ハイエースのライバル? 韓国・KIAの新型「商用バン」どんなモデル? 仕上がりは“別次元”の「豪華モデル」!? 「PV5」のカーゴ/パッセンジャーの実力とは
韓国・キアの「PV5」が2026年5月から日本での販売を開始しています。現状どのような状況なのでしょうか。試乗した感想とともに山本シンヤ氏がレポートします。
韓国・KIAの商用バン「PV5」なぜ日本に?
韓国・現代自動車(ヒョンデ)グループの一角を担う起亜(キア)が、日本の大手総合商社・双日とタッグを組み、日本市場への再参入を果たしました。その切り込み隊長として送り込まれたのが、新世代モビリティ「PBV(Platform Beyond Vehicle)」を標榜するBEVのバン「PV5」です。

ここでまず多くの人が抱く疑問は、「なぜヒョンデのように乗用EVではなく、あえて商用バンで日本に攻め込んできたのか?」という点でしょう。
その最大の理由は、「日本市場における手頃なサイズの本格EVバンが、ほぼ完全なエアポケット(空白地帯)になっている」ことにあります。
軽商用EVは日産・三菱やホンダの参入で選択肢が増えつつあるものの、物流業界や現場の主役である1トン系積載クラス……いわゆる「ハイエース」や「キャラバン」、「タウンエース」といった中型バン領域には、いまだ国産メーカーから決定打となる量産EVバンが存在していません。
さらに、企業の脱炭素化(スコープ1削減)やラストワンマイル輸送の電動化が急務となるなか、外資系や大手の物流フリートは「買いたくても選べるEVバンがない」という切実な悩みを抱えていました。
グループの乗用BEVですでに日本市場の厳しさを知るヒョンデグループにとって、競合がひしめく乗用EVマーケットで正面衝突するのではなく、日本の法規や物流ニーズに寄り添いながら、ライバル不在の「働くクルマのEV市場」に狙いを定めたのは極めて合理的かつクレバーな戦略と言えます。
そんなPV5のコンセプトは、「商用車なのに乗用車並みのクオリティと走り」、そして「乗用車なのに商用車並みのフレキシビリティ(使い勝手)」です。
欧州をはじめとするグローバル市場ではすでに高いシェアを獲得しており、「インターナショナル・バン・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど実力は折り紙付きです。
今回、箱根のワインディングを含む日本の道で、荷物積載を主眼に置いた「カーゴ」と乗用仕様の「パッセンジャー」の両モデルに試乗する機会を得ました。
結論から言うと、その動的質感は「商用車」の枠を完全に超越していた一方で、日本市場特有のマーケット構造が大きなハードルとして立ちはだかっていることも浮き彫りになりました。

実車を目の前にすると、まずその無駄を削ぎ落としたクリーンな造形に目を奪われます。 日本の商用バンほど実用本位で事務的になりすぎず、かといって同じEV MPVであるフォルクスワーゲン(「ID. Buzz」など)ほどレトロポップに振り切りすぎていない……その中間に位置する、クリーンでどこか無国籍な「近未来の道具感」が絶妙なバランスです。
スクエアなハイルーフシルエットでありながら、ボディ下部の樹脂クラッディングパネルや薄型LEDランプが引き締め役となり、日常やビジネスの現場にすんなり溶け込むモダンな佇まいを備えています。
ボディサイズは全長約4.7m級と、日本のハイエース・ロングに近い扱いやすいサイズに抑えられている一方、全幅は約1.9m級とワイド(登録は1ナンバー枠)。
室内に入ると、バッテリーを床下に敷き詰めた専用プラットフォーム「E-GMP.S」の恩恵で、乗り込み口や荷室開口部の地上高はわずか約40cmと驚くほど低床です。観音開きと跳ね上げ式が選べるバックドアなど、商用車としての基本を押さえたパッケージングが光ります。
運転席周りは水平基調のインパネ中央に大型モニターを配したシンプルな構成です。ダイヤル式シフトなどヒョンデ系EVでお馴染みのインターフェースを採用しつつ、ウインカーレバーの位置やメーター表示、コネクテッド機能はしっかりと日本向けにローカライズされていました。
まずは荷室に規定重量の水を積んだ状態で、「カーゴ」のステアリングを握りました。パワートレインは前輪駆動(FWD)のシングルモーターで、試乗車は71.2kWhの大容量バッテリーを積むロングレンジ仕様(一充電走行距離は最大約520km級)です。
走り出して数十メートルで、従来のハイエースやキャラバンといったキャブオーバー型商用バンとは完全に別次元にいることを確信させられます。
フロア全面に低く堅牢にバッテリーが敷き詰められているため、見た目とは裏腹に低重心。背の高いボディにもかかわらず、箱根のワインディングを駆け抜けてもグラッとくるような嫌なロールが発生しません。
ステアリングの切り始めからノーズが素直にインへ吸い込まれる感じは、ヒョンデグループの乗用EVに通じる上質なライントレース性を披露してくれます。
加えて驚かされたのがNVH性能です。商用車特有のフロアのペラペラ感や鉄板が共鳴するロードノイズは皆無と言ってよく、室内はまるで無響室のように静まり返っています。
あまりに静かすぎて、荷室に積んだオモリのポリタンクの水がチャポチャポと揺れる音まではっきりと耳に届くほどでした。
回生ブレーキはステアリングのパドルで細かく調整でき、完全なワンペダル走行にも対応。登坂路でもモーターの豊かなトルクが滑らかに立ち上がりますが、加速Gはいい意味で普通なので荷崩れを起こすことなくシームレスかつ力強く登っていきます。
一方で、日本の現場目線で見ると改善したいポイントも散見されます。試乗車には韓国の法規に準拠したキャビンと荷室を完全に隔てる「パーティション(隔壁)」が装着されていましたが、これがあるとシートのリクライニングが制限され、バックミラー越しの後方視界が完全に遮られてしまいます(常時表示型デジタルインナーミラーは欲しいところ)。
また、A4ファイルや伝票、スマートフォンなどを「サッと放り込める」直感的な収納スペースがインパネ周辺に不足している点は、毎日使う日本のプロドライバーから指摘を受ける部分でしょう。
続いて、「乗用車なのに商用車並みのフレキシビリティ」を標榜する「パッセンジャー」に試乗しました。しかしこちらは、カーゴの走りの完成度が高すぎたがゆえに、日本のユーザー目線では評価が分かれる仕上がりとなっていました。
明るいグレーを基調とした開放的なキャビン、そして運転席・助手席の居住性は文句なしの出来栄えです。シートヒーターのみならずシートベンチレーションまで備わり、先進的なインターフェースと相まって高級車顔負けの快適性を誇ります。
しかし、後席(2列目)に乗り込むと印象が一変します。「商用車並みの使い勝手(積載性・フラット化)」を優先した割り切りの代償としてシートクッションが薄く、路面からの細かな微振動や段差の突き上げを直接拾いやすい傾向にあります。
また、運転席の乗り心地が滑らかで極上なだけに、後席の乗員が受ける突き上げ感とのギャップは小さくありません。さらに、フロアに対して座面が低めの設定となっているため前方の見通しが遮られやすく、後席用空調の配置も含めて「商用ベース」の影が見え隠れしてしまいます。
欧州市場であれば、ルノー「カングー」やステランティス系のMPV兄弟と真っ向勝負できるポテンシャルはありますが、ここは世界一ミニバンが成熟した「ミニバン王国・日本」です。
何より、日本のユーザーは長年磨き上げられてきた国産ミニバンによって徹底的に目が肥えています。
トヨタ「ノア/ヴォクシー」、日産「セレナ」、ホンダ「ステップワゴン」といったMクラスミニバンが、乗員全員に極上の快適性と細やかなおもてなし空間を提供し、価格が700万円前後に達すると、もはや「アルファード」の背中まで見えてきます。
正直なところ、700万円近い予算があれば日本のユーザーには魅力的な選択肢が他にいくらでも存在します。
日本のユーザーの肥えた目線に晒されたとき、「3列シートの設定がない5人乗り仕様」のままファミリー層へ訴求するのは、価格とユーティリティ、そして快適性のあらゆる面で極めてハードルが高いと言わざるを得ません。
関係者に話を聞くと、7月の販売拠点オープンからの実売は月間10〜20台規模と、まだ助走段階にあるとのことです。
年間1000台の目標達成に向け、現在は大口の物流フリートやタクシー会社、大手リース会社といったBtoBを中心に提案を進めています。
特に外資系企業など、カーボンニュートラルの達成が急務でありながら「手頃なサイズのEVバンが存在しない」と頭を抱えていた層からは、非常に強い引き合いがあるようです。

