アルミから樹脂へ!? 独自の技術でエンジン部品を「30%軽量化」 マーレが生み出した注目のパーツとは
ドイツのグローバル自動車部品サプライヤー・マーレは、「人とくるまのテクノロジー展2026 YOKOHAMA」において最新の技術ソリューションを公開しました。電動化や熱管理技術に加えて、高効率な内燃機関に向けた製品も多数展示。本記事では、世界初となるオイルシール一体構造の樹脂製フロントカバーと、部品統合により高効率化を図ったリキッドマネジメントモジュールについて解説します。
内燃エンジン車の効率を高める二つのアイテムとは
マーレは、ドイツに本拠を置き、乗用車から商用車まで世界中のモビリティ開発を支えるグローバルなメガサプライヤーです。
電動化や熱管理といった次世代の戦略分野に注力する一方で、再生可能燃料に対応するクリーンな内燃エンジンの高効率化など、多角的なアプローチでカーボンニュートラルの実現を目指しています。
そのマーレが、2026年5月27日から29日にパシフィコ横浜(神奈川県)で開催された日本最大級の自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2026 YOKOHAMA」に出展。
15回連続の出展となる今回のブースでは、多様化する日本の自動車市場のニーズに応えるべく、電動化、熱管理、そして持続可能な内燃エンジンに関連するさまざまな製品が並びました。
なかでも注目なのが、素材の樹脂化と部品のモジュール化を極限まで突き詰めた二つの革新的なコンポーネントです。
世界初となるオイルシール一体の樹脂製フロントカバー
まず紹介するのは、マーレグループとして世界初となる「Front Cover(フロントカバー)」です。
エンジンの前面を覆うこの部品は、従来は剛性や耐熱性の観点からアルミニウム製が主流でしたが、マーレはこれを完全な樹脂製へと置き換えることに成功しました。これにより、アルミ製の従来品と比較して約30%という大幅な軽量化を実現しています。

しかし、エンジン周辺部品の樹脂化には大きな技術的課題がありました。それはエンジンの熱による線膨張や収縮にともなう寸法変化です。
とくにフロントカバーの中心にはクランクシャフトが貫通しており、そこからエンジンオイルが漏れないようにオイルシールが設けられています。樹脂が熱変形を起こすとこのオイルシールの中心位置がずれ、シール機能が損なわれてしまうという問題がありました。
この量産化を阻む課題に対し、担当者は次のように語ります。
「樹脂はアルミに比べて寸法の精度が落ちるだけでなく、熱が入ると変形してオイルシールの中心が動いてしまうという問題がありました。
そこで、金属のカラーを挟み込んだリジット締結構造によって線上での位置を固定し、まず位置が動かないようにしました。
さらに、組み付けた後にエンジンが作動して熱が入り、微細な熱変形によって位置がずれる現象に対しては、新開発のオイルシールを採用しました。
非常に柔らかく柔軟に変形できるリップにすることで、自分自身が曲がりながら常に相手の偏心した動きに追従し、安定したシール性能を確保できるようにしています」
これら二つのアプローチにより、別体の金属ブラケットなどを追加することなく、高いシール性能を長期間にわたって確保できるようになりました。
さらに、高精度な射出成形技術によって樹脂ならではの成形の自由度を活かし、オイルレベルゲージのガイドパイプもフロントカバーに一体化させています。
これにより部品点数が削減され、自動車メーカーの工場における組み立て工数の削減にも貢献するなど、コスト面でも大きなメリットを生み出しています。
くわえて、担当者よると、樹脂の特性ゆえに生じる他の課題に対しても、緻密な設計変更と自動車メーカーとの密接な連携によって克服したと言います。
「大型でありながら非常に薄肉な樹脂部品は、平面度の反りが大きくなるという特性があります。
これに対しては、金型の作り込みや樹脂を流し込むゲート配置の最適化を図ることで、反りを最小限に抑える成形条件を確立しました。
また、シリンダーヘッドやブロック、オイルパンが交差する継ぎ目の段差部分、いわゆるT字路や三叉路と呼ばれる箇所は、通常のゴムガスケットを乗せるだけでは隙間ができてシールができません。
そのため、段差部分を二つの留め点で挟んで締結力を維持しつつ、形状を少し変えたビード部分に液状ガスケットを塗布してギュッと握り込む構造を採用しました。分厚い『座布団』のような形をソフトに乗せることで隙間を完全に埋めています。
さらに、大きな入力がかかるエンジンマウントのブラケットに関しては、樹脂だけでは耐えきれないため、自動車メーカーさんと協力して周辺のレイアウトを変更しました。
ブラケットをエンジン側に直接取り付ける直付けの手法をとり、樹脂カバーには基本的に触れさせない構造にすることで課題を解決しています」
周辺部品を統合したリキッドマネジメントモジュール
もう一つの注目製品が「Liquid Management Module(リキッドマネジメントモジュール)」。
エンジンオイルの循環経路(オイルサーキット)に関わる複数の部品を一つにまとめた画期的なモジュール製品です。

通常、エンジン周辺にはオイルポンプ、オイルを冷却するオイルクーラー、不純物を濾過するオイルフィルター、そしてオイルを溜めておくオイルパンなどが個別の部品として取り付けられています。
これらを配管でつなぐ従来の手法では、部品点数が多くなるだけでなく、オイルが複雑な経路を通るため圧力損失が生じやすいというデメリットがありました。
マーレが提案するリキッドマネジメントモジュールは、これらすべての機能を一つのユニットとして完全に一体化させています。
それぞれの部品を最適な配置で統合することで、オイルの流路を極めて短く、かつ滑らかにすることができました。
結果として、個別の部品構成と比較して圧力損失を最大で18%低減させることに成功しています。オイルポンプの負担が減ることは、直接的にエンジンの燃費向上や効率化につながります。
また、モジュール化によって不要なブラケットや配管が削減されたため、全体の重量を最大で20%軽量化できるため、エンジン周辺のパッケージング(搭載スペース)を大幅にコンパクトにすることが可能。
自動車メーカーにとっては車両レイアウトの自由度が増すのと共に、一回の組付け作業で完結できるという利点があります。
樹脂部品を効果的に用いてフィルターのハウジングなども一体成形されており、マーレの得意とする樹脂成形技術とシステム統合技術が上手く融合した製品と言えます。
この高度なモジュール製品を実現できた背景には、同社が持つ網羅的なサプライチェーンの強みがあると担当者は語ります。
「周辺部品をすべて自社で内製して調達できるという点が、マーレの最も大きな強みです。
他社から個別に部品を買い揃えるような形になってしまうと、どうしてもコスト競争力を保つことが難しくなります。
しかし、内製化によって価格を抑えられるだけでなく、システム全体を通した流体抵抗や、部品同士の繋がりによる性能の最適化まで、すべてを自分たちの手で精密に設計することができます。
これがシステムサプライヤーとしての大きなアドバンテージです」
※ ※ ※
電気自動車へのシフトが世界的なトレンドとなる一方で、あらゆる地域や用途で即座に完全な電動化を実現することは困難です。
そのため、ハイブリッド車をはじめとする内燃エンジンを搭載した車両の効率を限界まで高めることは、現実的なCO2排出量の削減において依然として重要なアプローチとなっています。
今回展示された樹脂製のフロントカバーやリキッドマネジメントモジュールは、素材の置き換えによる徹底的な軽量化と、構造の統合による機械的損失の低減という、内燃機関の基本性能を底上げする堅実で有効的なソリューションといえるでしょう。
Writer: くるまのニュース編集部
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