「未来型“4WD”スポーツカー」がスゴい! 1.5リッターエンジン搭載で「360馬力以上」! ガバッと開く「斬新ドア」&“軽量ボディ”採用! BMW「i8」はなぜ今も色あせないのか?
すでに2020年に生産を終了したBMW「i8」ですが、そのコンセプトや走りは色あせるどころか、電動化が進んだ現在だからこそ新鮮に映ります。中古市場で手が届く価格帯に入った今、改めてその魅力を検証します。
市販前プロトタイプで感じた「i8」の衝撃
BMW「i8」は、スポーツカーでありながら電動化を前提に設計された、極めて先進的なモデルでした。
1.5リッター直列3気筒エンジンとモーターを組み合わせたプラグインハイブリッドシステムや、CFRPを用いた軽量構造など、その成り立ちは現在の電動スポーツカーにも通じるものがあります。
生産終了から数年が経った今だからこそ、その挑戦的な価値がよりはっきりと見えてきます。

2013年の夏、南フランスのミラマにあるBMWのテストコース。2014年から市販が予定されているi8の最終プロトタイプに試乗する機会を得ました。
概要は発表済み、ミッドシップに1.5リッターの直列3気筒ターボエンジン、フロントにモーターを搭載。外部電力による充電が可能なPHEVです。
エクステリアとインテリアはカモフラージュされていますが、2009年のフランクフルトショーに展示されたコンセプトカーのビジョン・エフィシェント・ダイナミクスとシルエットは同じ。
イタリア車のスーパースポーツほど低くはありませんが、斜め上方に開くシザードアはそれだけで特別感を際立たせる役割を果たします。
ただ、パワーユニットは建て付けが控えめ。ところが、試乗を始めると印象が一転します。アクセルを踏み込むと、背後から直列3気筒とは思えない低周波を効かせた吸排気音が響きます。
モーターのアシストも重なるので、加速感は3リッタークラスのターボエンジン搭載モデルのレベル。市販が待ち遠しくなったことは言うまでもありません。
そして2014年の秋、箱根の有料山岳路を閉鎖して実施されたi8の試乗会に参加。さっそく乗り込み、イグニッションスイッチをオン。6速ATのセレクターをDから左に倒すと、走行モードがスポーツになりエンジンが始動します。
ステアリング裏側のパドルを指先で弾き、占有走行なので思い切りよくフル加速。最高出力231馬力を発揮するエンジンと131馬力を発揮するモーターのシステム出力は、362馬力に達します。
パワーユニットの性能は、数値として際立っているわけではありません。なのに、体感できる刺激は数値を忘れさせてくれます。その理由は、ドライブモジュールと呼ぶシャシーをアルニウム製とし、ライフモジュールと呼ぶボディの骨格はCFRP(炭素繊維強化樹脂)製として徹底した軽量化を実現しているからです。
レーシングマシンのような建て付けにより車両重量は1500kg。当時のBMW「M4(先代モデル)」の車両重量は1640kgなので、その軽量ぶりは確かといえます。
しかも、プロトタイプよりも走りが進化。ATのシフトはアップでもダウンでも鋭さが向上しています。特にシフトダウンでは、ヴォンという歯切れのいいエンジン音が響きます。
実は、エンジン音にスピーカーからの演出音を重ねることで、3気筒ではなく直列6気筒のような全身と聴覚に響く刺激を得ているわけです。ただ、フェイク感はまったくなく、リアルなエンジン音として楽しむことが可能。そして、7000回転に迫る勢いでトップエンドまで一気に吹け上がります。
さらに、コーナリング性能も驚異的です。20インチのタイヤサイズは、フロント195、リア215サイズという細さ。なのに、不安感とは無縁。
占有走行でサーキットを本気で攻める速域まで試しましたが、路面に張り付くような安定性と正確な操縦性を実感しました。ストリーム・フロー・ラインと名付けられた風の通り道を、そのままエクステリアのデザインとして成立させた空力特性により、強烈なダウンフォースを体感したということです。
当然、空気抵抗低減の効果も得られます。細いタイヤは走行抵抗の低減にも寄与。その目的は、環境性能と動的性能を高い次元で両立させることでした。当時のBMWが掲げていたエフィシェント・ダイナミクスを具現化したモデルが、i8といえます。
別の機会に一般路で試乗したところ、Dレンジのままなら走行モードはコンフォートに。充電量が十分であれば、60km/hあたりまではモーターのみで走行します。eDriveモードでは120km/hまでモーター走行を維持し、一充電走行距離は最長35km。市街地ではエンジン音を響かせることなく、滑空するように走り抜けるi8は、オーナーの感性のスマートさも表現できる存在でしょう。
当初の価格は1917万円で、2019年の最終型は2135万円。レーシングマシンのような建て付けを採用しながら、スーパースポーツとしては割安感があります。
現在は中古車市場で700万円台から流通しており、課題はリチウムイオンバッテリーの寿命。メーカー保証は8年で、2018年式ならギリギリ保証内です。
高年式車は1000万円超となりますが、購入価格を抑えてバッテリーを交換する選択肢もあります。交換費用は工賃込みで最大200万円ほど。それでも1000万円以下に収まり、同年式のポルシェ「911カレラ」と比較検討する価値は十分にありそうです。
Writer: 萩原秀輝
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。在学中からフリーランスのモータージャーナリストとして活動を開始し、同時期にツーリングカー・レースにも参戦。豊富なクルマの知識とドライビング理論を活かし、自動車メーカーなどが主催する安全運転教育の講師を数多く務めた経験を持つ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


























