“7年ぶり全面刷新”のレクサス“新型セダン”「ES」! 「セダンの復権」狙う“8代目”どんなモデルに?
2026年6月11日に発売された、レクサスのミドルサイズ・ラグジュアリーセダン新型「ES」。7年ぶりの全面刷新で8代目となった同車はどのようなモデルとなったのでしょうか。山本シンヤ氏が試乗し、レポートします。
「炊き立ての白ご飯と温かい味噌汁」のような普遍の魅力
レクサスの歴史を途切れることなく支え続けてきたセダン「ES」が、8代目へとフルモデルチェンジ。今回は日本仕様を首都高速道路から荒れたワインディング、郊外の幹線道路まで、日本のリアルワールドでその実力をじっくりと試乗してきました。
世界的なSUVシフトが加速し、数々の名門セダンが姿を消していく中、新型ESは迷うことなく正統派の「セダン」のまま進化を遂げています。
当初の社内企画にあった「現行型の大改良」にとどまる案を退け、あえて全面刷新という茨の道を選び、「セダンの復権」を掲げた開発陣の胸中にはどのような想いがあったのか。
筆者(山本シンヤ)がチーフエンジニア(CE)の千足浩平氏率いる開発陣との対話と、日本の道で味わった走りのインプレッションから、「ESがセダンであり続けた真の理由」を紐解いていきます。
日本の道で千足CEに「これだけSUV全盛の時代に、セダンをやめるという選択肢はなかったのか」と率直に尋ねると、千足氏はキッパリと答えてくれました。
「私の頭の中に『セダンをやめる』という選択肢は、一度たりとも浮かびませんでした。実は社内でそのように言われたこともありません。セダンは工学的な合理性において圧倒的な強みを持つものの、現実はSUV人気に押されているのも事実です。ただ、私はメーカー自身がセダンから逃げ出し、本質的な魅力を磨く努力を怠ったからではないかと思っています。そうであるならば、セダンの良さを完璧に維持しながら、これまでのセダンにはなかった『見晴らしの良さ』や『圧倒的な開放感』を融合させればいい。その答えを形にしたのが新型ESというわけです」
新型ESの開発において目指したのは、クラシカルなセダン像への固執ではなく、「セダンの型を受け継ぎながら、型破りを成し遂げる」ことでした。そこは似た運命のクラウンとは違う所です。
セダンでありながらSUVのような視界の抜けの良さと乗降性を両立するため、新型ESは全高を先代比で100mmアップの1550mmに設定。しかし、セダンの背を単に高くすれば、ずんぐりとした不格好なスタイルに陥るリスクと背中合わせなのは、過去の歴史(「ビスタ・アルデオ」など)が物語っています。
いくらパッケージが重要だと言っても、クルマとして美しく、カッコ良くなければユーザーは支持してくれません。1550mmの全高のままエレガントかつ伸びやかなクーペプロポーションを実現するため、開発陣は全長と全幅を拡大する決断を下しました。
その結果、新型ESのボディサイズは現行「LS」に迫るとなりました。全幅が1900mmを超える大型化には、日本の道路事情やユーザーからの反発を懸念する社内の慎重論も根強くありましたが、当時レクサスのプレジデントであった佐藤恒治氏(現トヨタ自動車副会長)が「世界で戦える本物のセダンをつくるべきだ」と背中を押してくれたそうです。
サイズアップへの対応として、日本仕様には4輪操舵「DRS」を投入することで、大柄な車体ながらも小回り性能と取り回しの良さを手に入れています。
エクステリアは、後方写真を見た人からは「やや背が高く見える」、「ズングリしている」と賛否があったのも事実ですが、写真映りの悪さはレクサストップ(!?)。実車をリアルワールドの太陽光の下で見ると、光と影のコントラストによって、伸びやかで抑揚のあるエレガントな4ドアクーペスタイルが際立ちます。歴代モデルのエレガントな香りを残しながらも、確実に新世代の佇まいです。
実際に運転席に座ると、高めのアイポイントと低く抑えられたウィンドウ下端により、圧倒的な見切りの良さがあります。その結果、ボディサイズは大きくなったにもかかわらず車両感覚が掴みやすく、狭い道路へ踏み込んでも不安になりにくいです(実際のサイズは大きいので無理は禁物)。
インテリアは水平基調のインパネには普段トリム内に美しく隠れ、手をかざすことで点灯し、押せば確かなクリック感を返す「レスポンシブ・ヒドゥンスイッチ」を新たに採用。昨今の「すべてを画面に集約する過度なタッチパネル化」に走るのではなく、スマートだけど直感的に触りたい部位に物理的な操作感触を残しているのは評価できるポイントです。
