歴史ある街で自動運転やCO2削減は可能?ボルボが作る次世代都市の狙いとは
市街地でもISAを徹底して走行速度を抑制
イェーテボリ・グリーン・シティ・ゾーンでは、革新的な挑戦がふたつあります。ひとつは、交通量の最適化、もうひとつが走行制限速度の厳格化です。
これら2点を、筆者がこれまでイェーテボリおよびスウェーデンの産学官連携プロジェクトの現地取材、さらに日本での各種取材を踏まえて考察してみたいと思います。
まず、交通量の最適化については、人々の生活が成り立つためにもっとも良い交通・物流の在り方を最初に設計することになるでしょう。
たとえば、店舗への商品搬入は基本的に夜間におこない、その場合、騒音に配慮して完全電動化された移動車を使用。また、タイヤによる走行音を低減するため、店舗毎ではなく地域単位や業態単位での配送システム導入による配送ルートの最短・最適化を進めます。
トヨタのウーブンシティでは、物流車両を地下道で走行させる案があるようですが、イェーテボリのように古い町並みを継承するためには、地下道を新設することなく、物流変革を進めることになります。
日中の交通については、路面電車やバスの運行ダイヤをより効率的に組み替えることが大前提です。そのうえで、乗用車の利用を各車の走行データを基に制限する方法が考えられます。
交通や運輸において、CO2など温室効果ガスを削減するためには、走行する車両の数を減らすことがもっとも有効であることはいうまでもありません。
しかし、英国ロンドンやシンガポールなどが実施している、コンジェスチョンチャージ(渋滞税)やロードプライシングと呼ばれる、市街地への曜日や時間に応じた課金によるドライバーの任意の判断での流入量規制ではなく、イェーテボリ市が市民の理解を得たうえで、行政による強い執行力がある交通規制という考え方です。
次に、走行制限速度の厳格化ですが、自動運転については、運転の主体がクルマのシステム側に移行するレベル3以上では、制限速度順守がほとんどの自動車メーカーの基本的な開発理念です。
制限速度の検知は、地図情報とGPSなど衛星測位システムによる自車位置情報や、車載カメラによる道路標識の認識システムを使います。
一方で、一般のクルマ、およびレベル1とレベル2までの自動運転技術を搭載したクルマの場合、欧州で2022年発売の新車(乗用車、商用車、バス、トラック)に装着義務があるISA(インテリジェント・スピード・アシスタンス)を有効活用することになるでしょう。
ISAは、前述した自動運転レベル3に近いかたちで、GPSや車載カメラによって自車位置での制限速度を認識し、制限速度を超過した場合、ドライバーに音声や表示で注意を促し、またはスピードリミッターとして強制的に速度抑制をする装置です。
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イェーテボリ・グリーン・シティ・ゾーンを確実に運用するためには、行政の執行力の強さが求められます。結果的に個人の自由な移動を一部制限することになり、市民からさまざまな意見が出ることが予想されます。
それでも、いま(2021年2月)から9年弱で訪れる2030年までにクライメートニュートラルを目指すのであれば、行政、市民、そしてボルボを含む民間企業が同じテーブルで本音で議論を進めることが大切です。
日本各地の市町村、そして自動車メーカーにとって、こうしたイェーテボリの試みが、日本が目指すデジタル化・グリーン化に対して有効な参考になるはずです。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
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