「BEVとガソリン車」もトヨタ車も一緒につくるスバルの「混流生産」とは? 刻々と変わる市場環境を柔軟に生き抜くための戦略に迫る

スバルは、刻々と変わる市場環境に対応するため、トヨタ車や左右ハンドル車を同一ラインで組み立てる「混流生産」を、同社の矢島工場(群馬県太田市)内で公開しました。一体どのような方法なのでしょうか。

スバル流「混流生産」の狙いとは?

 スバルが2026年4月9日に発表した新型の電気自動車(BEV)「トレイルシーカー」は、同社のBEVラインナップにおいて「ソルテラ」に続く第2弾となるモデルです。

 この新型ミドルサイズSUVは、発売から約2か月間で1962台を受注。これは月販目標250台の約4倍にあたる数字であり、好調なスタートを切っています。

 このトレイルシーカーの生産を一手に担うのが、同社の主力拠点である矢島工場(群馬県太田市)です。同工場は約5900人の従業員が働く中心的な拠点で、敷地面積は東京ドーム12個分に相当する55万平方メートル。多車種かつこの生産規模を誇る工場としては、コンパクトな環境です。

 スバルはこの敷地を最大限に活かすため設備工事を行い、2026年2月からBEVの生産を開始しました。

 そして今回、メディア向けの説明会を開催し、同工場における「生産における柔軟性の追求」に関する取り組みを公開しました。

スバル車・トヨタ車のBEVに加え、ガソリン車の「混流生産」を実現した矢島工場
スバル車・トヨタ車のBEVに加え、ガソリン車の「混流生産」を実現した矢島工場

 現在、アメリカのEV政策の見直しを機に、世界的にBEVの需要を見通すのは難しい状況にあります。そこでスバルは、2026年5月の決算説明会にて、自社開発のBEVの導入を延期することを発表。そのぶん、開発リソースを足元で需要があるガソリン車へシフトしています。

 一方で、BEVの開発・生産に巨額の資金を一社で投じるのはリスクが伴います。そこでスバルはトヨタと共同開発を行うことで、大きなお金をかける投資リスクを抑制しながら、BEVの最新技術を効率的に吸収する戦略をとりました。

 このアライアンスから誕生したトレイルシーカーなどのBEVは、市場で高く評価されており、ガソリン車とBEVのどちらもラインナップすることで、ユーザーの多様なニーズにしっかり応える体制が整いました。

 今後はさらに、クルマを安く無駄なくつくるためのコスト構造改革「原価維新20-30」を推し進め、市場のトレンドがどう転んでも確実に利益を出せる体質を目指す方針です。

 そんなトレイルシーカーを送り出す矢島工場では、仕組みもつくり方も異なるBEVとガソリン車、あるいはトヨタ車とスバル車を同じ生産ラインで順番に組み立てる「混流(こんりゅう)生産」を行っています。

 ラインを流れる車両はさまざまで、トレイルシーカーの前後には、兄弟車であるトヨタ「bZ4Xツーリング」が同時に流れており、さらに日本仕様の右ハンドル車だけでなく、北米仕様の左ハンドル車までもが同じラインに混在しています。

 この難度の高い生産を成功させるため、現場は2つの課題をアイデアで乗り越えました。

矢島工場内の組み立て作業のようす

 ひとつ目は、「クルマの形」や「組み立てる順番」の違いです。トヨタと共同開発したBEVとスバルのガソリン車では、固定位置やサスペンションの組み立て順序が異なっていました。

 そこでスバルは、固定位置を自動で変えられる土台(可動式基準)を開発。さらに、マフラーの取り付けやガソリンを入れる工程といったガソリン車向けの作業をメインラインの端へ寄せるなど、効率を落とさない作業プロセスをつくり、この違いを解決しています。

 なお、2026年8月には、主力ガソリン車である「フォレスター」もこのラインへ合流し、本格的な混流生産が始まる予定です。

 ふたつ目は、「トラックによる部品輸送の効率化」です。トヨタとの共同開発により、トヨタの本拠地である愛知県(中京圏)など遠方のサプライヤーとの取引が増え、群馬の工場までの輸送が非効率になっていました。

 そこで、パーツを一度に集める「集約倉庫」を新設。現地で荷物をまとめてから長距離を走らせる「混載輸送」を行うことで、輸送トラックの運行台数を約半分に減らすことに成功しました。

 矢島工場で磨かれた混流生産の技術は、現在建設を進めている大泉町の新工場へと引き継がれます。大泉新工場のコンセプトは「進化し続ける工場」です。

 クルマがソフトウェアのアップデートで便利になっていく(SDV)のと同様に、工場も中身のソフトウェアを書き換えるだけで新しいクルマに対応させることができ、新型車をつくるたびに大がかりな工事をして高い機械を買い替える必要がなくなります。

 そして新工場では、つくる時間や開発期間、部品の数をそれぞれ半分に減らすスバル独自の取り組み「トリプルハーフ」に挑戦します。

 まず、基本となる作業は短くシンプルに集約。車種によって異なる変動の大きな作業は、別の場所(サブ工程)であらかじめ組み立ててからメインラインへ合流させる体制をとります。

 また、すべての工程を機械任せにするのではなく、ラインのバランスを崩さない「ヒトと自働化」の最適なバランスを追求。周囲の状況を自ら判断して動作する、次世代の「フィジカルAI」ロボットの導入も当初の設計から織り込んでいます。

 さらに、AIとデータを駆使してパーツを必要な場所へ自動で運ぶ仕組みを構築。これにより、物流に関わるスタッフの数を50%削減する狙いです。

 加えて、スバルの本工場(群馬県太田市)、矢島工場、大泉工場は4キロメートルほどしか離れておらず、1本の道路でつながっています。大泉新工場ではこの近さを活かし、エンジンの組み立てから車全体の完成まで、無駄なく仕上げる一気通貫の体制を構築することになっています。

※ ※ ※

 スバルが掲げる「柔軟な生産体制」は、一時的なリスク回避に留まらず、1950年代の「スバル360」の時代から続く同社のものづくりの方針に基づいています。

 トヨタとの協業で培った混流生産技術と、大泉新工場で導入される最先端のデジタル技術を組み合わせることで、市場環境の変化に左右されず、需要に即した車両を安定して供給する体制が整いつつあります。

 スバルの生産革新は、次世代へ向けた具体的な形として着実に進展しています。

【画像】これがスバルの「矢島工場」です! 画像を見る(30枚以上)

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Writer: くるまのニュース編集部

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