「プリウス」「アクア」は役目終えた!? HV専売車が低迷するトヨタの事情
ハイブリッドの立役者たちが役目を終えた!?
プリウスとアクアが売れ行きを下げた共通の理由に、ハイブリッド専用車のニーズが薄れたこともあります。
以前は販売店から「プリウスやアクアは、スグにハイブリッド車だとわかるため、環境対応に重点を置く法人のお客さまから人気が高い」という話を聞きました。
しかし2020年には、国内で販売された小型/普通乗用車の40%近くが電動車(プラグインを含むハイブリッドや電気自動車)となるなど、ハイブリッド専用車に対する受け止め方が変わったこともプリウスとアクアの売れ行きに影響を及ぼしています。
そしてトヨタはカローラやヤリス以外にも、2019年4月に「RAV4」、11月に「ライズ」、2020年6月に「ハリアー」、8月には「ヤリスクロス」という具合に、コンパクトからミドルサイズの車種を積極的に発売し、これもプリウスやアクアの売れ行きに影響しました。
さらにトヨタでは、2020年5月から全店で全車を扱う販売体制に移行。売れ行きを下げたプリウスとアクアやコンパクトSUVのC-HRは、いずれも現行型の発売時点から全店で販売していましたが、カローラはカローラ店の専売で、ヤリスおよび前身の「ヴィッツ」はネッツ店のみが扱っていました(東京など一部地域を除く)。
そうなると、例えばコンパクトなハイブリッド車が欲しい場合、以前はトヨタ店やトヨペット店と付き合いのあるユーザーは全店が扱うアクアを購入しました。ヤリスはネッツトヨタ店の専売だったからです。
カローラ店のカローラも同様でしたが、2020年5月以降は全店で購入できるようになりました。
ユーザーはもはや販売店を選ぶ必要はなくなり、人気の高いヤリスやカローラが売れ行きを伸ばした一方で、プリウス、アクア、C-HRは全店で買える優位性が消滅したことからヤリスやカローラに顧客を奪われたのです。
そしてC-HRには、プリウスとアクアとは少し違う事情が存在します。C-HRは感性に訴える特徴的な外観を備えたSUVなので、欲しいと思ったユーザーは愛車の車検期間が満了するのを待たずに乗り替えました。
そのためにデビューの翌年となる2017年1月から6月には、1か月平均で1万3217台を登録するなど、小型/普通車では、プリウス、ノートに次ぐ絶好調の売れ行きです。もちろんSUVでは販売1位でした。
ところが2018年の登録台数は、対前年比が65%に下がり、2019年も73%、2020年は61%と下がっていきます。
プリウスとアクアは2020年になって急激に下がりましたが、C-HRは2018年から大幅な下降を開始しました。
2020年の1か月平均は2806台なので、2017年1月から6月の21%です。つまりC-HRは、約3年間で需要の79%を失っています。
C-HRは感性に訴える商品なので、欲しいと思ったユーザーは即座に購入して、短期間で需要が満たされます。
そのために発売直後は売れ行きが急増しますが、その後は急落するのです。これは以前のスポーツカーに多く見られた販売推移です。
また前述の通り2019年にはRAV4とライズ、2020年にはハリアーやヤリスクロスという具合にトヨタから新型SUVが次々と登場して、少し設計の古いC-HRは包囲された形になりました。
国内で新車販売される小型/普通車の半数以上がトヨタ車となった現在、身内同士で競争している面もあります。
プリウス、アクア、C-HRは、新たに発売されたトヨタ車との競争に敗れて売れ行きを下げましたが、同じようなことが今後も繰り返されるでしょう。
全店が全車を売る体制に移行すると、トヨタ自身に厳しい競争を課すことになるのです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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