なぜ「チャイルドシート」を早く前向きにしたがる? 年齢で変更はかなり危険な勘違い
乳児用シートは絶対に後ろ向きで使わなくてはいけない理由
もちろん体の大きな赤ちゃんは満1歳に満たずとも、体重10kgを超えていれば前向きにして使うことは基準上問題はありません。実際、筆者(加藤久美子)の息子は生後9カ月で体重10kg超、身長73cmでしたので、いつ前向きにすべきか悩みましたが、「足がつかえる、頭がはみ出すなど物理的に厳しくなるまでは、安全性の高い後ろ向きで使ってよい」とチャイルドシートメーカーの方に言われましたので、ぎりぎりまで後ろ向きで使いました。
そもそも、なぜ乳児用シートは後ろ向きで使う仕様になっているのでしょうか? メルセデス・ベンツやホンダをはじめ多くの自動車メーカーで純正採用されている、ブリタックスレーマーとマキシコシの日本正規輸入総販売店、GMPインターナショナルに聞いてみました。
「乳児期の赤ちゃんは、体重に占める頭部重量の割合が高く、それを支える首回り(頸部)や骨の発育が未発達です。万が一、『前向き』で乗せた状態で衝突事故に遭うと、頭部が大きく前方に飛び出して首やショルダーベルトがかかる鎖骨の2点に衝撃が集中し、重傷を負うリスクが格段に高まります。そこで、乳児期の赤ちゃんは、未発達な首や身体全体をチャイルドシートの背もたれでしっかりと支え、万が一の衝突時には、背中全体で衝撃を吸収、分散できる設計になっている『後向き』で乗せなければいけません。
なお、これまでは1歳頃(体重10kg前後)まで、『後向き』で乗せる様、基準で定められていましたが、最新の欧州安全基準i-SIZE(R129)では、身長・体重に関わらず「生後15ヶ月まで」必ず後向きで乗せる様、変更されています。欧州では出来るだけ長く(最長4歳頃)まで『後向き』で使用する事が、より安全であると広く一般に認知されています」(GMPインターナショナルBABY事業部)
なぜ早く前向きにしたがるパパママが多いのか
前述したように、チャイルドシートは極力、後向きで使用することで、衝突安全性能が高まるのですが、その事実はなかなか浸透していません。体重や身長を考慮せず、「1歳になったら即前向き!」というケースもたくさん見てきました。また、何を勘違いされたのか?「6か月過ぎたら前向き」と思い込んで前向きで使っているママもいて驚いたことも何度かあります。しかし、それらの勘違いや思い込みとは別に、それなりに理由があって前向きにしている場合もあるようです。
・後ろ向きでは赤ちゃんの顔が見えなくて不安
・赤ちゃんが前が見えないとグズる(と思い込んでいる)
・ママ友に「1歳になっているのにまだ後ろ向きなの?」と言われ、我が子の成長が遅いイメージを持たれるのが嫌
このような理由で前向きにしているケースもあるようですが、これではチャイルドシートを正しく使っているとは言えません。赤ちゃんは10kg、身長70cm位を超えるまでは月齢に関わらず後ろ向きで使いましょう。赤ちゃんが身長・体重に関わらず、一人歩きできるようになるまでは後向きで使用するのが理想です。一人歩きできるということは、子供が自身の身体を支えられるまで骨格が発育したことを意味します。
そしてエアバッグキャンセラーの無い助手席で使うのは絶対NGです。後部座席で後ろ向きにし、ハーネスは指2本入る程度に少しきつめに締めて、正しく使うことが事故の衝撃から大切な我が子を守る上で、もっとも大切な事なのです。
なお、チャイルドシートに関する指導をする際、よく聞かれるのですが、「チャイルドシートは何歳まで必要ですか?」という質問です。チャイルドシートとして着用義務がある年齢はたしかに5歳までですが、6歳になったら不要ではありません。大人のシートベルトが正しく使える身長145cm前後までは、ジュニアシート(座面だけのブースターシートではなく、頭や肩周りのガードがあるフルバケットタイプがベスト)を使って大切なお子様をしっかり守りましょう。
【了】
Writer: 加藤久美子
山口県生まれ。学生時代は某トヨタディーラーで納車引取のバイトに明け暮れ運転技術と洗車技術を磨く。日刊自動車新聞社に入社後は自動車年鑑、輸入車ガイドブックなどの編集に携わる。その後フリーランスへ。公認チャイルドシート指導員として、車と子供の安全に関する啓発活動も行う。