トヨタが凄い「カローラクロス」公開! 水素エンジンの仕上がりは? “ガソリン車と変わらない”走りの裏にある「仲間たち」の奮闘とは
水素エンジンカローラクロスに試乗しました。S耐で鍛えた技術は「ガソリン車と変わらない」驚きのスムーズさです。その裏には、水素社会の実現に向けた、インフラを支える「仲間たち」の地道な努力がありました。
「全然スムーズ」な水素カローラクロス! 驚きの仕上がりの裏にあった「仲間たち」の地道な努力とは
トヨタが開発を進める「水素エンジンカローラクロス」が、ついに試乗可能な段階まで仕上がってきました。
スーパー耐久レースで鍛えられた燃焼技術や、工夫された車両パッケージングも注目ですが、実際の走りは「ガソリン車と変わらない」驚きのスムーズさを実現しています。

●S耐で鍛えた「ストイキ/リーン」切り替え技術
今回お披露目された「水素エンジンカローラクロス」は、S耐(スーパー耐久)レース車両と同じG16型水素エンジンを搭載。カローラクロス向けに最高出力150kWにデチューンされ、8速オートマチック(GR-DAT)が組み合わされています。
最大の特徴は、S耐の現場で鍛え上げられた高出力と低燃費を両立する燃焼制御技術です。
GR車両開発担当の伊東氏は、「燃費を良く走らせるため『ストイキ』と『リーン』の切り替え技術をS耐の場で鍛えてきました。これを今回のカローラクロスに投入しています」と説明します。
ストイキ(stoichiometric)燃焼は、過不足のない空気で燃料を十分な量噴射し、高出力を得る技術。対するリーン(lean)燃焼は、過剰な空気の中で燃料を“少ない目”に噴射し、低燃費と低NOx(窒素酸化物)を実現。走行中のドライバーのアクセル操作に応じ、この二つをシームレスに切り替えるのです。
パッケージングにも工夫が凝らされ、ガソリン車と同等のラゲッジルームを確保しつつ、床下にフロントタンクとリヤタンクを配置。開発ステップと共に水素搭載量も進化しており、初期の3.5kgから、リヤタンクやフロントタンクの大型化を経て、現在は合計6.7kg(171L)の仕様で認可取得中だといいます。
●【試乗】「ギクシャク感ゼロ」のスムーズな走りを実現
今回、その注目のカローラクロスに試乗する機会が得られました。
1周目は、30kmから40km/hのスピードでアクセルをオンオフし、(リーンとストイキの)切り替えを体感。2周目は、加速感や、パドル(シフト)での変速感を試してみました。
まず1周目。指示通り30~40km/hでアクセルを緩めると、即座に「リーン」表示に切り替わります。再び踏み込むと「ストイキ」に戻りますが、その切り替えは驚くほどスムーズ。
同乗した担当者スタッフは「ドライバーが意識することなく勝手に切り替わります」と言う通り、ショックやタイムラグは一切感じられません。
続く2周目。コースインしてアクセルを床まで踏み込むと、水素エンジン特有のサウンドと共に力強く加速していきます。パドルシフトを使ったシフトダウンにも、エンジンは即座に反応します。

以前の試作車(レクサスLX)に乗った時はもう少しギクシャクさがあったのですが、今回は全然スムーズ。普通に乗っていて全く問題ないレベルでした。
また同乗スタッフは、「ガソリン車から大きく変更する部分は、水素タンク、水素配管、インジェクターです。それらを替えると、ガソリンエンジンの車が燃料を替えて水素エンジンの車になる。他のエコカーに比べると、割と小規模な変更でエコカーが作れるのも特徴です」と、その利点を語りました。
●クルマとインフラは「花とミツバチ」 ワンチームで水素社会を加速
この車両開発と並行して、インフラ側の整備も急ピッチで進められています。
トヨタのCVカンパニーの太田氏は、「我々クルマ開発と、社会のインフラ会社の皆さんの開発を、ワンチームでお話しするのは初めてです」と切り出しました。
太田氏は「『卵が先か鶏が先か』ではなく、『花とミツバチ』のように、全員が同時に一つの思いで加速させたい」と述べ、会場に集まった根本通商、加地テック、ブリヂストン、JHyM(ジェイハイム)といったパートナー企業を「ワンチーム」として紹介しました。
レースで培われた技術がインフラにもフィードバックされており、2021年に挑戦した「3倍速充填」技術が次世代の大型トラック向け充填規格に繋がっていることや、トヨタ「MIRAI」のタンクで水素を運ぶ技術がJAFのロードサービス車や船舶に応用されている例も紹介されました。
●水素価格低減へ! インフラを支える「仲間たち」の地道な努力
インフラ普及の最大の壁は「水素価格」です。
JHyMの森氏は、水素価格の内訳には調達・輸送費のほか、ステーション運営の労務費、そして機器の「修繕費」が大きな割合を占めると指摘します。
この「修繕費」の低減に向け、インフラ企業も地道な努力を続けています。
●根本通商「“自前で”整備しコストダウン」
ステーションを運営する根本通商の緑川氏は「圧縮機整備や法定点検といった修繕費がコストを圧迫していました。修繕を業者に依頼すると数日かかってしまうケースもあり、いかに自分たちで期間を短縮できるか悩んできました」と述べています。
そこでトヨタの協力も得て、技術の無かった「外注作業を自前化」することに挑戦。2024年9月には、ついにステーションの心臓部である圧縮機のオーバーホールを「自分たちの手で手掛けることができました」と、胸を張ります。

●加地テック「部品交換“年2回を1回”に」
圧縮機メーカーの加地テックの片山氏は、部品の長寿命化に取り組んでいます。
片山氏は「修繕費削減で最も大きな課題は、ピストンリングなど摺動(しゅうどう)部品の長寿命化です。
ステーションによっては1年に2回部品交換が必要な場合もあり、これを1年に1回に減らすことを目指して活動しています」と語ります。

●ブリヂストン「ホースの寿命を“10倍”に」
ブリヂストンの原島氏は、高圧水素を充填する「ホース」の耐久性向上について語ります。
原島氏は「従来、1000回程度の使用で交換されていたホースに対し、我々は安全性を確保しながら2000回、3000回と使用回数の延長に取り組んでいます。最終的な目標は、現在の10倍である1万回です」と説明していました。
※ ※ ※
「ガソリン車と変わらない」と評されるほどスムーズな走りを見せた水素エンジンカローラクロス。
その裏側では、水素を「より使いやすく、より安価に」するため、インフラを支える「仲間たち」による地道な技術革新と努力が続けられていました。
クルマとインフラが一体となった「ワンチーム」の取り組みが、未来の水素社会を力強く牽引していくと言えそうです。
Writer: くるまのニュース編集部
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