「日本車は安泰」の認識は危うい? 自工会が強調する「日本の危機」 なぜユーザーはピンとこないのか

自工会は「待ったなしの危機」と警鐘を鳴らすが、HV好調や最高益を背景にユーザーの反応は鈍い。なぜ両者の認識はこれほど乖離するのか。その原因は「新7つの課題」に見る製造者論理と、B2B2Cという業界特有の「構造的な距離」にあった。産業界の焦りが消費者に伝わらない根本理由を解き明かす。

日本自動車メーカー全社で共有する「危機感」がユーザーにはピンとこない理由

 いま、日本の自動車産業界は重大な岐路に立っています。

 自動車メーカー各社でつくる業界団体・日本自動車工業会(自工会)は、早急に業界全体の抜本的構造改革を進めないとグローバル市場で日本は生き残れないという「危機感」を強調しています。

 自工会は昨年、業界再編まで踏み込んだ議論が必要だとして「新7つの課題」を発表。

 今年に入ってからは、年4回の定例記者会見だけではなく、会長・副会長・理事らが参加する報道陣との懇談会を1月から毎月開催し、「新7つの課題」の進捗報告と意見交換を実施するというこれまでにない形をとっています。

 直近では2月18日に実施した懇談会で、佐藤恒治会長(トヨタ副会長)や毛籠勝弘理事(マツダ社長)から業界全体での「危機感の共有の重要性」が強く打ち出されたところです。

 日本の自動車産業は業界全体変革に向けて「まったなしの状態」だというのです。

日本自動車メーカー全社で共有する「危機感」とは
日本自動車メーカー全社で共有する「危機感」とは

 ところが、ユーザーから見ると日本の自動車メーカー各社がそんな非常事態に陥っているとの実感はないでしょう。

 確かに、トランプ関税の直撃で昨年半ば過ぎまでの利益が圧縮されるなど、一時的に赤字に陥るメーカーがいましたが、日米通商交渉によって米国への自動車関税は15%で決着していますので、メーカー各社の収益は来期は持ち直すと予測があります。

 また、電動化で日本メーカーには追い風です。海外で騒がれていたEVシフトも欧米では腰折れ状態で、日本の得意分野であるハイブリッド車の需要が増えているなど、国や地域の社会状況に応じて多様なパワートレインを使い分けるマルチパスウェイが主流になってきたことを挙げるユーザーが少なくないでしょう。

 知能化技術では、米中で進むAI(人工知能)を活用した完全自動運転技術を使う、いわゆるロボットタクシーについても日本の技術は米中と同等レベルあるだろうから、法律や社会受容性の議論が整えば米中と日本の差はさほど大きくならないはずだと思う人もいるでしょう。

 要するに、ユーザーは日本のクルマ(自動車産業)の未来を楽観視しているのだと思います。

 このタイミングで日本の自動車産業が一歩間違うと一気に負け組になるなんてまったく想像できないのではないでしょうか。

 しかし、現実は違います。

 日本自動車産業界は「まったなしの状態」なのだと自工会は言うのです。

 では、何がどう問題で、それを自工会はどうやって打壊しようとしているのか。

 また、そうした自工会の動きがなぜユーザーにうまく伝わらないのかを考えてみたいと思います。

 自工会「新7つの課題」とは以下の通りです。

ーーー
1. 重要資源・部品の安全保障
 〜資源・部品不足による「作れない」をなくす

2. マルチパスウェイの社会実装
 〜2050年のカーボンニュートラルに向け、マルチパスそれぞれで脱炭素商品の普及を目処付け

3. CE(サーキュラエコノミー)の仕組みづくり
 〜経済安全保障・環境対応に向け部品・資源を使い倒す仕組みを構築

4. 人材基盤の強化
 〜安定した開発・生産・販売・サービスに向けて、継続的に人材が確保・育成される仕組みを構築

5. 自動運転を前提として交通システム確立
 〜安全・安心な交通社会に向けて車両・人・インフラ三位一体で仕組み構築

6. 自動車関連税制抜本改革
 〜簡素化・負担軽減でユーザーに納得感のある税体系へ

7. サプライチェーン全体での競争力向上
 〜電動化・知能化や労働力不足に対応し、競争力を高めるべくサプライチェーンを再構築し、現場の余力を拡大
ーーー

 こうした文言をユーザーが見ても、ユーザーにとって直接的な課題だと思えるものは、税金の話や、新車の納期短縮といった話くらいで、全体としてはピンとこないでしょう。

 なぜならば、これらはメーカー(製造者)を含めたサプライチェーン側の課題だからです。自工会は、メーカー(製造者)の集団ですから至極当然だと言えます。

 つまり、新7つの課題は、メーカー(製造者)が事業を円滑に継続するための課題なのです。

 グローバルでは、アメリカに代表される保護主義の台頭や中国のように国家主導型の産業構造など、政治的な采配が自動車産業界に及ぼす影響が大きくなっており、日本のメーカー各社が個別にグローバル事業構築を進めるハードルが高くなってきました。

 また、自動運転、AI、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)などIT関連投資では、欧米の巨大IT企業が単独で数兆円規模の資金を投じるなど、これまでの日本自動車産業界の常識と二桁も三桁も違う発想になっている状況です。

 そうした中で、日本メーカー各社は個社の魅力・強みを活かしながら、協調・共創する領域を抜本的に見直す必要が高まっているのです。

 そんなメーカー側のグローバル市場における根深い課題について、日本のユーザーがビビッドに感じることは難しいでしょう。

自工会「新7つの課題」に向けて取り組む佐藤会長

 そもそも、自動車産業の基本構造は、自動車メーカーがクルマを企画・開発し、自動車部品メーカーから部品を購買し最終込み立てした完成車をディーラー(販売会社)に卸売するものです。

「自動車メーカーの顧客は、我々ディーラーだ」(大手ディーラー経営者)というB2B(事業者間取引)が基本です。

 そこから、ディーラーはユーザーに小売り(B2C)しています。全体を見れば、B2B2Cという図式になります。

 海外ブランドの一部では、ネットを介して自動車メーカーがユーザーにB2Cする商流が存在しますが、そうした事例は少数派です。

 ユーザーにとってメーカーとの接点は、メーカーが作成するホームページやSNSを介する新車情報やブランド関連情報に限定されています。

 ユーザーにとってはディーラーがメーカーやブランドの窓口であり直接的な関係のすべてになっています。

 ユーザーにとってメーカーは遠い存在だと言えるでしょう。

 自工会がいまこそ自動車産業構造の大変革が必要だというのであれば、「メーカーの事業は卸売まで」という業界図式の改造も必要なはずです。

 そうなれば、ユーザーとメーカーとの関係性の距離は一気に縮まり、「新7つの課題」のような業界全体の課題においても、新たに「ユーザー目線の課題」が分かりやすく抽出できるのではないでしょうか。

 ただし、新車販売、修理、二次流通といった、いわゆるバリューチェーンの変革については「まさに競争領域であり、自工会としてそこまで踏み込んだ議論はできていない」(1月22日・自工会懇談会・佐藤会長)という状況です。

 いずれにしても、日本の自動車産業界はいま、まったなしで取り組むべき大きな課題が山積。

 こうした状態をユーザーもある程度理解した上で、「人とクルマ」「クルマと社会」のこれからについて考える視点を持つべきだと思います。

【画像】これが日本自動車工業会の体制です。(11枚)

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。

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