メルセデス・ベンツが運転席まわりをほぼスマホ化!? 「ハイパースクリーン」世界初公開 新型Sクラスに採用
ゼロレイヤーってなに?
ハイパースクリーンの迫力と実力は、その大きさだけではありません。キーポイントは、メルセデス・ベンツが「ゼロレイヤー」と呼ぶ設計思想です。
レイヤーとは、階層を指します。車載システムでは、各種の操作をする際、各種スイッチにより次の階層へと順番に行く必要があります。
10年ほど前なら、車載器の機能はカーナビとオーディオの操作がほとんどでしたが、近年はコネクテッドサービスやSNSの急拡大により、車載器が表示したりそこから操作できる機能は一気に増え、使いたい機能がホーム画面から3つも4つも先の深いレイヤーにあることが珍しくありません。
こうした操作を運転中、または信号待ちの短時間でおこなうという、精神的なストレスや操作時間の制約があることが、自宅や自らが運転しない電車移動中に使うスマホやパーソナルコンピューターなどと車載システムとの大きな違いです。
そうした課題を解決するため、近年の自動車メーカー各社が力を入れているのが、音声認識システムです。
2010年代後半には、家電やスマートフォンでも、アップルのSiri、グーグルアシスタント、アマゾンアレクサなど、AI(人工知能)を活用した音声認識技術が標準装備されるようになり、こうした時代の流れに沿う形で、車載器の音声認識技術も一気に高度化してきました。
そのなかで2018年に現行型「Aクラス」で量産化されたのが、MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)です。メルセデス・ベンツによりますと、MBUX搭載車は世界で累計180万台に達したといいます。
今回登場したハイパースクリーンは、最新型のMBUXなのです。
さて、「ゼロレイヤー」が意味するのは、ユーザーからリクエストする前に、いわゆるプッシュ型の情報提供、または実際の操作を車載器が指令を出しておこなうことを指します。
例えば、いつもだいたい決まった時間に電話やメールをする友達、家族、または会社の取引先などがいれば、「そろそろこちらに連絡してはどうか?」と、システムが案内してくれます。
また、EQSには車高調整装置があるのですが、自宅の車庫出入口に段差があれば、GPSの位置情報から、システムが自動で車高を上げてくれます。
このように、MBUXハイパースクリーンは、いうなれば「上げ膳・据え膳」のように、クルマに何でもお任せできる、なんとも贅沢な機能だといえます。
搭載するのがEQSやSクラスなど、メルセデス・ベンツの上級モデルならば、ユーザーに対する付加価値として理解できます。
今後については、こうしたAI(人工知能)のシステムや機能は、半導体など関連機器の量産効果が大きく、上級モデルより新車価格の低い中級モデルやエントリーモデルまで短期間に広がる可能性も予測されます。
そうした技術進化のなかで、自動車メーカーは新たなる課題に直面するように思えます。
クルマが人の行動を常に先読みすることは、結果的に運転中の安心安全を確保することにつながると思う反面、「人間らしい生活」という観点から、ある一定の水準でそれから先の技術進化をするべきかどうかを検証することも必要になるのではないでしょうか。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
すごいなあ。ドイツ車は夢があるなあ。