“全てをゼロから設計した”新型「BMW・iX3」! 斬新な「デジタルマスク」の400馬力超えSUV! 注目の“社運”をかけた1台どんな車に?

2026年7月22日、BMWジャパンは新型「iX3」を発売しました。電動化戦略の次なるステージとして送り出された同車は、どのようなモデルなのでしょうか。山本シンヤ氏が試乗しレポートします。

“全てをゼロから設計した”新型「BMW・iX3」

 BMWが電動化戦略の次なるステージとして送り出したのが、「ノイエ・クラッセ(Neue Klasse)」と呼ばれる新型「iX3」です。 

 かつて1960年代に経営危機を乗り越え、現代のスポーティなブランドイメージを確立した歴史的名車「ノイエ・クラッセ」の名称を受け継いだモデルですが、その本質にあるのは「次の時代を築く革命児」になってほしいと言う強い想いです。

 全てをゼロから設計したBMWのゲームチェンジャーであり、ある意味“社運”をかけたプロジェクトと言っていいでしょう。

 メルセデス・ベンツがサブブランド「EQ」シリーズから再び本流のモデルネームへ統合を図るなど、欧州プレミアム各社が電動化の過渡期における試行錯誤を続ける中、BMWは内燃機関とBEVを融合させるアプローチを経て、ノイエ・クラッセで再び明確な専用設計へと舵を切りました。

 エクステリアは、初代ノイエ・クラッセのフロントフェイスを現代的に再解釈した縦長のキドニーグリルが最大の特徴です。SUVらしい力強いプロポーションはそのままに、ポップアップ式のフラッシュドアハンドルやフラットなアンダーボディ構造など、細部にわたる空力処理を徹底。その結果、SUV形状でありながらCd値0.24と言うすぐれた数値を実現しています。

 フロントマスク(デジタルマスク)には賛否があるようですが、これまでのBMWの「良く言えば安定、悪く言えば代り映えがしない」デザインに大きくメスが入った事を、筆者はポジティブに見ています。それに見慣れてくればしっかりBMWらしさを感じますし……。

 ボディサイズは内燃機関モデルの「X3」とほぼ同等ですが、注目は「全幅」です。X3が1920mmなのに対して、新型iX3は1895mmで、日本の機械式立体駐車場や狭小路における取り回しにおいて大きなアドバンテージとなるはずです。

 インテリアは従来のBMWコックピットの概念を変える「パノラミックiDrive」に刷新されました。機能の多くはタッチ操作と音声入力が主ですが、物理スイッチも厳選されて残されています。

 フロントウインドシールドの下端に沿ってAピラーからAピラーまで横一線に広がる43.3インチの「BMWパノラミック・ビジョン」はヘッドアップディスプレイいらずと言っていいほどの視認性を誇ります。画面は6つのセクションに分かれており、ユーザーの好みに合わせて様々な情報がレイアウト可能です。

 特徴的なデザインのステアリングには「シャイテック(Shy Tech)」技術を採用。表示は使用可能な機能のみが浮かび上がり、静電式ながら操作時にはフィードバックがあるため、操作性にも優れています。

 更にBEV専用プラットフォームの恩恵により、フロアは完全にフラット化。若干立膝気味ではあるものの後席の足元空間やラゲッジ容量も内燃機関モデル以上にゆとりが生まれており、ファミリーユースとしての実用性も申し分ありません。

 パワートレインは語る事がとても多いです。その中核を成すのは第6世代の「BMW eDrive」テクノロジーです。

 バッテリーは109.1kWhの大容量。セルには直径46mm×高さ95mmの「4695」規格円筒型セルを採用。モジュールを介さずパックへ直接組み込む「セル・トゥ・パック(CTP)」方式により、体積エネルギー密度を先代比で約20%向上しています。

 車体構造はバッテリーパックそのものをシャシーの構造部材(ストレスメンバー)として統合した「パック・トゥ・オープンボディ」。シートの固定用ブラケットをバッテリーパック上面に直接締結する構造となっています。

