そこまで? 新型「デリカミニ」に注がれた三菱のDNAと妥協なき走りへのこだわり
2023年の登場からわずか2年で新型へ。「デリカミニ」が早くもフルモデルチェンジを遂げた。日産との共同開発でありながら、そこには「三菱らしさ」への強いこだわりが息づいている 。悪路をものともしない専用ドライブモードや、「デリカD:5」の思想を受け継ぐ専用サスペンションなど、軽自動車の枠を超えた作り込みの秘密とは 。開発チームの熱い言葉から、その妥協なきクルマ作りの核心に迫る。
開発期間わずか2年。新型に注ぎ込まれた「本物の三菱らしさ」
「デリカミニ」はNMKV(日産と三菱のジョイントベンチャー)が企画を行ない、日産が設計・開発、三菱が生産を担当していますが、走り味付けは三菱独自で行なったモノが反映されています。
その関係は2代目となる新型も同じですが、より色濃く反映されているのは試乗記を見てもらうと明らかです。
直近の三菱のプロダクトは今まで以上に「三菱らしさ」を強調していますが、その辺りをこだわりを開発チームに聞いてみました。

ーー まずデリカミニが登場したのは2023年、僅か2年でフルモデルチェンジと言うのはやや早い気がしますが、その辺りは?
三菱:確かにデリカミニとしてはそうなのですが、ベースとなった「eKクロススペース」は2020年デビューですので…。
今だから言えますが初代を進めつつ、新型を並行して進めていた時期もありました。
ーー ある意味、初代はリリーフ的にデビューしました。色々な制限がある中で“三菱らしさ”を付加させていますが、新型は?
三菱:初代は途中からでしたが、新型は最初からですので、こちらの要望もシッカリと盛り込めたと思っています。
我々が生き残るためには「三菱らしいクルマを作ろう」、「これぞ三菱らしい商品」が必要ですので、多少お金がかかっても、こだわるところはこだわろうと。

ーー その1つが悪路走行をサポートするデリカミニ “専用”のドライブモードセレクトです。ドライブモード自体は日産「ルークス」にも採用されていますが、デリカミニの4WDモデルには5つのモードが設定されています。
三菱:ECO/NOMAL/SPORTは日産と同じですが、GRAVEL/SNOWは三菱独自のロジックになります。
デリカミニのターゲットカスタマーは「気軽にアウトドアを楽しみたい家族」です。
当然キャンプ場や河原と言った非舗装路を走る時のサポートはシッカリすべきだろうと。
もちろん初代でも問題なく走れるポテンシャルはありますが、新型はより楽に、より安心して走れると思います。

ーー どのような制御をしているのでしょうか?
三菱:グラベルは駆動力優先(エンジンレスポンス:高/CVTレスポンス:高、TCLレスポンス:小、ブレーキLSDレスポンス:高)。
スノーはスタビリティ優先(エンジンレスポンス:小、CVTレスポンス:小、TCLレスポンス:高、ブレーキLSDレスポンス:小)の制御を行なっていますが、この辺りの基本的な考えは弊社の他のSUVと同じです。
ちなみに新型のパワートレインはアクセル開度応じたスムーズな回転フィーリングを目指しましたが(これは日産/三菱共通)、NOMALを決める時に「それならGRAVEL/SNOWはこうだよね」と考えながら進めていました。
ーー 今回はGRAVELを試しましたが、「気軽にアウトドア」と言いつつもかなりガチな所も走れてしまう性能に驚きました。
三菱:そこは弊社ですので(笑)。片輪が浮くような状態だとNOMALでもブレーキLSDを使ったグリップコントロールは作動しますが、アクセルを大きく踏み込む必要があります。
解っているとできますが初心者はそうはいきません。GRAVELはアクセルを踏み込むとグリップコントロールが早めに作動しますので、不安なく走れると思います。
ちなみに弊社の十勝テストコース内のオフロードはフレーム付SUVの開発で使うのでかなり厳しい路面ばかりですが、デリカミニもシッカリと走れます。
ーー ある意味、過剰スペックに感じます(笑)
三菱:三菱らしさを表現する「安心・快適」に繋がりますので。
ただ、デリカの名を冠しているので、みんな頑張ってしまうんですよ(笑)。
ーー 日産のエンジニアの理解は?
三菱:すごくあります。ただ、弊社のテストコースも走っていただき、我々の考えや想いを理解してもらいました。
ただ、オフロードコースは「そんな速度でそこに進入するの?」とかなり驚かれていました。我々にとっては普通ですが、そこは文化の違いですね。