また、現場の声に対するキア側の動きも極めて迅速です。日本側の要望を吸い上げ、すでに「隔壁なしモデル(日本専用仕様)」や筆者も指摘した「7人乗り(3列シート)仕様」を追加導入する計画があるそうです。
加えて、韓国の最新鋭EV専用工場「華城(ファソン)EVOプラント」で製造された車両は、日本上陸後のPDI(出荷前点検)で世界一厳しいとされる日本の塗装・建付け基準(AQL)に沿って厳格に再チェックされ、わずかな不具合も許さない体制を敷いているそうです。
一方の「カーゴ」は、商品力そのものはハイエースを凌駕するポテンシャルを秘めているものの、現状はどうしても補助金頼みの側面が否めません。
商用フリートやプロユースの現場でハイエースの牙城を本気で崩しにかかるのであれば、補助金に依存しすぎず、初期導入コストの段階からハイエースの主軸グレード(実質400万円台前後)と真っ向からぶつかり合えるような戦略的グレードが欲しい所です。
例えば、装備を少し割り切り、小容量バッテリー(スタンダード仕様)を積んで税抜き500万円を切るようなベース仕様が日本向けに用意できるかどうかも、普及への大きな分岐点になるはずです。
このPV5が日本で独自のポジションを築くための鍵は、筆者(山本シンヤ)としてはあえて現時点では「乗用ミニバン」としての勝負を避け、用途を尖らせた「コト(体験)の提案」に振り切ることにあると考えます。
その筆頭がキャンピングカー市場です。すでにトイファクトリーをはじめとするキャンピングカービルダーとタッグを組み、ボルトオンで簡単にベッド展開や家具が設置できるキットが用意されています。EVならではの大容量バッテリーとV2L(給電機能)を活かせば、エンジンをかけずともエアコンを使いながら静寂の中で車中泊ができ、災害時には心強い防災シェルターにもなります。
つまり「平日は仕事や街乗りに使い、週末は手軽に車中泊旅へ出かける」というライフスタイル提案こそ、このクルマの資質に完璧に合致します。
ハイエースの牙城が揺るがないのは、サードパーティが競い合って専用の棚やパーツを作り、ユーザーが自分仕様に育てられる「エコシステム」が存在するからです。キア自身が純正品を抱え込むのではなく、アフターパーツメーカーや架装ビルダーを巻き込み、「PV5専用品」が街に溢れる環境を地道に作っていけるかどうかが普及の分かれ目となるでしょう。
総じて言えば、クルマとしての基本素性の高さは間違いありませんが、この道具を日本の働く人、そして遊ぶ人たちの生活へいかに血の通った形で溶け込ませていけるのか。筆者はPV5の真価が本当に問われるのは、そこの部分だと強く感じています。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。















































































