日本で一番売れてるクルマ「N-BOX」の成功がホンダに及ぼす影響とは?

広い室内空間とファーストカーとして使える車格

 その特徴は、初代「N-BOX」の開発主査であった浅木泰昭氏の言葉に表れています。

軽自動車ながら広い室内空間を持つホンダ「N-BOX」

「サイズが決まっているのなら、技術力で驚きの空間を創出してみせよう。排気量が決まっているのなら、技術力で圧倒的な走りと燃費を両立してみせよう」と生み出されたのが、Nシリーズのプラットフォームでした。

 それを使った「N-BOX」は、「広さという普遍的価値を前面に押し出し、軽自動車サイズにHondaミニバンの魅力を凝縮。ファーストカーとして、幅広いお客さまに親しんでいただけるクルマに仕上げた」といいます。

 つまり「N-BOX」には、軽自動車として最大限の室内空間とファーストカーとして使える車格感が与えられたのです。ポイントは「広い室内空間」と「ファーストカー」の2つ。この2つが、世間のニーズであり、それにライバルに勝るほどの価値で応えた。だからこそ、「N-BOX」が売れたといえます。

 技術的に見れば、Nシリーズのプラットフォームは、前席の下に燃料タンクを納めているのが特徴です。また、ホンダには古くから「マン・マキシマム&メカ・ミニマム(通称:M・M思想)」という考えがあります。人の空間を最大にして、メカニズムは最小にしようという技術的な姿勢です。サイズの上限が決まっている軽自動車というレギュレーションの中で、人の居住空間を大きくしてメカニズムを小さくするというのは、ホンダの得意とするところだったのです。

「N-BOX」の成功がホンダに及ぼす影響

 ホンダにとって「N-BOX」の成功は願ってはいたことでしたが、ここまでの大ヒット作になると最初からわかっていたはずはないでしょう。

 あくまでも「N-BOX」はNシリーズのひとつで、「N-ONE」「N-WGN」「N-BOXスラッシュ」といったバリエーションがあり、さらに2018年7月には初の商用モデル「N-VAN」も加わって、どんなニーズにも応えられるようになっています。

 ただ、現状では「N-BOX」ばかりが売れており、他のNシリーズの売れ行きがもうひとつというのは残念なところです。

 ちなみに軽自動車の利益率は、それほど高いものではありません。しかし、ホンダにとって軽自動車は、自動車ビジネスをスタートした原点。また、日本市場だけで考えると、ホンダのビジネスは軽自動車抜きでは考えることはできません。

 もしも軽自動車をやめると、ホンダの国内生産能力が余ってしまって、工場を閉鎖しなくてはならないという最悪のシナリオも予想されます。ホンダは軽自動車ビジネスから逃げるわけにはいけなかったのです。

 ホンダの国内ビジネスにとって重要な軽自動車。「N-BOX」は大ヒットしていますがいつまでも一本足打法では、世間の風向きが変わると辛くなります。ホンダの軽自動車にもそろそろ新しい話題が欲しいところです。

【了】

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Writer: 鈴木ケンイチ

1966年生まれ。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。特にインタビューを得意とし、ユーザーやショップ・スタッフ、開発者などへの取材を数多く経験。モータースポーツは自身が楽しむ“遊び”として、ナンバー付きや耐久など草レースを中心に積極的に参加。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを、分かりやすく説明するように、日々努力している。最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。

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