あおり運転の知られざる原因!? クルマのデザインが「怒り顔」になった理由とは
クルマの世界も弱肉強食!? 怒り顔がドライバーに与える影響とは?
メルセデス・ベンツやBMW、アウディなどは、フロントマスクで明確なブランド表現をしています。しかもその表現の仕方は、近年エスカレートしてきました。

例えばメルセデス・ベンツの場合、かつてのセダンは緻密にデザインされたメッキグリルの上に、小さなエンブレムを立てるのが伝統的な手法でした。グリルの中に大きなエンブレムを収める形状は、空気抵抗を軽減させたいスポーツカーの「SL」だけが使っていました。
それがいまでは、緻密なメッキグリルはほとんど使われず、セダンからSUVまで大きなエンブレムをグリルの内部に収めています。
これはメルセデス・ベンツの世界的な戦略とされますが、いかにも「ベンツだぞ!」というデザインには、販売店からも疑問の声が聞かれます。
メルセデス・ベンツの販売スタッフは、次のようにいいます。
「個人的には、最近のメルセデス・ベンツのエンブレムは、ちょっと目立ちすぎだと思います。グッチとかルイ・ヴィトンのロゴを大きくプリントしたTシャツみたいな感じで、ひけらかしている印象が強いです。
お客様のなかにも、従来のグリルに変えられないかという要望がございます。
以前は車種によって変更できるものもありましたが、いまは難しいです。というのも、グリルの内側には、緊急自動ブレーキなどの各種センサーを収めているからです。
センサーの役割を果たしているので、単純にグリルだけを交換することはできないのです」
メッキグリルの上に小さなエンブレムを立てると、歩行者と接触した時に加害性が生じるといいますが、高級車の「Sクラス」や「マイバッハ」はいまでも立体エンブレムを踏襲しています。Sクラスやマイバッハが歩行者保護を軽視しているはずはなく、矛盾が生じます。
いまの各メーカーやブランドの顔立ちは、統一された表現をしながら、競うように目を吊り上げた怒り顔にするなどインパクトを強めています。
以前はフロントマスクが穏やかだったアウディも、2000年代に入ると開口部を大きく見せる「シングルフレームグリル」を採用しました。
極端ないい方をすれば、前走車のルームミラーに映ったときにインパクトがないと、道を譲ってもらえないなどの不都合があり、クルマの売れ行きにも影響を与えるのです。そこで世の中のクルマが全般的に怒り顔になったというわけです。
これは、弱肉強食的な世界観でもあるでしょう。存在感の強い怒り顔で、前方の車両に道を譲らせながら、自分は追い越し車線を突っ走る感覚です。
昨今の状況を考えると、あおり運転を連想します。あおり運転をするのが怒り顔のクルマとは限らず、問題があるのはもちろんドライバー自身ですが、弱肉強食的な世界観とデザインが与える心理的な影響も皆無ではないと思います。
自動車メーカーは、クルマとドライバーの心理を、脳科学の観点も踏まえて多角的に研究しています。例えばアームレストなど内装の肌触りは、赤ちゃんの肌と同等の摩擦にするとリラックスできるとか、スイッチを押した時の感触なども含めて多岐にわたります。脳波や心電図でスタッフを測定しながら、心身ともに最良の状態で運転できる開発を進めています。
そうなると安全の観点から、クルマのデザインが、ドライバーの運転に与える影響にも力を入れて研究すべきでしょう。道を譲らせながら走る弱肉強食的な運転は、危険に繋がるからです。逆にドライバーに優しい運転をさせるデザインがあれば、安全性も高められるといえます。
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優れた安全装備が採用されていても、運転の仕方が乱暴では意味がありません。ドライバーに優しい運転をさせるデザインが確立されると、交通事故の防止に一層の効果が上がるのではないでしょうか。
フロントマスクなどクルマの外観は、機能の表現でもあります。優しい運転をさせるデザインは、造形にとどまらず、優しく運転できるクルマ造りに結び付きます。
街中を走るクルマに怒り顔が減り、優しいクルマが増えると、安心して暮らせる街づくりにも繋がると思います。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。


































