各自動車メーカーが新型モデルや斬新なコンセプトカーを発表し、注目を集めるモーターショー。

　しかし、出展時に大きな反響を呼んだにもかかわらず、市販化に至らなかったコンセプトカーも少なくありません。

　そのなかでも、特に斬新なデザインで話題となったのが、日産の海外向け高級ブランド「インフィニティ」が出展した「クラーザ」です。

　インフィニティのブランドビジョンは、「人生、スタイル、クルマにおいて、他とは異なる個性を追求する大胆で個性的な人々のために、ラグジュアリーな体験を創造すること」です。

　日産の本拠地である横浜からデザインとサービスのインスピレーションを得て、唯一無二の価値を提供しています。

　そんなインフィニティのクラーザは、2005年に米国デトロイトで開催された「北米国際自動車ショー（NAIAS、通称デトロイトショー）」で初披露されました。

　このクルマは、3列シート6人乗りのレイアウトで、ミニバン、セダン、SUVを融合させた斬新なモデルです。

　インフィニティは「将来の高級車では『すべての乗客が平等に扱われるべき』」という考えのもと、このユニークなデザインを追求しました。

　高級SUVを設計する際、デザイナーが特に重視したのは、3列目シートへのアクセスのしやすさです。

　1列目と2列目に加え、3列目にもドアを設け、これまでにない「6ドア」を採用しました。

　フロントドアはヒンジ式ですが、2列目と3列目のドアは観音開き構造とし、抜群の開放感を実現しています。

　多くのSUVでは、乗車人数が多い場合、個人スペースが確保しにくいという課題があります。

　特に、3列シートかつ7人または8人乗りのSUVでは、スペースに制約が生じがちです。

　そこで、クラーザは6人乗りとすることで、各シートにゆったりとしたスペースを確保する設計を採用しました。

　さらに、1列目から3列目までアーチを描くようなセンターコンソールが左右のシートを区切り、各シートが独立したパーソナルスペースを提供します。

　これらの工夫により、「すべての乗客が平等に扱われる」というコンセプトを実現しています。

　クラーザの外観は、力強さと優雅さを兼ね備えているのが特徴です。

　同時のインフィニティの「FX」や「M45」、日産の「ムラーノ」や「スカイライン」に似た、縦型のヘッドライトや「ダブルアーチ」のフロントグリル、ワイドなフェンダーなどが採用されています。

　インテリアには、伝統的な日本のデザインが取り入れられています。

　例えば、シートバックの形状は「十二単」から着想を得たもの。

　また、シートバックのインフィニティロゴは、家紋をイメージした位置に配置されています。

　さらに、16インチ×6インチの大型縦型センターモニターには、自然や四季折々の風景が表示されるようプログラムされており、現代版の掛軸を表現しています。

　このように、クラーザは乗車するすべての乗客に平等な広さと快適さ、そしてラグジュアリーな体験を提供します。

　ボディサイズやパワートレインの詳細は明らかにされませんでしたが、従来の高級SUVに一石を投じる斬新なデザインは多くの反響を呼びました。

　しかし、6ドアという革新的な構造の実現は難しかったのか、現在まで市販化には至っていません。

　それでも、その後に登場したインフィニティ「QX56」は、クラーザを彷彿とさせるデザインを採用しており、クラーザのDNAが今なおインフィニティに受け継がれていると言えるでしょう。