トヨタの敵はトヨタ? 他社を圧倒する新車シェア率を誇れる理由とは

今後は「トヨタの敵はトヨタ」が無くなっていく?

 RAV4はSUVの原点に回帰する魅力もあり、注目を浴びてC-HRの顧客を奪いました。2018年に20年ぶりのフルモデルチェンジをはたしたジムニー/ジムニーシエラも、SUVの原点回帰を求めるユーザーの間で人気を高めています。

 そしてRAV4に顧客を奪われたC-HRも、過去には別のトヨタ車のユーザーを奪った経験があります。C-HRが2017年に1か月平均で1万台以上を登録したときは、現行「プリウス」の売れ行きが大幅に減ったのです。対前年比で35%の減少でした。

 さらに遡ると、現行プリウスもトヨタのコンパクトカー「アクア」の顧客を奪っています。2013年から2015年の小型/普通車の登録台数1位はアクアでしたが、2016年にフルモデルチェンジを受けた現行プリウスが1位になり、アクアは2位に後退しています。この年のアクアは対前年比が22%のマイナスです。

 このように今の小型/普通車市場の販売上位は、新旧のトヨタ車だけで入れ替わっていることも多いです。高人気の背景には、メーカーの商品開発力と併せて、販売店の系列化もあるでしょう。

 ほかのメーカーは2010年までに系列を撤廃して車種数も減りましたが、トヨタは今でも東京地区以外は系列化されています。プリウス、アクア、C-HRなどは全店が扱いますが、RAV4はトヨタカローラ店とネッツトヨタ店のみです。

全トヨタ車を扱う都内のトヨペット店
全トヨタ車を扱う都内のトヨペット店

 系列があるために、トヨタは同じカテゴリーに複数の車種をそろえ、売れ行きを伸ばしました。ユーザーはトヨタ車のなかから、用途や予算に応じて複数の車種を選べる自由があります。

 販売系列間では、トヨタ同士の競争も生じます。ユーザーの選べる自由と販売会社の競争が、ユーザーの利益に結び付いてトヨタの強みになりました。

 しかし今後はどうなるか分かりません。2020年5月には、東京地区に続いてほかの地域でも、トヨタの全店が全車を扱う体制へ移行するからです。

 トヨタにはメーカーの資本に頼らない地場資本の販売会社が多く、4つの系列は残りますが、全店が全車を扱うと実質的に系列の意味は薄れて形骸化します。

 そしてヴォクシー/ノア/エスクァイアのような姉妹車は不要になり、ミニバン人気の火付け役ともいえる「エスティマ」が廃止されて「マークX」も2019年中に終了します。

 販売系列ごとの専売車種があると、販売店の財産だから廃止は困難ですが、全店が全車を扱えば廃止も可能です。このように国内で売られるトヨタ車の車種数を半減させて、合理化する方針です。

 こうなるとすべての販売会社が同じ車種を扱うので、同じ地域内では、販売会社同士の過当競争が激化します。その一方で車種数が減ると、「C-HR 対 RAV4」のような車種同士の競争は生じにくくなります。

 直近では、「ヤリス 対 アクア」のような新たな競争関係も生まれますが、今後「ヤリスがあればアクアは不要」といった判断をされると、1カテゴリーに1車種の品ぞろえに集約され、トヨタ車同士が競うトヨタの強みが薄れ、次第にほかメーカーと同じようになる心配があります。

「販売系列をなくせば、全店で全車を買えるから便利」といわれますが、別の見方をすると、1つの店舗で扱える車種数には限りが出てくるのです。

 つまり全店が全車を売る本当の目的は、車種数を減らすリストラです。その結果、日産は、軽自動車「デイズ/デイズルークス」、コンパクトカー「ノート」、セレナ、エクストレイルの5車種だけで、国内で売られる日産車の約70%に達します。

 仮に日産に専売車種を含めた系列が残っていたら、この販売状況では販売会社が成り立ちません。以上のように考えると、全店が全車を扱う方針は、後ろ向きの市場戦略であることが分かるでしょう。

 小型/普通車を愛用する人達のために「トヨタの敵はトヨタ」であり続けて欲しいと思います。

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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2件のコメント

  1. トヨタの自動車単位なら大した車なんて無いのにね、市場を甘く診た証しにトヨタはレクサス拠点を都心中心に展開しただけだし、これが輸入車に追い付けない理由だろうね。
    メルセデスにしても地方の国道など平均に散らばって店は配置されてるし敷居だって高くない、もはや車選びではなく税制選びの後ろに車が付いてくる時代なので製品云々は完全に蚊帳の外の話なんだろうね。
    輸入車ですらトヨタ生産方式に因んだ生産方法で乗り手に何を届けたいかが不明な時代に自分で運転制御する価値観は衰退する一途だろうね

  2. シェア率=市場占有率率

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