フォード「マスタング」55年ぶり新車種で電気SUVに変身!? なぜ有名アメ車はクーペを捨てたのか
SUVの「マスタング」を出しても大丈夫? 過去にあった失敗例とは
マスタング マッハEのライバルはズバリ、テスラ「モデルY」です。中型EV「モデル3」をベースとしたクロスオーバーモデルとして、2020年に量産化が計画されているクルマです。価格は3万9000ドル(1ドル108円計算で、約421万円)としています。
一方、マスタング マッハEも2020年に発売予定で、価格は4万3895ドル(約474万円)。出力は330馬力相当の四輪駆動車です。搭載するリチウムイオンバッテリーの容量はベースモデルが75.7kwhで、上級グレードでは98.8kwhとなり満充電での航続距離は300マイル(約480km)に達します。
日本も含めて世界的には、EVはまだまだマイナーな存在です。2018年のEV総販売台数は121万台で、自動車需要全体でみると1%に届きません。
しかし、近年は中国での新エネルギー車(NEV)政策による、自動車メーカーに対する事実上のEV販売台数義務化の影響で、中国を中心にEV需要は伸びてはいます。そのほかにも、アメリカでもカリフォルニア州でのゼロエミッション車(ZEV)規制により、ある程度の数のEV需要があります。
そうしたなかで、テスラを筆頭に、最近ではジャガー「I-PACE」なども含め、プレミアム系EVの需要が徐々に拡大してきました。こうしたトレンドに、フォードも一気に乗ろうというのです。
また、マスタングのイメチェンには、ほかにも理由があります。それが、フォードが進めている車体(プラットフォーム)の再編です。フォードは、ピックアップトラックなど現在は20近くあるプラットフォームを近年中に5つ程度までに絞り込む予定です。
次期マスタング用のプラットフォームは中型セダンなど共有されるため、マスタング マッハEのようなクロスオーバーの開発も可能となったようです。となると、マスタングのほかのモデルとして、これまで通りのクーペモデルが登場する可能性は十分にあります。
ただし、マーケティング戦略が先行して、フォードの貴重な資産であるマスタングブランドを幅広く使い過ぎてしまうことに、懸念を示す自動車業界関係者もいます。
似たような事例として、過去に日本市場で発売された日産「スカイライン クロスオーバー」があります。スカイラインブランドとの整合性が弱く、商品のインパクトが弱まってしまいました。
スカイライン クロスオーバーの原型は、アメリカなどで発売されたインフィニティ「EX」です。
同車がアメリカで発売される前、筆者はデトロイトで日産関係者らと意見交換をしたのですが、日本でのインフィニティブランド導入を含めてさまざまな議論がありました。結局、日本国内でのマーケティング戦略の一環としてスカイライン クロスオーバーと名付けられました。
マスタング マッハEは、スカイライン クロスオーバーとは、時代背景だけでなくメーカー内の事情も違うのですが、ひとつ間違うと、これまで積み上げてきたブランドイメージを損なう危険性もあるのではないでしょうか。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
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