AIに「自分の運転」は採点させない!? Waymoの自動運転技術を支える“厳格な監視システム”と仮想空間テスト “3.2億km”超の走行データから得られた知見とは
米アルファベット傘下で完全無人タクシーを展開するWaymo(ウェイモ)が、都内で記者説明会を開催しました。現在、日本の交通事業者と連携して東京での実証実験を進める同社は、独自のAI基盤モデルやセンサー技術により、いかに安全な自動運転を実現しようとしているのでしょうか。説明会で明かされた技術戦略と日本展開への道筋を解説します。
目指すのは「世界で最も信頼されるドライバーを作ること」
Googleの自動運転車プロジェクトとして2009年に産声を上げ、その後独立企業として自動運転開発を進めてきた米アルファベット傘下のWaymo(ウェイモ)は、2026年8月19日、オンラインで記者説明会を開催しました。
同社は他社に先駆けて完全無人の自動運転システムを構築し、現在ではアメリカの主要都市において、運転席に誰も座らないロボタクシーの商用配車サービスを数十万回規模で提供しています。
すでに公道で3億2000万km以上にのぼる完全無人運転の実績を積み上げており、その最先端の技術と知見をもって次なる市場の1つとして焦点を当てているのが日本です。
説明会に登壇したウェイモのオンボードソフトウェア担当バイスプレジデントであるシュリカンス・ティルマライ氏は、自動運転技術が社会に求められる切実な理由について言及しました。
世界の道路交通では毎年140万人もの命が失われており、その多くはヒューマンエラーによるものです。日本の道路環境は世界でも特に安全性が高いとされていますが、それでも交通事故による負傷者は年間30万人を超えています。
さらに日本では、高齢化と深刻なドライバー不足を背景に、地域における移動手段が確保できない交通空白地域が全国的な社会課題として浮上しています。
こうした状況に対しティルマライ氏は、「私たちが目指しているのは、世界で最も信頼されるドライバーを作ることです。疲れることも、怒ることも、注意散漫になることも、飲酒することもない。そして時間とともに能力が衰えるのではなく、むしろ向上し続けるドライバーです」と語りました。
また、「L2(レベル2)の運転支援システムを進化させるという点においては、未来がないと考えています。真のL4の自動運転をするためには、それ専用のシステムが必要です」と明言し、段階的な進化ではなく、最初から人間の監視を前提としない完全自動運転に注力する姿勢を鮮明にしました。

複雑な現実世界に立ち向かう独自のAI基盤モデル
この理想を実現するための中核を担うのが、高度な学習を経た人工知能(AI)です。
自動運転は現代のAIが直面する課題の中で最も難易度が高い領域の1つとされています。現実世界は予測不可能であり、公道では倒木や鉄砲水、飛び出しや落下物に至るまで、ありとあらゆる事態が発生します。
ティルマライ氏は「クラウド上で何秒もかけて判断するのではなく、時には人命を左右する判断をミリ秒単位で下さなければなりません」と述べました。
近年、自動運転の分野では、車両のセンサーから得た情報を単一のニューラルネットワークに入力し、車両の操作までを直接出力させる純粋なエンドツーエンド(E2E)型のAIモデルが注目を集めています。
魔法のように運転してくれると期待される一方で、ウェイモはこの手法に対し慎重な姿勢を示しています。
ティルマライ氏はその理由として、「危険なブラックボックスが生じることです。問題が発生した際に、AIがなぜそのような判断をしたのかを容易に検証したり、説明したりすることができません」と指摘。
さらに、安全を確保するためのガードレールや構造化データといった重要な要素が十分に活用されずに切り捨てられてしまうという欠点も挙げています。
そこでウェイモは、人間の思考プロセスを模した独自の「Waymo Foundation Model」を採用し、少数の高性能な基盤モデルへと集約するアプローチをとっています。
このモデルは大きく3つのレイヤーで構成されています。
1つ目は、カメラやLiDARなどのデータを統合し、飛び出しなどに瞬時に反射的なブレーキ判断を下すファーストレイヤーです。
2つ目は、高度な意味理解と推論を行うスローレイヤーであり、例えば炎上している車両に遭遇した際、それを単なる障害物としてではなく周囲の危険性を含めた状況として深く理解し、別のルートを選択するといった複雑な判断を行います。
