スズキがレース活動に再注目? S耐に挑むプライベーターがメーカーを「本気」にさせた理由と、次期スイフトスポーツへの期待
モータースポーツから遠ざかっていたスズキ。だが、スーパー耐久に「スイフトスポーツ」で挑む國松自動車研究所の熱意がメーカーを動かした。部品供給のルールを変え、現場に足を運ぶスズキの変化。モリゾウ氏も注目するこの挑戦は、生産終了が迫るスイスポの「次期型」登場への布石となるのか。
スズキ副社長はどう思っている? 実際に聞いてみた
筆者は昨今4輪のモータースポーツに明るくなかったスズキが、Auto LaboのS耐参戦を機に“覚醒した”と思っていますが、その真相を当の本人となるスズキの技術を統括する副社長の加藤勝弘氏に聞いてみました。
―― そもそも、キッカケは?
加藤:元々は広報経由で「Auto Laboさんがうちのスイスポを使ってS耐に出ています」と聞きまして、「1度見学させてください」とS耐のピットに伺いました。そこで色々な困り事をお聞きしました。
―― 具体的にはどのような困り事が?
加藤:複数のマシンで参戦しているチームはトラブルに関する情報交換ができますが、スイスポは1台だけなのでそれができない……そんな話でしたが、「そういう事なら、ウチは協力できますよ」と。
―― それを機にサポートが始まったと。何か即断即決な感じが凄いと思いました。
加藤:我々が大々的に何かやる事はありませんが、社内には「サポートしたい」と言う気持ちのあるエンジニアはたくさんいますので。
―― 國松さんからの要望は?
加藤:色々ありますが、1つは「スズキはエンジンASSYの提供……と言う仕組みがないんです。なので、エンジンが欲しい時は中古車買うしかないです」でした。それならすぐにできますので、仕組みを変えました。
―― 國松さんの店舗に行ったら、エンジンとミッションがズラーっと並んでいて驚きましたが、そういう事だったんですね。
加藤:我々は“整えた”だけですから。
―― 簡単に言っていますが(汗)、生産側の話もあるので一筋縄ではいかないと思います。
加藤:そんなことないですよ。例えば、社内でね、我々が開発する時もベースエンジンは生産ラインから貰ってきます。
そのための手続きは社内にありますが、社外に出すルールが無かったのでそれを追加しただけです。別に凄い事をやったわけではないんです。
―― ただ、Auto LaboのS耐参戦をキッカケにルールが変わった事が凄いです。
加藤:我々には「ルール変更は大変」と言う意識はなくて、「必要なら変えればいいよね」と言う意識なだけですね。
―― 他には何かありますか?
加藤:國松さんからレース中に「ちょっとこの部品が壊れてしまい、何ですかね原因は?」みたいな電話は良く来ますね。
―― ホットラインがあるのですか?
加藤:これも普通にやっていることですけどね。ただ勘違いしてほしくないのは、公式サポートではなく、スズキのクルマ/エンジンを使っていただいている人でお困りがあるなら、『お手伝いしますよ』と言うスタンスです。
―― なぜ、そんな考えになったのでしょうか。
加藤:スズキの行動理念の1つに「中小企業経営(YARAMAIKA)」があります。
具体的には「意思決定の速さ」「人と人との距離の近さ」、「変化に対応できる柔軟性」ですが、今回の件はそれを愚直に実行したと言う事です。
―― スズキが元々持つ「やらまいか」の精神が活きた出来事だったと?
加藤:そうです。なので「凄いですね!」と言われてもこそばゆいんですよ。
―― でも、スズキの“普通”は外から見ると“凄い驚き”です。
加藤:ありがとうございます。それは我々が気づかない事なので(笑)。

※ ※ ※
実はS耐24時間ではもう1つのストーリーがありました。実はトランスミッション以外にブレーキ系のセンサーも壊れました。このセンサー、通常は壊れるモノではないため予備部品を用意していませんでした。
そんな緊急事態にチームは“藁をもつかむ”思いでSNS(X)に投稿をした所、レース観戦中だったスイフト・スポーツのオーナーさんが「僕のクルマを使ってください」と返信。
彼はオートサロンでこのクルマの存在を知り、初めてS耐24時間に来たそうですが、チームがトラブルで困っている事を知り、声を上げてくれたのです。
更に「自走不可になっても足があるので大丈夫」、「何ならミッションも必要なら、どうぞ」とまで。つまり、スイスポのS耐参戦はメーカーのみならずファンの心も動かしたのです。
そんなAuto Laboのスイスポ参戦を喜んでいるのが、豊田章男氏です。國松氏は次のように語っています。
「モリゾウさんも『よくスズキのクルマでS耐に来てくれた!』と凄く歓迎してくれています。S耐の現場にはメーカーの垣根を超えて『もっとクルマを楽しもう!』と言う空気があると思っています。
なので、良い意味での“連携”や“仲間意識”は強いですよ。モリゾウさんもSTMO理事長として気にかけていただいていますが、オートポリスの時に『うちのマシンで走りませんか?』とオファーをして、シート合わせはしてもらいました」
実はその時のやり取りについて豊田氏に聞くと、「余計な事は言いませんよ(笑)。乗ってみたい、そしてスズキの反応を見てみたいですね。修さん(鈴木修氏)から散々『バカなこと(=レース)はやめなさい』と言われてきたので、余計にスイフト・スポーツに乗った“モリゾウ”を見てもらいたいですね。ドライバーとしてはFR/4WDは良く乗りますが、FFはあまりないので、走ってみたい想いはありますね」とまんざらではない様子でした。

このようにプライベーターの挑戦が様々な化学変化を起こしたわけですが、筆者が気になるのは「次期スイスポは出るのか?」と言う所です。
ちなみにスズキの東京オートサロンのサイトでこのマシンについてこのように書かれています。
「過酷な耐久レースの舞台でもそのポテンシャルを存分に発揮し、進化を止めないスイフト・スポーツの挑戦。走りの良さを磨き上げた、ファンの想いに応える一台です」
進化を止めない→次期モデルが存在する…と考えるのが素直じゃないでしょうか。
スズキはそれに関してはノーアナウンスですが、筆者は水面下で動いていると信じます。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

