 これにより、車体剛性の飛躍的な向上とフロアの低重心化、広い室内空間を両立しています。

 電気系は「800Vアーキテクチャ」を採用。日本では最大280kWの急速充電(東名高速・海老名SAに設置中)に対応しており、これを活用すると15分の充電で約420km分の航続距離をチャージ可能です。ちなみに一充電あたりの航続距離(WLTCモード)は906km(ベースモデル)、大径タイヤ装着のM Sportでも835kmという圧倒的な数値です。

「駆けぬけない歓び」にも溢れる!?
「駆けぬけない歓び」にも溢れる!?

 駆動方式はツインモーターAWD(xDrive)で、メインのリヤモーターは磁石を使わない「巻線界磁式同期モーター(EESM)」、必要に応じて駆動させるフロントモーターには「誘導モーター(ASM)」と、特性・役割に合った最適なシステムを組み合わせています。

 そして、これらハードを統括するキーテクノロジーが「Heart of Joy(ハート・オブ・ジョイ)」と呼ばれる中央統合制御ユニットです。

 これまでパワートレインとシャシーなど、個別のECU(コントロールユニット)に分かれていた制御ロジックを1つの超高性能ブレインに統合。従来の10倍以上の処理速度で演算を行なうことで、新時代の「駆け抜ける喜び」を具体化させています。

 環境配慮も抜かりなしで、車両素材の約3分の1にリサイクル素材(再生アルミや海洋プラ樹脂)を採用。製造拠点のハンガリー・デブレツェン工場は化石燃料を一切使用せず、再エネのみで稼働し、生産時のCO2排出量を従来比で約30%削減しています。

 今回は東京都内の一般道と高速道路(首都高速・東関道)で21インチを履くMスポーツを試乗しました。

 走り始めて最初に感じたのは、2.4トン近い車両重量を感じさせない軽快感と従来のBMW以上の塊感(ソリッド感)です。フロントに重いエンジンが存在しないため、交差点を曲がるだけでもステアリングを切った瞬間のノーズの入り(回頭性)は極めてすっきりしています。

 469ps/645Nmを誇るパワートレインですが、圧倒的な力強さ/瞬発力以上に関心させられるのが、「踏力に対する圧倒的なリニアリティ」です。足の親指を1ミリ動かしただけの微小な操作にもモーターが寸分狂わず追従し、意のままに繊細な加減速が可能となっています。

 例えるならば、「Mモデルのような怒濤の加速・瞬発力」を持ちながら、ベーシックな318iのような手の内感」が同居している印象です。

 フットワークはズバリ、「駆け抜ける喜び」と「駆け抜けない喜び」がシームレスに調和しています。

 コーナー進入でアクセルを緩めると瞬時に最適な回生ブレーキが立ち上がり、荷重がフロントへスムーズに移動。ステアリングを切り込めば前後の駆動力配分が連続的に変化し、外への膨らみを抑えながら吸い込まれるようにインを向きます。

 そしてクリップを過ぎてアクセルを踏み込めば、リヤが力強く蹴り出しつつフロントが絶妙にアシスト……と、まるでプロドライバーが荷重移動を行なっているかのような自然で人間味溢れる挙動をクルマ側が背中を押しながらサポートします。

 ドライブモードの変化も解りやすいです。「スポーツ」ではディスプレイが赤基調に変わり、刺激的な走行音(アイコニック・サウンズ・エレクトリック)とともに645Nmの極太トルクが一瞬で立ち上がります。一方、「エフィシエント」は穏やかなタメを持たせたレスポンスで日常ユースに最適。更に「サイレント」は疑似音を完全カットした静寂空間を味わうことができます。

