なぜ乗用車事業は海外だけ? トラック色強い「いすゞ」 日本で乗用車を販売した過去も

日本ではトラックのイメージが強い自動車メーカーのいすゞですが、海外ではピックアップトラックやSUVなどの乗用車も販売しています。国内では乗用車を販売せず、海外で販売し続ける理由は何なのでしょうか。

ディーゼルエンジン技術と新興国のニーズで人気メーカーへ

 小型トラック「エルフ」や大型トラック「ギガ」など、さまざまな商用車を製造・販売しているいすゞですが、かつて国内では乗用車も販売する総合自動車メーカーでした。一方で、海外市場では現在でも乗用車を販売しているといいます。

かつて国内で販売されていたいすゞ「ベレット1600GTR」
かつて国内で販売されていたいすゞ「ベレット1600GTR」

 1916年に創業したいすゞは、国内自動車メーカーのなかでは最古の歴史を誇っています。1953年に英国ルーツ社との提携により、ヒルマン乗用車(ヒルマン・ミンクス)を製造・販売したことから乗用車事業に乗り出しました。

 その後、「ベレット」や「117クーペ」といったモデルからSUVでは「ビックホーン」や「ミュー」をラインナップしていましたが、国内における乗用車の販売台数は伸び悩み、1992年に乗用車の開発を中止、2002年には国内乗用車販売を中止しています。

 一方、海外では現在も乗用車を販売し続けています。国内で売上を伸ばせなかったものの、海外では販売を続けることができている理由は、どこにあるのでしょうか。

 いすゞが海外で製造販売する乗用車は、ピックアップトラック、SUV、AUVという3つのタイプが中心です。日本ではあまり聞きなれないAUVとは「アジアン・ユーティリティ・ビークル」とも呼ばれ、主にアジアで展開される多目的車です。

 現在、いすゞは26の国に海外関連会社を展開しています。ほとんどはトラックを製造、販売していますが、中国、タイ、そしてヨーロッパの一部では乗用車を生産する工場があります。

 海外関連会社の数は、もっとも多い中国が9つ、さらにタイにも8つの関連会社が展開し、販売されている乗用車も東南アジア向けのものが少なくありません。

 また、いすゞは国内において、トラックやバスなどの商用車を主力ラインナップとしていることから、ガソリンではなく軽油を使用するディーゼルエンジン技術に優れています。

 その技術力は世界トップレベルにあり、近年は日本のバイオベンチャー企業「ユーグレナ」とともに、ミドリムシ由来の次世代バイオディーゼル燃料の実用化に取り組んでいます。

 ディーゼルエンジンは、国内では「黒煙が多い」「大気汚染物質をまき散らす」などのマイナスイメージから1990年代末から2000年代初頭にかけて厳しい規制がかけられるようになりました。

 しかし、ガソリンエンジンに比べて大きなトルクを得られることや、価格の低い軽油を使用できるなどのメリットがあります。

 新興国の多い東南アジアでは、郊外などでは道路が舗装されていない地域が珍しくありません。そのため、丈夫で壊れないディーゼルエンジンや、頑丈なピックアップトラックは人気があります。

 いすゞによると、タイでは国内を走るクルマの6割がピックアップトラックで占められているとのことです。

 また、こうした東南アジアでのピックアップトラックの人気に着目し、いすゞが乗用車販売を進めた背景には、当時資本提携していたゼネラルモーターズ(GM)の意向もありました。

 現在タイで販売されているいすゞのピックアップトラック「D-MAX」は、GMと共同開発によってスタートしたモデルであり、GMではシボレーブランドから「コロラド」という車種として販売されていました。

 こうした商用車で培ったディーゼルエンジン技術や、他車との共同開発によって、いすゞは東南アジアでは「頑丈なクルマをつくるメーカー」として認知されるようになったのです。

 とくに、タイにおいてD-MAXはタイの若者からも人気が高く、所有することは一種のステータスと考えられるほどヒット車種となっています。

【画像】海外のいすゞが格好良い! D-MAXをささっと見る!(28枚)

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