンダーを拡幅、BTCCやフォーミュラDのマシンのそれとは異なるオリジナルデザインです。

 リアは小ぶりなウイング(形状から予測するとTOM’S製)とセンター一本出しに変更されたエキゾーストが特徴です。

 さらにルーフにはなぜか前後にふたつのベンチレーションが装着されています。

 インテリアは助手席側にノーマルの面影が残るも、メーターやインパネセンターはオリジナル。

 レーシングカーにしては大きめのモニターと各種操作系が機能的にレイアウトされ、助手席側にはデータ計測用の機械が搭載されています。

 ちなみに左下部にはプッシュスターターボタン(水素エンジンなので青色)、右上にはドライブモードセレクトスイッチ(GRヤリスと同形状)が確認できます。

 一般的なレーシングカーと異なる部分は前席と後席、後席とラゲッジスペースの間にはカーボン製の隔壁が装着されていることです。

 ボンネットを開けると、GRヤリス用の1.6リッター直列3気筒直噴ターボがベースの水素エンジンが元からあったかのように違和感なく搭載されています。

 パッと見る限りは正直ガソリン車との違いはよくわかかりません。それもそのはずで、ハードはデンソーと共同開発された「インジェクター」、水素用に変更された「プラグ」、そして「燃料デリバリー」以外は既存のガソリンエンジンと同じです。

 専用設計にすることによる伸び代もあるようですが、まずはガソリン技術の延長線上で開発をおこなう、それがファーストチャレンジだといいます。

 ちなみにトヨタでは、さまざまなエンジンを水素化しているそうですが、そのなかでもGRヤリスのエンジンはモータースポーツで鍛えられたユニットだけあり、素性の良さ(高温・高圧に強い)に助けられている部分も多いそうです。

 実は、2020年の時点で白ナンバーが取れる性能が出ている試験車はあったといいますが、「24時間全開で走る」となるとハードルがグンと上がり、これまで出てこなかったトラブルが次々と発生。しかし、それによって開発スピードが上がったそうです。

 普段の開発をサボっているわけではないと思いますが、目標が定まるとスピードは一気に上がる。これが豊田社長のいう「モータースポーツの場を用いて……」の本質でしょう。

 気になるパフォーマンスですが、S耐に参戦しているGRヤリスのエンジン(ノーマルより高出力化)よりは低いようですが、現状でノーマルエンジン並み(=272ps/370Nm)のポテンシャルは持っているようです。

 水素タンクや水素の配管系などは燃料電池車「MIRAI」で培った量産技術が活用されています。

 水素タンクは4本(そのうちの2本は短い)搭載(水素量はトータル7.34kg)していますが、搭載位置はリアからのクラッシュ時の安全性を考慮し後席部に集約。

 さらに前突/側突時に乗員を守るために60Gの衝撃に耐える専用のCFRP製キャリアを開発。

 前出のカーボン製の隔壁は乗員空間と水素ルームを完全に分けるため、ルーフにあるふたつのダクトは水素ルームの換気用と、万が一の漏れに対する安全対策も抜かりなし。この辺りはFIAと一緒にルールづくりをおこなったそうです。

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3件のコメント

  1. >このスピード感こそが今の「トヨタらしさ」
    散々EVで出遅れてる見てるのに、よくそのコメントが出るわ。パブ記事も大概にしようよ。ホンダにも同じ言葉が出るの?

  2. 水素エンジンと聞くとワクワクしてしまう
    市販化されて、時速600キロのレースカー出ないかなー。
    30周年にトヨタからこんないい挑戦の話が出るなんてありがてー

  3. 驚いた。馬力が結構でている。燃焼ハードルが低いので、自然着火を抑えるためには希薄燃焼にしないといけないけど、それで馬力を出すためには過給率を上げないといけない。そうすると窒素酸化物が増える。レース用なのでそれを容認しているのか、あるいはひょっとして、燃焼室内に水噴射して抑えているのだろうか。排気を冷却すれば水は補充していけるんだし。

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