NSXは月間1台しか売れてない!? 悪循環に陥るスポーツカーにいま求められることとは
スポーツカー低迷はSUVの台頭が影響?
その一方で、スポーツカーが低迷する要因として、販売店が指摘したSUVの流行もあります。
SUVは、厚みのあるフロントマスクや大径タイヤなどによって外観がカッコイイです。しかもボディの上側は背の高いワゴンスタイルなので、前後席ともに居住性も優れ、荷室は広くて使いやすいです。荷室に3列目のシートを装着した車種もあります。

このようにSUVは、スポーツカーと同様にカッコ良くて存在感もあり、なおかつ居住空間や荷室も広いためにファミリーカーとして使いやすいことから、昨今では主流のカテゴリとして人気を得ました。
SUVはスポーツカーに比べて重心が高いことから機敏な運転感覚は得られませんが、技術も向上して走行性能は十分に満足でき、乗り心地も快適。その結果、SUVが売れ行きを伸ばして、スポーツカーは一層減ったというわけです。
SUVが増え始めたのは、トヨタ「RAV4」やホンダ「CR-V」の初代モデルが登場した1990年代の後半以降です。
ちょうどスポーツカーが減少傾向に転じた時期と重なり、ユーザーのニーズもこの時期にスポーツカーからSUVへ移りました。
純粋なスポーツカーは、ボディサイズの拡大や価格の上昇によって売れ行きを下げましたが、スポーツ指向でありながら手堅く売れる車種もあります。
その代表がスズキ「スイフトスポーツ」です。2020年には1か月平均で約1000台が登録され、「スイフト」のノーマルエンジン車に迫る売れ行きでした。
スイフトスポーツは、スイフトのスポーティグレードともいえますが、エンジンは専用にセッティングされた1.4リッター直列4気筒ターボを搭載。
サスペンションも刷新され、外観にはエアロパーツを装着し、スイフトとは独立したスポーティカーともいえるでしょう。
しかもベースが価格の安いコンパクトカーのスイフトなので、スイフトスポーツも2ドアのスポーツカーに比べると割安。6速MT仕様が201万7400円と、200万円前後に収まる価格も大きな魅力です。
日本の平均所得は、1990年代後半から下がっており、いまでも2000年の水準に戻っていません。
しかしクルマの価格は、安全装備の充実などによって上昇しているため、予算が同じであれば購入可能は小型のモデルとなり、実用性の優れた5ドアハッチバックボディと相まって、スイフトスポーツは購入しやすいクルマだといえます。
動力性能はスープラやGT-Rに比べると圧倒的に低いですが、エンジンの吹き上がりは良く、操舵感は適度に機敏で、ボディが軽いために走行安定性も満足できます。
峠道などを運転するときの楽しさは、上級スポーツカーに劣りません。
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200万円前後で購入可能なスポーツカーとして、2000年頃であれば、トヨタのセリカや「MR-S」、日産 シルビア、ホンダ「インテグラ(1.8リッターモデル)」などのクーペがありましたが、それがいまではスイフトスポーツや軽自動車のホンダ「S660」になっているのです。
要は200万円前後で選べる運転の楽しい車種が失われ、クルマ好きのユーザーも減り、売れ筋車種は実用指向に偏っています。
ホンダ「N-BOX」やスズキ「スペーシア」などの軽自動車では、エアロパーツを装着したカスタムが好調ですが、この背景にも200万円前後で買える趣味性の強い車種の減少があるでしょう。
流行しているSUVの分野でも、トヨタ「ライズ」や「ヤリスクロス」、スズキ「ジムニー」など、200万円前後で購入可能なコンパクトな車種が人気です。
86/スバル「BRZ」の新型モデルや、フェアレディZの次期モデルの登場も発表されていますが、排気量アップや安全機能の装着といった高性能化により、これらの新型モデルが200万円という価格で発売されることはないでしょう。
どうして価格が200万円前後のスイフトスポーツ、コンパクトSUV、軽自動車のエアロモデルが売れるのか、メーカーはそこを研究して、この価格帯にコンパクトで楽しいクルマを投入すると、カーライフはもっと楽しくなると思います。
「200万円の商品開発」に期待したいです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。




































