なぜスバルのレースカーは「誰が乗っても速い」のか?過酷な「ニュル24時間」をノートラブルで制した市販車直系の設計思想【PR】

レースカーでありながら、根底に流れるのは市販車に通じる哲学――。2026年のニュルブルクリンク24時間レースで、クラス優勝という歴史的な完全勝利を成し遂げたSUBARU/STIの「WRX S4」。豪雨と晴れ間が交錯する過酷な状況下でも、ドライバーが一切の不安を感じずにアクセルを踏み抜ける異常なほどの安定感は、いかにして生み出されたのか。時計の針を巻き戻すと、そのルーツはかつての「サンバートラック」を用いた実験にまで遡るという。スバルが長年培ってきたシンメトリカルAWDの素性と、名将・辰己英治から受け継がれた設計思想の真髄に迫る。

SUBARUのマシンは何がスゴいのか

 SUBARU/STIは、2026年5月に開催されたニュルブルクリンク24時間レースで、「WRX S4」をベースにしたレースマシンでクラス優勝を飾った。通算8回目のチャンピオン獲得になる。

「世界一過酷なサーキット」と言われるノルドシュライフェ(北コース)はグリーンヘル(緑の地獄)とも呼ばれ、森の中を駆け抜けるワインディングロードは、およそレース場とは異なる風景だ。

 エスケープゾーンはなく、コース脇にはわずかに芝生があるもののその先はガードレールだ。一度コースオフすれば、即ガードレールに激突という景色が25kmにわたっている。

 そのグリーンヘルでWRX は常に安定した走行を披露し、ドライバーは口々に「運転しやすい、安定している、安心してアクセルを踏める」と言うのだ。

 2026年に優勝したWRX マシンの歴史は2023年から始まる。前年まではVA型のWRXでエンジンはEJ20型を搭載するマシンだったが、2023年に新型へシフト。VB型WRXにかわりエンジンはFA24型に変更されている。

(出典:SUBARU/SUBARU STI)

■辰己さんの興味深い設計思想について

 当時総監督だった辰己英治さんが開発を行ない、2024年の勇退後は辰己さんの下でエンジニアを務めていた沢田拓也や宮沢竜太らが、活動を引き継いでいる。

 2023年のNBRマシン開発の根底には市販車に通じる哲学が盛り込まれ「誰が乗っても速く走れるレースカー」として開発している。

 ことのきっかけは辰己さんがまだスバルの車両実験部に所属している時代に、軽自動車のサンバートラックの荷台を外したテスト車を作ったことに遡る。

 このサンバートラックは100km/hを超える速度から、急ハンドルを切ってもスピンしなかったという。もちろんVDCやABSがない時代の話だ。

 つまり、車体のねじれによって、リヤタイヤの接地荷重が逃げないことで、車両が安定しスピンしないというわけだ。

 この発想はモノコック構造になっても活かされ、レース車においても剛性の最適化が施されている。

 と同時にフロントタイヤからの入力エネルギーを遅れることなく、またエネルギー分散をせず線形形状を描いてリヤへ伝達する理論で作られているのだ。

 走行中に転舵するとクルマは外へ膨らもうとする力が発生する。そしてステアした方向に曲がろうとする力、前に進もうとする力などさまざまな力=エネルギーが発生して、クルマは曲がっていく。

 それらは転舵した瞬間に発生し、リヤタイヤへと力が繋がっていく。そのつながりはボディ、シャシーを介してつながるのだが、ボディには溶接ポイントがたくさんあり、そのポイントは力の屈曲点にもなる。

 だから分散しないように、同じ方向に力がかかった状態が作れれば、思ったとおりに曲がっていくと言う理屈だ。

 その結果、スピンをすることなく安定して走行することができ、ドライバーは安心感と同時に意のままに操れるコントロール性を手にすることになる。

 もちろん、この理論はスバルの市販車に活かされ、SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)にも活かされている。

 現CTO専務の藤貫哲郎は「あまたあるプラットフォームの中で、ウチのが一番柔らかいプラットフォームなんじゃないかな」とも言うのだ。実に興味深い設計思想でもある。

(出典:SUBARU)