そして3つ目が、処理したすべての情報と推論結果を実際の車両が走行すべき軌道生成へと変換するデコーダーレイヤーです。これらを連携させることで、安全性と説明可能性を両立したシステムを構築しているのです。

安全性を裏付けるセンサー冗長性と厳格な検証システム
周囲の情報を取得するセンサーの構成についても、明確な哲学を持っています。カメラ情報のみに依存するシステムを構築する企業もありますが、ウェイモは周囲の構造を精密に把握するLiDAR、意味情報の認識に優れるカメラ、そして悪天候時の検知に強いレーダーを組み合わせることで、情報の冗長性と堅牢性を確保しています。
これについてティルマライ氏は、「システムからセンサーを減らすのではなく、センサーのコスト効率を高めるというアプローチをとっています」と説明しました。
また、高精度地図の活用についても独自の視点が語られました。地図がなくても工事区間などで現実の道路状況が変化していれば、その場の状況を認識して走行することは可能だといいます。
それでもあえて高精度地図を利用する理由について、「地図がないと走れないわけではありません。あくまでも安全性について一切妥協しないからこそ、高精度地図を活用しているのです」と語り、あらかじめ読み込まれた地図情報を、リアルタイムの周辺環境と比較するための高精度な基準情報として活用していることを明かしました。
さらに、AIの判断を検証し、安全を担保するガバナンス体制も強固です。AIの進化を左右するのは、それを評価管理する仕組みであるとし、車両側とクラウド側の両面から厳格なチェックを行っています。
車両側にはAIの生成する走行軌道を監視し、物理法則や交通法規に違反していないかを独立して検証するレイヤーが搭載されています。
一方、車両の外側となるクラウド上では「AI Critic(批評家)」と呼ばれる仕組みが稼働しています。
これは後部座席から運転を審査する教官のような存在であり、シミュレーションと実世界における数十億マイル規模の走行データを評価して品質管理を自動化しています。ティルマライ氏はこれを「AIに自分で自分の答案を採点させないための仕組みとなっています」と表現し、継続的なフィードバックループの重要性を力説しました。
これらに加え、実車での検証だけでは不十分だとして、テキストからインタラクティブな環境を生成できる汎用ワールドモデルの「Genie 3」を活用しています。これにより、現実世界では滅多に起こらないような危険なエッジケースを仮想空間で意図的に発生させ、車両が実際に直面する前に先回りして対応能力を学習させているのです。
これらの取り組みは、実際のデータとして明確な結果を生み出しています。ウェイモの完全自動運転データに基づく調査では、人間が運転する車両と比較して、負傷を伴う交通事故が94%も減少したことが示されました。
また、世界的な再保険会社との共同研究においても、人間による運転と比較して物的損害の保険請求が88%、人身傷害に関する請求が92%減少したという成果が報告されているそうです。
日本特有の交通環境への適応と今後の展望
すでに米国で確固たる実績を築いているウェイモですが、日本の道路環境への適応は新たな挑戦でもあります。アメリカの都市部と比較して、東京の道路は幅が狭く、路上駐車も多い上に、歩行者や自転車が複雑に入り乱れる環境だからです。
ウェイモはこの課題に対し、国内最大のタクシー事業者である日本交通、およびモビリティプラットフォームを展開するGOと戦略的提携を結びました。2025年に最初の車両が日本に到着して以来、東京都内の港区や渋谷区、新宿区などで、日本交通の専任スタッフが同乗した状態での実証実験を継続しています。
現地での走行テストを通じて、独自の交通ルールや歩行者の動線、狭い路地でのすれ違いといった日本特有の運転行動データを収集し、システムをチューニングしています。
ティルマライ氏は「東京でのサービス開始時期については、検証が完了し、必要な承認が得られ次第となります」と述べるにとどめましたが、技術の適応については強い自信をのぞかせました。
現時点では東京でのサービス開始を目指し注力しているため、その他の地域における計画はないとのことですが、「私たちの目標は、働き手の環境が変化しても、東京で誰もが移動手段を利用できる環境を維持することです。そして、いずれはこの技術が身近になるにつれて、地方にもサービスを届けていきたいと考えています」という同氏の言葉は、日本の交通インフラが直面する危機に対する1つの希望を示していると言えるでしょう。
Writer: くるまのニュース編集部
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