日本に2台の激レア車! 奇抜で規格外なイタリアンスーパーカー「チゼタ V16T」をドライブする
自然吸気V16が生み出す未体験の世界
1988年の冬、メインマーケットとなる北米カリフォルニアでプロジェクトの全貌を初披露。翌年にはふたりの名を冠したプロトタイプ「チゼタ・モロダー」を発表する。しかしその直後、モロダーがプロジェクトから離脱してしまう。
湯水の如く現金を必要とするプロジェクトに、さしものモロダーも怖れをなしたのか、1台を完成させた時点で夢から覚めたのか。クラウディオはたったひとりで底なしのスーパーカービジネスへと突き進んだ……。
1994年、アウトモビリ・チゼタ倒産。
ランボルギーニの黎明期にあってパオロ・スタンツァーニの片腕としてエンジニア経験を積んだクラウディオ・ザンポッリ(=プロジェクトリーダー)。「ミウラ」や「カウンタック」をデザインしたマルチェロ・ガンディーニ(=スタイリスト)。世界的な有名人でカーマニアのジョルジョ・モロダー(=シェアホルダー)。
モデナの職人たちとアメリカ西海岸のウルトラリッチたち。これ以上望むべくもない登場人物。これぞスーパーカー誕生物語に他ならない。
●チゼタを高速道路へ引っ張り出す
2020年。日本の某所。友人のガレージから赤いチゼタV16Tを引っ張り出すことに成功した。生産4号車。長らく日本にある個体で、過去(前オーナー時代)にもドライブした経験がある。
チゼタが“スーパーカー中のスーパーカー”であると筆者が断言する理由は、16気筒エンジンをミドに積んでいることにある。しかも横置きとしたからこそ、この極端に幅広いスタイリングが生まれた。「大排気量マルチシリンダーエンジンをミドシップとして人を驚かせるカタチとなったクルマ」、という筆者のスーパーカーの定義をよく満たしている。
エンジンフードは後端を起点にして丸ごと開くクラムシェルスタイル。現場経験の豊富なクラウディオらしいメンテナンス性重視のアイデアだ。なかに収まる巨大なV16エンジンは6リットル自然吸気で、最高出力は560ps。30年前にはインパクトのあった数値である。
そのすさまじいアピアランスとは裏腹にドアは至ってフツウに横開き。これがシザードアなら最高だったのに、と思ってしまう。チゼタ唯一の不満かもしれない。
インテリアはオールレザーで、80年代的ラグジュアリースポーツカーの典型的な雰囲気。シートも大きく、足元も広々、ペダル操作もラク、つまりは快適だ。スパルタンなスポーツカーのイメージなど微塵もない。豪華なGTであること。これもまたスーパーカーの条件である。
16気筒エンジンはあっけなく目覚めた。日本向けにキャタライザー付きエグゾーストを装備するためいっそう静かなのだ。精緻なメカが淡々と動いているという印象もある。アイドリングミートで慎重にスタートする。
クラッチペダルは少し重め、カウンタックと同じくらい。低回転域から実用トルクが出ているので、微速域で気難しくなることはない。要するに運転しやすいクルマである。
高速道路の入り口を見つけて駆け上った。エンジン回転数の上昇とともに、16個のシリンダーが美しいシンフォニーを奏ではじめる。すっかりリズムに乗ったV16のエンジンサウンドにはまるで野蛮さはなく、徐々に「キィイイーン」といういままでクルマでは聴いたことのないサウンドへと収束した。
どこまでも回っていきそうなエンジンフィールにすっかり陶酔する。絶対的な速さなどもはや関係ない。この夢見心地な時間、ずっと浸っていたい空間こそがスーパーカーに乗るということなのだから。
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