過剰なメッキやピアノブラックなどの加飾に頼らず、バンブーなどの自然素材を活かした雰囲気は、本質的な良いモノ感と日本ならではの「おしとやかさ」があると感じました。
居住性は2950mmのロングホイールベースを活かし、後席の足元空間は現行LSを凌駕する広さを実現。さらに全高1550mmの頭上の余裕から「パーソナルだけど開放感がある」と言う不思議な空間感覚があります。基本はドライバーズカーですが、リアコンフォートパッケージを選ぶとショーファーニーズにも対応できるでしょう。
レクサスのDNAである静粛性にも徹底してこだわっています。単に音を消し去って耳に圧迫感を覚えさせる「無響室」ではなく、外の移ろう景色と調和する「心地よい静けさ」。前席と後席で声を張ることなくごく普通のトーンで会話が弾む空間に仕上がっています。

走りはどうでしょうか。新型ESはパフォーマンスを過激に謳うモデルではありませんが、走る・曲がる・止まるの基本性能をより高みに持っていくために、目に見えない骨格から徹底的に作り直されています。
プラットフォームは形式名こそ従来モデルと同じ「GA-K」ですが、これまでの知見をフィードバックさせた2巡目であると同時に、BEVとHEVの双方を高次元で成立させるためにほぼ新設計された「マルチパスウェイプラットフォーム」を専用開発。加えて、レクサスブランド全体で取り組む「味磨き活動」の知見が注ぎ込まれており、フロント前端、フロア、リヤ後端部に効果的な補強が施すことで、強靭だけどしなやかさを持った「体幹」に仕立っています。
サスペンションも刷新され、リヤにはES初となるマルチリンク式を採用。そして日本仕様の強力な武器となるのが、新世代の電子制御サスペンション「AI-AVS」です。
これはアイシンが開発したモノですが、路面からの入力パターンや車体の挙動を学習したAIモデルが、路面状況を予測しながら減衰力の立ち上がりを最適化する先読み制御を行うことで、開発陣が目指した走りと乗り心地を高次元で再現しています。
実際に段差を乗り越える瞬間のショックの「カド」を先回りでふっと丸め込み、その直後に訪れる車体の揺れ戻しを溶けるように減衰させる。その結果、「優しいけれどフワフワしない」、路面に吸い付くようなフラットライドを実現しています。
走りの全体的な印象は極めて上質な“普通”です。これは最大の褒め言葉として受け取ってほしいのですが、わかりやすい過剰なスポーティさや俊敏さに逃げることなく、ドライバーの意図通りにクルマが滑らかに動く自然さと懐の深さがある……ということです。
アドレナリンを煽るのではなく、じんわりとセロトニンが湧き出るような落ち着いたフットワークは、他のレクサスSUVにもないESならではの美点であり個性です。
ここからはパワートレイン別の印象です。新型ESのメインストリームは、前輪駆動(FF)シングルモーター仕様のES350eです。
レスポンスの良さはモーター駆動ならではですが、プレミアムBEVにありがちな「過剰に背中を蹴飛ばされるような唐突なトルクの立ち上がり」は上手にコントロールされています。
アクセルペダルの踏み込み量に対してリニアに、かつ極めて滑らかに速度が乗り、気づけば狙った車速に到達している。まさにパワートレインが良い意味で“黒子”に徹している大人なフィーリングです。
フットワークはステアリングを切った瞬間、車輪とボディが一体となってスーッとノーズがインに入り、旋回中のロール姿勢もFFながらも極めてフラットです。
日本仕様に採用されるDRSも制御が自然で、ワインディングではクルマがより小さく軽く感じられました。逆に高速道路では矢のようにビシッと走る直進性と、どっしりと路面を捉えるスタビリティを見せてくれました。
街中から長距離巡航まで万能で、「これ1台で新型ESの世界観は完全に完成している?」と思わせるベストバランスです。
ツインモーターAWD「DIRECT4」を搭載したトップモデルがES500eです。システム出力340psオーバー、0-100km/h加速5.9秒というスポーツセダン並みの数値を誇りますが、乗り味は良い意味でその速さ感は主張せず。
日常域のコントロール性はES350eの素直さをしっかりと受け継ぎつつ、ミリ単位のアクセル操作に対して、大排気量V8自然吸気エンジンのような息の長いトルクがどこまでも湧き上がってきます。
