レストアベースでも約5500万円で落札! ボンドカーは「DB4」「DB5」どちらが正解?

映画『007 ゴールドフィンガー』で「DB5」の代役をした「DB4」とは

 RMサザビーズ社のオフィシャルWEBカタログで、この1963年型DB4ヴァンテージ・サルーンの写真を一見すれば、「あれ、2台ともDB5じゃないの?」と、いぶかしげに思われる向きも多いことだろう。

 たしかに一見したところではDB5に酷似しており、ヘッドライトが露出した典型的なDB4のイメージからは外れていると思われても仕方があるまい。

 でも、このクルマは間違いなくDB4。DB5の誕生直前に、ごく少数が製作された「DB4シリーズ5ヴァンテージ」というモデルなのだ。後継モデルとなるDB5のプロトタイプのような存在であり、映画『007 ゴールドフィンガー』では、生産が間に合わなかったDB5の代役として登場している。

●1963 アストンマーティン「DB4 シリーズ5ヴァンテージ」

生産台数の少なさから、今後値上がりが期待されるアストンマーティン「DB4 シリーズ5ヴァンテージ」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's
生産台数の少なさから、今後値上がりが期待されるアストンマーティン「DB4 シリーズ5ヴァンテージ」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's

 1958年に「シリーズ1」がデビュー以来、DB4はほぼ毎年のペースで細部に改良が加えられていたが、とくに1963年から製作された最終型「シリーズ5」の高性能バージョン「ヴァンテージ」に限っては、伝説のレーシングモデル「DB4GT」と同じ流線型のフロントスタイルである、翌年登場したDB5以降にも採用された「カウルド・ヘッドライト」を選択できるようになっていた。

 それでも、少しだけ低くてスマートなルーフライン、およびそのルーフラインからトランクフードに収束するスムーズな造形は、DB4独自のもの。こと美しさという観点においてはDB5に勝るとする意見も多く、筆者もその見方に賛同する。

 さらに筆者が訴えたいのは、「DB」の名を冠したヒストリック・アストンといえば誰もが思い出す名車DB5に対して、いささか陰に隠れてしまう感もあるDB4だが、その走りの魅力は決してDB5に見劣りするものではないことである。

 むしろエンジンのストロークが短く、排気量がわずかながら少ないゆえに一気に吹け上がるエンジンフィールや、ていねいな操作さえ心がければカチカチと心地よい感触を示す、デーヴィッド・ブラウン社自製の4速マニュアルトランスミッション。

 また、DB5に比べるとDB4シリーズ5は、約120kgほど車両重量が軽いこともあり、車重の差よりもさらに軽く感じられるハンドリングも相まって、こと操縦する楽しさにおいてはDB5にも勝ると思われる。

 加えて、ある一定の回転域から爆発的に盛り上がるパワー感や、DB5よりも明らかに雄々しく、まるでDB4GTを連想させる豪快なサウンドは、あえてDB4ヴァンテージを「指名買い」するだけの理由になり得ると思うのだ。

 今回RMサザビーズ「LONDON」オークションに出品された1963年型DB4ヴァンテージ・サルーン・シリーズ5は、のちにDB4ベースに作られた「ヴァンテージ仕様」ではなく、メーカーオリジナルの「Special Series」高圧縮比ヘッド+3キャブのヴァンテージ266psエンジンを搭載した75台(ほかに諸説あり)のなかの1台とされる。

 ただし、もう1台のDB5サルーンと同じく、実質的には「レストアベース」といえるコンディションである。

 オークションの公式WEBカタログの写真を見る限りでは、ボディ表面上に目立つ傷みなどはなく、このまま乗り続けられそうにも映るが、おそらくこの種のクルマを求めるオーナーならば、再塗装を検討するであろうレベルにある。

 またインテリア、とくにフロント2席やカーペットには長年の使用感がはっきりと現れており、こちらは張替えすることが前提と思われる。

 そしてこのDB4ヴァンテージに、RMサザビーズ社は37万5000ー42万5000ポンド、つまり日本円換算で約5120万円ー約5800万円という、もう1台のDB5サルーンとまったく同等のエスティメート(推定落札価格)を設定した。

 このエスティメートを見た筆者は、以前ならば、DB5よりは若干ながらリーズナブルな価格で取り引きされる機会が多かったDB4ながら、やはりシリーズ5ヴァンテージであれば同等の評価を受けるようになってきた……?と考えていた。

 ところが実際の競売ではビッド(入札)が振るわなかったのか、残念ながら流札。39万ポンド(約5280万円)のプライスをつけて「Still For Sale(継続販売)」となっていたが、その後売買が成立したようだ。

 でも、この価格でDB5よりも遥かに希少なDB4ヴァンテージ・シリーズ5が手に入るならば、のちのちのレストア費用まで含めたとしてもリーズナブルと感じられてしまうのは、筆者が元クラシック・アストン屋だったからなのであろう。

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