大開口で便利なのに… センターピラーがないクルマが普及しづらい事情
ダイハツとホンダ、マツダ以外のメーカーが取り入れない理由は?
ほかのメーカーがセンターピラー内蔵型を採用しない決定的な理由としては「メリットをあまり感じていないこと」も挙げられます。
たとえばN-BOXはスライドドアの開口幅が640mmですが、電動開閉機能があれば十分だと感じているユーザーも多いでしょう。手間とコストを要する内蔵型を採用するには、明確な理由が求められるというわけです。
軽商用車のN-VANには、採用する理由があります。N-VANは開発コストを抑えるために、N-BOXをベースに開発されたので、2名乗車時の荷室長は1510mmです。
エンジンを前席の下に搭載して、車内を広げたスズキ「エブリイ」の2名乗車時の室内長が1910mmであるのに比べると、荷室長は大幅に短いです。
この不利を挽回するため、N-VANは後席に加えて助手席も、床面へ落とし込むように畳める構造としました。乗員がドライバーのみのときは、運転席の周囲をすべて平らな荷室として使えます。
そこで、左側にセンターピラー内蔵型のスライドドアを採用したことにより、助手席側のドアを前後ともに開くと、開口幅がタントを上まわる1580mmに拡大され、ボディの側面からも荷物を出し入れできます。
たとえばたくさんの段ボール箱を積み降ろしするときなど、ワイドに開く側面とリアゲートを使えば、複数のスタッフによって作業を一気に進められます。
センターピラー内蔵型のスライドドアは、軽商用バンのN-VANだからこそ、切実に必要とされる機能です。
タントは以前から、子育て世代向けの軽自動車として開発されてきました。助手席を予め前側に寄せておけば、ワイドな開口部からベビーカーと一緒に車内へ入れ、雨天時などに便利です。
さらに現行タントでは、運転席に540mmの長いスライド機能も採用しました。運転席を後ろへ寄せて、助手席は前側にスライドさせておくと、運転席と後席を降車しないで移動できます。
ミラクルオープンドアからドライバーがベビーカーと一緒に乗り込み、子供をチャイルドシートに座らせた後、運転席へ移動するという使い勝手を一層便利にしました。
逆にいえば、このような機能を組み合わせないと、センターピラー内蔵型のスライドドアはメリットを発揮できません。
車両のコンセプトやターゲットユーザーを考えて、本当に必要な場合だけ装着します。そうなると採用する車種も限られるというわけです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
初代オデッセイは、スライドドアではなく、ヒンジドアです。
このたびはご指摘をいただき、誠にありがとうございます。
修正いたしました。