前後モーターが協調して加減速時のピッチングや旋回時のロールをフラットにいなしてくれるので、走りと快適性の調和はシリーズ最良です
もちろんアクセルを深く踏み込めば「IS500の生まれ変わりか?」と思うほどの豪快な伸びを味わえますし、コーナリングは駆動方式の概念が変わるほどの感覚が味わえますが、それはあくまで豊かな余力の証明。
有り余るパフォーマンスを、ゆっくり、滑らかに、静かに走らせるために使う贅沢こそがES500eの本質かなと。高速道路の追い越し車線ですっ飛ばす車を横目に見ながら、「いつでも勝負できるよ」と心穏やかにマイペースを保ち続けられる平常心。まさに「金持ち喧嘩せず」を具現化したサルーンです。
日本市場で実質的な本命となるES350hは、基本素性の良さがじわじわと染み出てくるような乗り味です。
第6世代THSIIは従来システムより電動車感が強めで、アクセルをべた踏みしない限りラバーバンドフィールは最小限。モーター出力の高さも相まってエンジン回転も抑えられているので静(EVモード)と動(HEVモード)のギャップもガッカリすることはありません。
常用域でのエンジンサウンドは“囁き”程度に抑えられていますが、負荷がかかった時の濁音多めの音質はもう少し頑張ってほしいところです。
コンベンショナルサスペンションとエアボリュームの高い19インチタイヤというシンプルな組み合わせは、電子制御満載のBEVモデルに対して「薄皮を2〜3枚足したような心地よいダルさ」があり、それが逆に日常のドライブで心をよりホッと落ち着かせてくれます。
千足CEが「余計なトッピングを施さなくても出汁と麺だけで旨い、素うどんのような味わい」と表現した通り、基本素性が極めて高いため、路面とのコンタクトはどこまでも優しくナチュラルです。
BEVモデルと比べてしまうと全体的にプレミアム感は少な目ですが(と言っても十分以上ですが)、気負いなく付き合えるセダンと言う意味では完成度は高いと思いました。
ただ、ESの裾野を支える役割が故に装備が絞られてしまっているのは残念。個人的にはAI-AVSやDRS、21インチホイール付の上級グレードがあってもいいと感じました。
今回3つのパワートレインを日本の多様なステージで乗り比べましたが、走りを終えたあとに身体へ残るのは、疲労ではなく「じんわりとした心の安らぎ」でした。それはまるで、毎日食べても決して飽きることがなく、口にするたびに身体へ染み渡る「炊き立ての白ご飯と温かい味噌汁」のような普遍の魅力です。
そして、今回の取材を通じて深く腑に落ちたのが、千足CEと交わした「LSとESの立ち位置」についての対話でした。
LSはブランド全体を明るく照らし、レクサスの旗手として常に大胆な変革を恐れずに新しい価値を切り拓いていく「太陽」のような存在です。それに対してESは、創業時からLSに静かに寄り添い、堅実さと包容力で世界中のビジネスを支え続ける「月」のような存在といえます。
現在、フラッグシップのLSが既成概念を打ち破る大改革へ挑み続けていますが、もしESまでもが姿を変えてしまうと、1989年の創業時から脈々と続いてきた「レクサスの正統なセダン文化」は市場から消え去ってしまいます。
実は歴代ESを振り返ると、「誰の真似もせず」、「誰にも真似されない」、唯一無二の存在だった事が解ります。そして、心地よさと上質さ。派手な威圧感ではなく、乗る人の心に静かに寄り添うセダンの様式美。ESというモデルが頑なにセダンであり続けたのは、それがレクサスというブランドの“軸”そのものだったのではないかと筆者は分析しています。
「セダンから逃げない」
開発陣が守り抜き、鍛え上げた8代目レクサスESの佇まいと走りは、混迷を極める現代のクルマ社会において、セダンという乗り物が持つ根源的な価値と美しさを、改めて伝えるモデルなんだろうなと。だからこそ、流行り廃りに流されてSUVに乗ってはみたものの、どこか心の奥底で満たされない思いを抱えている方は、実際に見て・触って・乗ってほしい1台です。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


























































































