ディフェンダーは農民の味方だった! 元祖ランドローバーの誕生秘話物語

2019年に70年近い歴史のなかで初めてとなるフルモデルチェンジを遂げたランドローバー「ディフェンダー」。ディフェンダーがどうしてそれほど長い期間愛され、作り続けられてきたのか、ランドローバーが生まれるきっかけとなったエピソードから紐解いていこう。

国策として外貨獲得のために生まれたランドローバー

 2019年に史上初のフルモデルチェンジが図られ、2020年4月から日本国内でも正式リリースされたランドローバー「ディフェンダー」。その歴史は、第二次世界大戦が終結した直後、1948年にデビューした、その名も「ランドローバー」まで遡ることができる。

ディフェンダーは、1948年から2018まで、70年にわたって生産された
ディフェンダーは、1948年から2018まで、70年にわたって生産された

 ランドローバー誕生前夜の英国は、第二次世界大戦の戦災による生産体制の損害、そして戦勝国であっても不可避であった莫大な戦費支出によって、深刻な経済危機に直面していた。

 そこで、ウィンストン・チャーチル首相の率いる政府は、事態を打開するために「あらゆる工業生産を外貨獲得のための輸出に振り向ける」という新政策を打ち出す。

 当然のことながら自動車産業に対しても海外、ことにアメリカ合衆国への輸出を優先した新車開発を推奨。鉄鋼などの資材も、輸出向け生産に優先的に割り当てられることが決定した。

 戦前以来の名門中型車メーカー、保守的ながら上質なサルーンづくりを本分としていたローバー杜は、おりしも本社工場を創業以来のコヴェントリーから近郊のソリハルへと移し、生産能カを大幅に向上させたばかりの時期だった。

 輸出を最優先事項とする政府の決定は、それまで英国内マーケットを主な市場としてきたローバー社にとっては、まさに「青天の霹靂」ともいうべきものだったに違いない。

 ソリハルの新工場は、年間2万台の生産を可能とするだけの体制を備えていたにもかかわらず、それまで国内需要偏重で輸出実績の乏しかったローバーに政府から割り当てられた生産資材は、年間わずか1000台分に過ぎなかったというのだ。

 ここへきて危機感を覚えたローバー社幹部たちは、急遽輸出に好適な新型車の開発に取り組まなければならなくなった。そして最初に彼らが考えたのは、まずは灰燼に帰したヨーロッパ大陸で復興の交通手段となることを期した超小型車だった。

 そこで、わずか699.2ccの二座席コンパクトカー「M1」を開発し、実走可能なプロトタイプまで製作された。

 ところが、北米を中心とする輸出市場では、700cc足らずの耐乏型マイクロカーでは、古き良き英国を代表する良識派の中型車メーカーであるローバーのイメージから乖離してしまうとの判断がなされ、ローバー社の輸出増新プロジェクトはいきなり暗礁に乗り上げることになった。

 しかし、この時代にローバー社最高幹部の地位にあったウィルクス兄弟は、ひょんな会話を契機に以後のローバー社の方向性を決定する、実に秀逸なアイデアを獲得することになる。

 当時、ローバー社で技術担当重役の地位にあった弟モーリス・ウィルクス氏は、いかにも上流階級に属する英国人らしくカントリーライフを愛する人物であった。

 そして、いわゆる「カントリージェントルマン」として、ウェールズに近いアングルシー島に広大な農地を所有しており、そこで使用する農作業用トラックとして、第二次大戦後に軍から放出されたアメリカ製ジープを愛用し、その実用性を大いに評価していた。

 しかし「大量生産した車両を消耗品として使用する」というコンセプトのもと開発された軍用ジープは、不可避的に慢性的なパーツ不足を抱えており、もし英国内で重篤なトラブルが発生すれば、放棄を余儀なくされてしまうものだったのである。

●兄弟の日常会話から生まれた歴史的名作

 そんなある日、モーリスの農場を訪ねていたローバー社の会長である兄スぺンサー・ウィルクス卿は、「このジープが壊れて乗れなくなったらどうする?」と訊ねた。その屈託のない問いかけに対して、モーリスはこう答えたという。

「こいつはさっさと捨てて、また放出品のジープを探すさ。これに代わるような便利なクルマも無いしね……」。

 ランドローバーファンの間では、もはやすっかり有名になっているこのエピソード。今となっては真偽のほどは明らかではないのだが、このときの雑談にヒントを得たとされるウィルクス兄弟は、小型軽量で応用性の高い4WDヴィークルの可能性に着目。

 さっそくローバー社の本拠ソリハルに戻って、1930年代からローバー社技術陣を率いていた敏腕エンジニア、ゴードン・バシュフォードに開発オペレーションを指示することになったのである。

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