ーー ちなみにドライブモードセレクト用のダイヤルは「アウトランダーPHEV」と同じパーツが使われています。これもこだわりですか?
三菱:そうですね。FFはルークスと同じスイッチですが、「4WDはそれではダメだよね」と。
そこでエアコンパネルはデリカミニ4WD専用に新規で起こしました。
ただ、エアコンの各機能を犠牲にせずにダイヤルをレイアウトするとドライバーから離れてしまい操作性が悪い。
そこでダイヤルを運転席側に20mm近づけるために、本来エアコンパネル状にあったステアリングヒーターのスイッチをインパネ右に移動することで成立させています。
ーー 普通のクルマだったらNGですよね(笑)。
三菱:たかが20mmですが、ドライブモードは運転中に使いますのでそこを優先しました。
ただ、この設計は日産さんの担当ですが、我々の要望をシッカリ叶えてくれました。

ーー もう1つがデリカミニ4WDの三菱専用のサスペンションセットアップです。兄弟車のルークスはオンロード向けですが、デリカミニは上記からも解るようにオンロード/オフロードを両立させる必要があります。その辺りはどのように実現したのでしょうか?
その前に三菱の強みの1つは悪路でもへこたれない“堅牢性”です。そのためには強い車体が求められます。しかし、そこに関しては日産の考えもある。その辺りはどのような折り合いをつけたのでしょうか?
三菱:実はそこはあまり悩まなかった部分ですね。
日産さんに走りに一過言ある担当がいまして、「車体は大事だよね」という部分は共通でしたので、初代から軽自動車にしては贅沢な設計です。
新型はその素性をより活かす方向で高剛性スタビリンク、アルミ製ナックル、ブッシュの位置変更などを行なっています。
ーー 専用サスペンションは初代でも採用していますが、新型は何が違うのでしょうか?
三菱:1つは弊社のデリカD:5を担当するエキスパートが担当していること、もう1つは弊社のテストコースでセットアップを行なったことですね。
ただ、設計は日産さんですので試験車を長期間借りることが難しかったので、短期間で効率よく進めました。
ーー 目指した走りは「荒れた路面の安定性と快適性はそのままに、操作に忠実で安定したハンドリング」とのことですが、そのために注力したのはどこでしょうか?
三菱:進化した電動EPS(小型軽量ブラスレスモーター搭載)やスプリング(フロント:ダウン、リア:アップ)/スタビライザー(剛性+20%、中実から中空)は日産さんと同じですが、ダンパーに三菱初採用のカヤバ製のプロスムースを採用したことですね。
このダンパーは摺動(しゅうどう)抵抗を綿密に制御することで乗り心地と走行安定性を両立できる優れものです。

ーー その特性を活かした部分はどこですか?
三菱:初代と車両重量が変わらないので基本的な特性は変えていませんが、こだわったのは極微低速域の減衰力をシッカリとコントロールしたことですね。
それによりアタリの丸い乗り心地はもちろん、軽自動車らしからぬ質感の高い乗り味にも貢献しています。
ーー 乗り心地はいいけど、シッカリ感はある乗り味に仕上がっていると感じました。ロールは比較的大きめですが、走らせていて不安にならない秘密はどこにあるのでしょうか?
三菱:それはロールを“悪”だと思っていないことだと思います。
理由は三菱のモデルはオンロードとオフロードの走りを両立させる必要があるからです。
ただし、ロールのコントロールには徹底してこだわっており、ジワーッと動いてある領域でシッカリと踏ん張るような味付けを心がけています。
ちなみにデリカミニもデリカD:5も同じ考えでセットアップを行なっています。
ーー 実は今回デリカミニとデリカD:5を同じ場所/同じ条件で乗せてもらいましたが、パッケージもサイズも車両重量も違うはずなのに「どこか乗り味似ているよね?」と感じた理由はそこだったんですね? ただ、乗り心地は圧倒的な差でデリカミニの勝ちです(笑)。
三菱:そこは我々も認識しておりますので、今後の課題にさせてください。
ーー ちなみにタイヤは初代と同じ165/60R15サイズですが、同じモノですか?
三菱:タイヤは開発費にお金が掛かってしまうので、今回は変更せずにサスペンション側で頑張ってもらいました。

ーー やはり、変更したほうがより良くなる?
三菱:もちろんYESかNOで言えば「YES」ですが、オフロードはタイヤに依存できない所もあるので、結果としては今のパッケージでいい走りに仕上がったと自負しております。
ーー 重箱の隅を突くと、EPSがどちらかと言うと日常域の取り回しを重視の味付けに感じました。個人的にはもう少しドシっと手ごたえがあったほうが、クルマ全体の走りのバランスが整うような気がしましたが?
三菱:鋭い所に気付かれましたね(汗)。
今回EPSは日産/三菱共通のため手を入れることができませんでしたが、より三菱らしさを付加するために必要な要素なのは我々も認識しています。
更に言うとFFモデルは日産ルークスと同じセットアップなので、こちらもデリカミニ専用にできるといいなと目論んでおります。
デリカミニは弊社にとって重要なモデルですので、今後もシッカリ育てていきます。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

















































