「ボクサー」と呼ばれる水平対向エンジン なぜポルシェとスバル以外のメーカーは作らないのか

メリットも多いがコスト面などデメリットもある

 水平対向エンジンの存在を多くの人に知らしめたのは、スバルだ。

スバル「EJ20」型水平対向4気筒エンジンのカット図
スバル「EJ20」型水平対向4気筒エンジンのカット図

 1966年5月、日本の量産エンジンとして初めて水平対向4気筒を積んだ「スバル1000」を送り出している。スバルは中島飛行機をルーツとする自動車メーカーだから、慣れ親しんだ航空機用の星形エンジンと共通項の多い水平対向エンジンに注目し、開発に着手したのかもしれない。同じ歴史を持つ、「スカイライン」を生んだプリンス自動車も、同じ時期に水平対向エンジンを開発し、試作していた。

 水平対向エンジンの魅力は、V型6気筒エンジンなどのマルチシリンダーと同じように回転バランスに優れ、振動も少ないことだ。向かい合ったピストンが対になって動くとともに180度反転する。

 だから理論的には振動を打ち消すことができ、2気筒や4気筒でもバランサーを必要としない。クランクシャフトを中央に配置することによりケース剛性を高められるのも美点のひとつだ。

 また、同じ気筒数ならば直列エンジンより全長と全高を低く抑えることができる。当然、重心は低くなるし、左右対称だから重量バランスも良いなど、スポーツモデルにはメリットが多い。

 ハンドリングや安定性の向上を期待できるから、ポルシェやスバルは現在も採用し続けているのだろう。エンジン高を低くできることは、衝突時にエンジンをフロア下に落としやすいから安全性においても有利に働く。

 ただし、デメリットもある。生産性やコスト面において、水平対向エンジンは直列エンジンより不利だ。

 カムシャフトなどの数は増えるし、排気系の取り回しにも制約が出る。排気系の効率を高めようとなると、邪魔になるオイルパンはレーシングエンジンのようにドライサンプにしなければならない。また、横方向に広いエンジンだから補機類の収納にも苦労させられる。その構造上、オイル漏れなどのトラブルも出やすい。

 また、横方向にエンジンが広いから、コンパクトカーに搭載しようとすると設計に苦労させられる。FF車だとステアリングの切れ角も制約され、取り回し性は悪くなりがちだ。

 設計レイアウトに苦しめられ、シャシやトランスミッションまでも専用設計になるため生産コストも高くなる。今の時代はC02削減のための燃費向上にも水平対向エンジンは向いていない。だからポルシェとスバル以外の自動車メーカーは、手を出さないのである。

ポルシェ992型「911カレラ4S」
ポルシェ992型「911カレラ4S」

 だが、クルマ好きにとって水平対向エンジンは魔性のパワートレインだ。

 排気サウンドは個性的だし、パワーフィールも独特で、味がある。とくにマルチシリンダーのボクサーエンジンは、他のエンジンにはない魅力を持ち、官能の世界へと誘う。だから何台も乗り継ぐ熱狂的なマニアが、ポルシェとスバルには多いのだろう。これは2輪車の世界にも当てはまる。

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