 ただし、キャビンの遮音・密閉性が極めて高いため、路面状況によってはロードノイズが相対的に耳に届きやすく、70~80km/h付近の特定周波数で路面入力と共鳴するようなドラミング(微細なこもり音)がわずかに顔を出す場面もありました。過度に無音化すると路面からのショックが心理的に際立つ側面もあるため、BMWのようなドライバーズカーにおいては適度な疑似音を鳴らしておく方が全体のバランスが良いと感じます。

 ブレーキは日常走行の約98%を回生でカバーする協調ブレーキですが、フィーリングは極めて自然。ペダルの踏み心地は従来の内燃機関モデルのような「踏み込み量(ストローク)で効かせる」ではなく「踏力(剛性感)でコントロールする」イメージです。

 回生モードは好みに合わせて調整可能ですが、先行車との車間距離や道路状況をカメラ・レーダーが検知して回生力を自動調整する「アダプティブ回生」がお勧めです。

 ちなみに「Bレンジ」や回生設定「高」を選択したワンペダル走行はアクセルオフ時の減速立ち上がりが鋭敏なため、同乗者を酔わせずにスムーズに走らせるには、少し慣れが必要かもしれません。

 乗り心地は21インチタイヤを履く「M Sport」と言うこともあり、市街地では路面の微小な段差や舗装の継ぎ目に対して、タイヤの空気圧が高めに設定されているかのような硬さを直接的に伝えてくる傾向はあります。

 しかし。速度レンジが上がるにつれてタイヤやダンパーにしなやかさが生まれ、フラットで重厚感のある素晴らしい高速ツアラーへと表情を変えます。首都高特有の路面ジョイント(継ぎ目)を通過する際も、車体がバタつくことなく一発で振動を収束してくれます。

 運転支援「ハイウェイアシスト」もいい仕上がりです。ナビ目的地を設定してACC(アダプティブクルーズコントロール)を作動させておくと、前走車に追いついた際にシステムが周囲の安全を確認し、パノラミック・ビジョン上に車線変更を提案。そこでドライバーが変更先側のドアミラーに視線を向けるだけで、カメラが視線を検知し、即座にウインカーを出してスムーズに車線変更を完了させることができます。

 機械に運転を丸投げするのではなく、「ドライバーの視線(意志)とクルマの知能が阿吽の呼吸で連携する」、このプロセスは極めて自然で一切のストレスがありません。年内に予定されているソフトウェアアップデートによって120km/hまでのハンズオフ走行が解禁されれば、航続距離の長さも相まってよりグランドツアラーとしての魅力も引き上がるでしょう。

 そろそろ結論にいきましょう。新型iX3に乗って強く実感したのは、このクルマがBEVである事以上に、「懐の深さを手に入れたBMW」と言う事です。

すでに発売中の大型BEVのSUV「iX」が示したのは、静かで安らぎに満ちたクルージング空間、いわば「駆け抜けない歓び」でした。

 一方で、伝統的な内燃機関のBMWはダイレクトに「駆けぬける歓び」を追求し続けてきました。新型iX3は、この相反する2つのキャラクターを妥協することなく1台の中に高次元で融合させています。

 街中や高速道路をゆったりと流しているときには、800km超の圧倒的な航続距離と洗練された運転支援がもたらす快適性……つまり肩の力を抜いて移動そのものを味わう「駆けぬけない歓び」が溢れています。

 しかし、ひとたびワインディングやクローズドコースに足を踏み入れ、ドライバーがアクセルを踏み込んでステアリングを切り込めば、その表情は一変。リヤ駆動を軸とした俊敏な回頭性とトラクションとMモデル級のパフォーマンス……紛れもないBMWの「駆けぬける歓び」はシッカリ備えられています。

 つまり、電動化技術を「意のままの操縦性と快適性の両立」という自らの哲学の追求のために活用したのが新型iX3と言うわけです。よりカッコよく言うと、BMWのキャパシティを次の次元へと引き上げた、新世代ドライバーズカーSUVの決定版と言えるでしょう。

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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