■ドライバーから見たSUBARUのクルマづくり

 さて、そうした安定したマシンとなったWRXをドライバーたちは決勝レースでその性能を証明して見せたのだ。

 2026年のレースはニュルウェザーと形容されるように雨、風、雷、ひょう、豪雨といった天気が1時間おきに、あるいは30分おきに起こる荒れた天気だった。

 25kmもあるコースだと、パドックでは晴れ間が出ていても、森の奥では豪雨ということが起きている。

 だからライバルチームはレインタイヤを履くか、スリックのままか悩むことになる。

 ちなみにタイヤの種類ではスリックにミディアムとソフトがあり、レインも同様にミディアムとソフトがある。

 ただSUBARU/STIチームはスリックに溝を手彫りしたカットスリックも用意しており、このカットスリックが大活躍をしたのだ。

 ニュルウェザーの中、各マシンはレインを履いてレースをしている。

 だがWRXはカットスリックで走り続けているのだ。しかも、コンディションが刻々と変化しても4人のドライバーは「カットスリックでいける」と無線で伝えてきているのだ。

(出典:SUBARU/SUBARU STI)
(出典:SUBARU/SUBARU STI)

 これは車両の安定性が担保されている証でもある。少しでも不安な動きがあればレインを選択したであろうから。

 こうした安定しているWRXについて、開発も務めた佐々木孝太は「車両の安定性は抜群で、安心して踏んでいけるし、常に余裕を持つことができるんです」と話す。

 佐々木孝太が最初にSUBARUに乗ったのは2011年のWRX STI(GBV型)で、そこから4年連続で出場し、合計8回参戦している。年次ごとの進化を体感しつつ、2026年マシンを絶賛していた。

 また2010年から乗り続けているカルロ・ヴァン・ダムは2026年のレース後に「コンディションが頻繁に変わるので、簡単ではなかったレースだけど、エキサイティングだったよ。クルマのバランスもパフォーマンスもすごく良かったし、クラス優勝できて良かった。エンジン、ミッション、それにチームワークが強かった」と喜んだ。

(出典:SUBARU/SUBARU STI)

 そのカルロは、毎年ニュルの予選アタックが最初のドライブというのを繰り返している。

 開発にも関わらず、予選レースにも参戦しない。

 毎年、本番レースの予選でその年のマシンに初めて乗るのだ。

 2024年も同じように初めて予選を走った。そしてベストラップを刻んでしまう。

 その光景を辰己さんは「誰が乗っても速く走れる。すぐに速く走れる。そういうクルマを目指していたけど、ある程度形になったかなぁ」と当時語っていた。

 2026年は井口卓人が4月の予選レースでSTI史上最速タイム8分43秒021を計測した。

 その速さをみたドライバーたちは本番レースで余裕ができた様子だった。つまり「いつでも踏めばタイムは出せる」という手応えをつかんだからだ。

 ベストラップを目指すカルロでさえ、9分2秒台で「もういい」とアタックをやめているほど余裕があったのだ。それほどまでに安定した性能をもったレーシングカーに仕上がっていたと言えるのだ。

(出典:SUBARU/SUBARU STI)

■「完全優勝を達成」

 その背景として、WRXには素性の良さとしてシンメトリカルAWDもある。

 これは水平対向4気筒のエンジンを真上から見ると、左右対称のレイアウトになっており、ミッションも縦置きにできるため、左右のバランスが均等であり、つまり4本のタイヤの接地荷重が均一にしやすい構造であることがわかる。

 そしてSUBARUが長年研究しているAWD制御は、前後のトルク配分を多板クラッチを使って制御し、またLSDのイニシャルトルク(初期圧力)も、一般的には高めの数値になる。

 WRXでは、これまでのレース経験からオープン(圧力ゼロ)に近い適値をみつけ走行している。こうした培われた経験と、素材がもつ優位性を最大限活かしながら造られているわけだ。

(出典:SUBARU/SUBARU STI)

 一方で、量産車をベースにしているため、全てがレース部品で構成されているわけではない。

 量産パーツと同じものが多数あり、それが時折、ニュル24hの過酷さゆえにトラブルを引き起こしてきたことも事実だ。

 量産部品では強度、剛性、柔軟性が不足し修理対応をしながら戦ってきた歴史がある。またそうしたトラブルは市販車開発にフィードバックされているのは言うまでもない。

 こうして、2026年「#88SUBARU WRX NBR CHALLENGE2026」はノートラブルで優勝という歴史に残る完全勝利を勝ち取ったのだ。

Writer: 高橋アキラ

東京都出身。大学卒業後、自動車雑誌編集部で編集記者として活動し、主に改造車を得意とする分野で執筆。自らRE、L型エンジンのチューニング、組み立て、テストまで行なった経験を持つ。その後編集プロダクションを設立し、輸入車、国産車の自動車専門誌制作、執筆活動。ラジオ番組制作会社と合併し、クルマのラジオ番組制作、自動車専門Webの編集、執筆を経て、現在、ラジオ番組パーソナリティ、専門誌への執筆、Webへの投稿をしている。技術に裏付けられた個体評価や、次世代に向けた新技術解説、近年では変化する自動車産業について執筆、トークをする機会が増えている。

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