日産が「まさかのR36 GT-R」で参戦⁉ 「ハイパーフォース」意識の「GTR」 若手社員が70万円で手掛けたマシンとは
日産自動車の社内チームが、「R36 GTR」と名付けた手作りマシンでエコランに参戦しました。チーム体制やエコラン出場の理由、マシンについて紹介します。
コンセプトカー「NISSAN HYPER FORCE」がモチーフ
GT-R生産終了が目前に迫った2025年8月23日、日産自動車のチーム「日産生産技術開発」は、東京都多摩市の東急自動車学校で開催された「エコ1チャレンジカップ」に出場しました。

同イベントは、公益社団法人自動車技術会関東支部、東京都市大学、日産自動車で共催する中・高校生による手作り電気自動車のコンテストです。その原点となる「バッテリーカーコンテスト」は、1998年より年1回のペースで実施される歴史ある大会です。
モノづくりの楽しさやエネルギー問題の学びなどを目的に、中・高校生がチームを組み、手作りの電気自動車で競われるものです。本年の大会では、関東、長野、静岡、奈良から19チームが参加。そのうち唯一の大人によるチームとして、日産自動車がエントリーしました。
日産自動車チームのエントリーマシン名は、「R36 GTR」という日産らしい高性能が期待されるもの。
まずはマシンスペックを紹介しましょう。ボディサイズは、全長1700mm×全幅800mmで、車両重量が25.5kg。シャシは、アルミ製のグリーンフレームを採用。ステアリング機構は、ラック&ピニオン式とすることで、シンプルかつスムーズな操作を実現しています。レイアウトは、フロントが2輪、リヤが1輪の3輪車で、後輪駆動仕様に。モーターには、軽量なコアレスモーターを搭載しています。
エクステリアデザインは、「ジャパンモビリティショー2023」で発表されたコンセプトカー「NISSAN HYPER FORCE」をモチーフに、未来のGT-Rをコンセプト、モデリングしたそう。そのフロントマスクには、コンセプトカーの特徴的なグリルを受け継いでいます。
さらに、フロアパネルには、高強度と軽量を両立した炭素繊維強化プラスチックを使う贅沢さ。製作費は、70万円とのこと。特に高価な部品を尋ねると、特注のコアレスモーターで、製作費の多くを占めています。
開発と出場を行ったのは、日産自動車車両生産技術開発本部生産技術研究開発センターの若手社員で構成された約20名のメンバー。日常の業務は、新車の量産化に必要となる技術やシステムの開発をしています。
そんな日産の最前線で活躍する若者が、中・高校生たちの勝負に乗り込むのは大人げない気が…という声も聞こえてきそうですが、もちろん、日産チームは特別枠。勝敗には関係ありません。
あくまでモノづくりのプロが、同じ条件下で、開発したマシンを子供たちに見てもらい、モノづくりへの関心を高めることが狙い。しかし、今回の挑戦で、日産の若手たちは、エコランマシンの難しさと子供たちの凄さを実感したようです。
チームリーダーの滝野さんに話を伺うと、当初は、モーターは48V、エネルギー回生を行うという高度なシステムで、最高速度60km/hを想定していたそうですが、実際に走らせてみると、暑さや重量などが原因でバッテリー容量が不足し、完走できないことが判明。そこで最終的には、レースでの最高速度記録か、完走かの決断を迫られたといいます。
議論の結果、全員が完走を目標とすることで一致。モーターを24Vとし、制御システムを簡素化による軽量化する道を選びました。ただ重量増の要因でもあるエネルギー回生システムの効率は高いことが確認できたそう。そして、会場では、猛暑の中でも安定した走りを見せる学生たちの参戦マシンに大きく刺激を受けたようでした。
チームの責任者である日産自動車の生産技術研究センター部長の松本将師さんは、「それぞれの専門性を持つ若手技術者ですが、専門性の違いから、必ずしもクルマの構造に詳しいわけではありませんし、一からのクルマ作りの経験はなく、レースの経験もない。初めてのエコランのマシンづくりを行うことで、柔軟な思考を持つ中高生たちと同じ目線で戦い、クルマ作りの面白さや難しさを味わってほしかった」と話します。
そこで今回のプロジェクトを、クラブ活動ではなく、業務扱いとすることで、限られた時間の中で、メンバーが集中して取り組める環境作りも行ったそう。
もちろん、これは「日産の看板を背負っている」という上司からのエールでもあったのでしょう。それに応えるように、当初はバラバラだったチームも、レース直前になる頃には、見事なチームワークを見せるまでになったそうです。
既にチームメンバーは、今回の課題を克服し、再挑戦したいという強い意気込みを見せています。松本さんも「大会には、日産の様々な部署からのボランティアが参加していて、そのメンバーには、各部門のエキスパートたちの姿も見られました。来年は彼らも巻き込んで、もっと子供たちを驚かせるマシンを見せたい」と笑顔で話します。
レース終了後は、チームメンバーの日産自動車の若手技術者と技術者の卵である中・高校生がR36GTRを前に、交流する場面も見られ、子供たちへの良い刺激にもなったようでした。
日産の未来を担う若手の情熱がほとばしるチーム「日産生産技術開発」は、来年に向け、どんなマシンを仕上げるのか、今から楽しみです。
Writer: 大音安弘(自動車ライター)
1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に『ナビカーズ』『オートカーデジタル』『オープナーズ』『日経トレンディネット』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。
















































