商用車も軽が最強!? ピックアップトラック激減の裏で「軽トラック」が好調な理由
ピックアップトラックなのに荷物を載せない人が増加する訳
昔は1台の商用車をプライベートまで含めて使いましたが、いまは物価や所得に対してクルマの価格が下がり、複数の車両を所有することが可能です。そのために乗用車感覚のピックアップトラックを選ぶ必要性は薄れました。
またボンネットがないキャブオーバータイプも、背の高いボディながら走行安定性が向上して、高速道路を安心して走れるようになり、その結果、軽自動車から普通車まで、トラックの大半がキャブオーバータイプになったのです。
例外として、ボンネットを備えたピックアップトラックとしてトヨタ「ハイラックス」がありますが、日本で売られるボディは後席を備えるダブルキャブのみで、エンジンも2.4リッタークリーンディーゼルターボ、駆動方式は4WDに限られます。
最低地上高に215mmの余裕があるため、ピックアップトラックというより悪路向けのSUVという位置づけでしょう。価格も売れ筋の「Z」は387万6000円と高額です。
トヨタの販売店にハイラックスをどのようなユーザーが購入しているのか尋ねると、以下のような返答でした。
「ハイラックスを購入する人は、スポーツを楽しんだり、ファッションとしてドレスアップするお客さまが中心です。荷台に荷物を積んで仕事に使うお客さまはほとんどいません。
パーソナルカーとして使われることから、ボディコーティングなどを施工する人が多いです。
また、ディーラーオプションパーツでは、荷台に被せるソフトトノカバーや荷台を保護するベッドライナーなどが人気です。仮に荷物を積むとしても、荷台を傷つけないように、これらのパーツで保護するのです」
ソフトトノカバーの価格は18万7000円、ベッドライナーも10万円以上のパーツです。これらを装着して、荷台を大切に使っている人が多いようで、日本におけるピックアップトラックはもはや趣味の対象になり、ビジネスカーではありません。
そうなった理由は、前述の通りキャブオーバータイプの商品力が高まり、普及も進んだからです。とくに軽トラックの普及が著しく、2019年に新車で販売された43万台の軽貨物車のうち、18万台を軽トラックが占めました。
軽トラックが好調に売れる理由は、合理性が優れているからです。荷台長は前述の通り1940mmと長く、荷台幅も1410mmなので、軽自動車サイズでありながら十分な量の荷物を積めます。
軽自動車サイズのキャブオーバータイプだから、ホイールベースは短く、最小回転半径も3.6mに収まります。住宅街の裏道から、直角に曲がることが多い農道まで、運転しやすいです。
価格も安く、「キャリイKC」は73万5900円です。その一方で、衝突被害軽減ブレーキや各種の快適装備を乗用車と同等に充実させたグレードもあり、ニーズに応じて選べることも大切な特徴です。
そんな軽トラックですが、昨今はOEMが普及しています。キャリイは、日産、マツダ、三菱にも供給され、製造メーカーのスズキを含めると、国産自動車メーカー8社のうちの4社が扱っています。
ハイゼットトラックも、トヨタとスバルに供給され、製造するダイハツを含めて3社が販売。OEM関係を結ばないのはホンダのみで、同車は「アクティトラック」を製造販売していますが、2021年6月に終了する予定です。
そうなると軽トラックは、OEMを除くと実質的にキャリイとハイゼットの2車種のみということになります。
このようにOEMが増えた理由は、軽トラックは競争が激しく、その結果として価格も安くなったからだといえます。薄利多売の商品なので、大量に生産しないと採算が取れません。そこでOEMを利用して、同じクルマを複数のメーカーが販売しているのです。
以前はスバル、マツダ、三菱も軽トラックを自社生産していましたが、薄利多売の対応が困難になり、撤退しました。しかしラインナップがなくなると軽トラックの顧客が離れてしまうので、OEM車を導入して繋がりを保っています。
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ピックアップトラックには独特の魅力がありますが、なかでも軽トラックの実用性は抜群です。日本の物流に対する貢献度は、数ある自動車のカテゴリーのなかでも最強といえるでしょう。
機会があったら、軽トラックを運転してみると良いでしょう。小さなボディで小回りの利きが抜群に優れ、広い荷台を確保しながら、居住性も決して悪くありません。
超絶的な実用車なのに、運転していると何だか楽しい気分になってきます。軽トラックは、小さくても凄いクルマなのです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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