高速道SAPAの忘れ物に効果絶大? トイレに「巨大カギ」を設置した理由とは

高速道路のSA・PA(サービスエリア・パーキングエリア)では、日々多くの忘れ物が発生しています。とくにトイレの個室内での忘れ物が多いといいますが、そんななか、トイレでの忘れ物を減らす画期的なアイテムが開発されたといいます。いったいどんなアイデアなのでしょうか。

巨大な個室トイレのカギがもたらす意外な効果とは

 上下線合わせて1日に数万人が訪れる高速道路のSA・PA(サービスエリア・パーキングエリア)では、毎日多くの忘れ物が発生しています。とくに多いのがトイレの個室内で、忘れ物として携帯電話と財布が同じくらい多いとのことです。

 そんななか、これらの忘れ物を防止する画期的な「忘れ物防止トレイ」が話題になっています。いったい、どんなものなのでしょうか。

一部のSA・PAに設置されている「忘れ物防止トレイ」
一部のSA・PAに設置されている「忘れ物防止トレイ」

 筆者(加藤久美子)が、今年(2019年)8月半ばに山口県の実家へクルマで帰省する途中のこと。山陽自動車道奥屋PAのトイレに入って鍵を掛けようとしたとき、その鍵がとても大きいことに気づきました。「大きなカギだなあ」と思って左に回してみたら、なんと鍵だと思っていたプレート状のものは、「小物を置くトレイ」でした。

「小物置き Accessories Tray」と書かれたプレートには耐荷重1kgと記されており、スマホや財布のイラストが描かれていました。プレートのデザインは、高速道路ICの標識と同じ緑色で雰囲気も似ています。遊び心もあり、なによりアイデアが素晴らしいです。
 この上にお財布や携帯電話を置いておけば、トイレから出るときに必ず鍵を開けるわけですから、絶対に忘れることはありません。

 筆者がよく利用する東名高速道路や新東名高速道路のSA・PAでは見かけたことがなかったので、NEXCO西日本が開発した画期的なアイデアグッズかと思ったのですが、その後、何か所か訪れたNEXCO西日本管轄のSA・PAでは、同様のカギに再会することはありませんでした。

「このトレイは忘れ物防止に絶大な効果をもたらしているに違いない」と思い、調べてみたところ、トレイを開発したのはなんと、NEXCO西日本でもNEXCO中日本でもなく、山陽自動車道から遠いNEXCO東日本北海道支社の室蘭管理事務所であることがわかりました。

 東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)北海道支社総合企画部広報課の担当者に、開発に至った経緯を聞きました。

――素晴らしく画期的な忘れ物防止トレイですが、開発のきっかけは?

 忘れ物を確実になくすために「トイレでの一連の動作のなかで、利用者全員が『最後に鍵を開ける』こと」に着目し、カギに荷物棚を設置することを考えました。高速道路のSA・PAでは、大きな荷物を持つというより、スマホや財布のみを持って利用されるお客さまが多いのです。

 事実、トイレの個室内の忘れ物も小物類が約6割を占めていました。そこで、スマホや財布(長財布)を安定して乗せられる大きさが必要と考え、現在の大きさに決定しました。プレートの素材はSIAA(抗菌製品技術協議会)認証の抗菌仕様となっており、指紋が付きにくい仕上げになっています。

――現在の形になる前に、なにかほかにアイデアはあったのでしょうか?

 当初は試作品として樹脂製(プラスチック製)・ステンレス製を作成しましたが、サービスエリアに試験設置し、経過観察中に不具合が出てしまいました。樹脂製(プラスチック製)は素材が柔らかくトレイが根本から割れてしまい、ステンレス製は素材が重すぎて鍵にガタツキが生じてしまいました。

 そこで、比重が小さいアルミ製を試作したところ一定の効果が得られたためアルミ製に決定したという経緯があります。決定に至るまでの課程では20万回の鍵の開閉試験を行ったのですがこちらも見事クリアできました。

「忘れ物防止トレイ」設置後の忘れ物件数はどうなった?

――どこに設置されていますか?
 北海道内ではいずれも道央道で【八雲PA(上下集約で1か所)、静狩PA(上下線)、豊浦噴火湾PA(上下線)、有珠山SA(上下線)、本輪西展望所(上り線)】の8か所に設置しています。北海道外では、【山陽自動車道奥屋PA(上下線)、徳島自動車道池田PA(下り線)、北陸自動車道南条SA(下り線)】の4か所になります。

一部のSA・PAに設置されている「忘れ物防止トレイ」
一部のSA・PAに設置されている「忘れ物防止トレイ」

――具体的にどのような効果があったのでしょうか?

 2018年8月10日から2019年3月31日の最新データ(室蘭管理事務所管内)は以下となります。設置前後の件数は、前年同時期で比較をおこなった結果です。

●設置前:合計54件(携帯電話22/財布23/鍵1/そのほか小物8)

●設置後:0件

 継続して色々な企業さまからお問い合わせをいただいておりまして、弊社の内部でも現地スタッフから「全然忘れ物がなくなって楽になった」と好評です。忘れ物の問い合わせへの対応や、忘れ物があるかどうか探しに行くなどの職員の対応時間も、3分の1近くに減りました。

※ ※ ※

 一方、NEXCO東日本では、「トイレ忘れ物防止システム」が関東圏のSA・PAに試験設置しています(常磐自動車道 守谷SA(上り線)と東北自動車道 蓮田SA(上り線)。

 これは、棚の両端にセンサーがあり、バッグやスマホ、財布など物を置いたままで個室の扉を開けて出ようとすると、その場で「お忘れ物はありませんか」の音声アナウンスが流れて、トイレ利用者に知らせる機能です。確実に忘れ物を感知するために赤外線センサーを採用し、形や色もトイレ内で違和感のないものにしています。

 このほか、NEXCO中日本では個室トイレに入った人や物のシルエットから“異変”を検知する人工知能(AI)搭載の「アウトラインセンサー」の試験導入も開始しています。

天井に設置したセンサーが人や物の動きをシルエットで検知し、アウトライン(輪郭)により前後の差を推定します。AI分析を採用することで、読み取り精度の向上が見込めること、カメラのように画像ではなく輪郭だけを読み取るためプライバシーの確保も問題ありません。

 いずれも現在は試験的に設置されていますが、忘れ物防止トレイのように劇的な効果が得られると良いですね。

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Writer: 加藤久美子

山口県生まれ。学生時代は某トヨタディーラーで納車引取のバイトに明け暮れ運転技術と洗車技術を磨く。日刊自動車新聞社に入社後は自動車年鑑、輸入車ガイドブックなどの編集に携わる。その後フリーランスへ。公認チャイルドシート指導員として、車と子供の安全に関する啓発活動も行う。

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