なぜレクサスはメルセデス・ベンツを抜けない? 高級車販売で差が付く明確な違いとは
SUVとセダンで異なる顧客層とは?
レクサスとメルセデス・ベンツでは、コンパクトで価格の割安な車種にも違いがあります。レクサスは5ドアハッチバックの「CT」を用意しますが、登場したのは2011年と古いです。

メルセデス・ベンツでライバルとなる「Aクラス」は、2018年に現行型を日本で発売。2019年の登録台数は、Aクラスが1万1197台で、CTは約900台にとどまります。
レクサスやメルセデス・ベンツがコンパクトな車種に力を入れ過ぎると、ブランドの安売りになって悪影響が生じることも考えられますが、ユーザー層を広げるうえで5ドアハッチバックは大切な役割を担っています。
一方レクサスでは、セダンやハッチバックが低迷する代わりにSUVは好調です。コンパクトな「UX」は、2019年に約1万5000台を登録しました。1か月平均で1200台を超えます。
ミドルサイズSUVの「NX」は、登場が2014年と古いですが、2019年には1万3000台以上を登録しました。これも1か月に1000台以上です。「RX」も2019年には1万台弱を登録したので、昨今のレクサスはSUVが中心の売れ方です。
SUVとセダンのユーザー層の違いについてもレクサスの販売店に尋ねました。
「今はSUVの人気が高く、レクサスでも、NX、UX、RXが好調に売れています。そしてSUVは比較的新規のお客さまが多く、セダンは長年にわたってレクサスを愛用されるお客さまが目立ちます」
SUVは人気のカテゴリなので、新規顧客も多く、短期間で売れ行きを伸ばしやすいです。その代わり次のクルマに乗り替える時に、ブランドを変えることも少なくありません。
魅力を感じる対象が、レクサスやメルセデス・ベンツというブランドよりも、NXや「GLC」といった車種になることが多いためです。
それに比べると、セダンの顧客はブランドに愛着を持つことが多く、他社に乗り替えにくいです。このようなSUVとセダンの顧客動向の違いは、メルセデス・ベンツやBMWの販売店からも聞かれます。
好調な売れ行きを保つには、ユーザー層を広げる割安な5ドアハッチバック、大量に販売しやすい人気カテゴリのSUV、ブランドに愛着を持つ顧客が長年にわたり乗り続けるセダンやワゴンが必要です。
これらを偏りなく定期的にフルモデルチェンジしないと、新規顧客を取り込み、なおかつ乗り替え需要を守ることは難しいです。
メルセデス・ベンツとレクサスの間には、ヤナセの取り扱いを含む歴史の違いもありますが、商品ラインナップのバランスとフルモデルチェンジの仕方が異なります。
メルセデス・ベンツは、5ドアハッチバックのAクラス、「Bクラス」、セダンとワゴンのCクラス、Eクラス、上級セダンの「Sクラス」に加え、SUVまで豊富なラインナップをそろえ、「CLA」や「CLS」のような個性派も選べます。しかも設計の古い車種は少なく、積極的に新型車を投入しています。
レクサスも新しい車種をそろえる必要があるでしょう。
そしてレクサスはトヨタのブランドですから、国内市場の動向を熟知していることから、店舗の展開、顧客サービスなどで、メルセデス・ベンツとは違う強みを発揮することも可能でしょう。
今後の「日本のレクサス」に期待したいです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

































