【潜入してみた!】働くクルマの代表格「消防車」はどう作られるのか? 国内シェア6割、モリタの専用工場を徹底取材

私たちの生活を災害から守る「消防車」は、国内におよそ4万台存在する「働くクルマ」の中でも特に多様な仕様を持つ特殊車両。国内シェアの約6割を占める消防車業界のリーディングカンパニー、モリタホールディングスは兵庫県三田市にあるアジア最大級の専用工場で日々、消防車を製造しています。一見同じように見える消防車ですが、地域ごとの要望を反映した「一品もの」。その製造工程と進化の最前線に迫ります。

【消防車のつくり方】業界最大手モリタホールディングス・兵庫県三田工場見学

 よく、”働くクルマ”という表現がありますが、これはトラックベース車両を使った様々な大型商用車を指します。

 いすゞ自動車によると、働くクルマの国内保有台数は、2025年3月末時点で400万4000台。これは乗用車の6205万6000台の15分の1の規模です。

 働くクルマのうち、「運ぶ」を担うトラックは271万8000台。使用年数は10〜18年で、年間の需要は約13万台。

 また、消防車、高所作業車、そしてゴミの収集を行う塵芥(じんかいしゃ)車などの特装車が128万5000台。これらの使用年数は15〜25年で、年間約4万5000台の需要があります。

 こうした特装車の中でも、多様な仕様があるのが消防車です。

 そんな消防車はどうやって作られているのでしょうか。

大きな消防車も! モリタホールディングスのマザー工場を見学!(撮影:桃田健史)
大きな消防車も! モリタホールディングスのマザー工場を見学!(撮影:桃田健史)

 今回、この分野で国内シェア約6割を誇るモリタホールディングスのマザー工場で消防車製造の流れをじっくり拝見しました。

 場所は兵庫県の三田(さんだ)市。大阪市内や神戸市内から高速道路などをクルマで1時間前後、また大阪伊丹空港からですと40分弱の距離にある三田テクノパークの一角です。

 モリタ三田工場に到着すると、想像していたより規模が大きな施設であることに驚きました。

 敷地面積は5万6934平米で、年間600〜700台の消防車を製造するアジア最大級の専用工場なのです。

 モリタは、1907年(明治40年)に森田正作氏が創業し、日本初のガソリンエンジン付消防ポンプを完成させた消防車業界の老舗。

消防車の国内シェア約6割を誇るモリタホールディングスのマザー工場(撮影:桃田健史)

 現在の連結従業員数は1748人に及び、2025年3月期の連結売上が1117億円。

 このうち、59%が消防車両事業、24%が消化器や消火設備の防災事業、11%が塵芥車等の環境車両事業、そして6%が産業廃棄物処理機等の産業機関事業という事業体系となっています。

 モリタ三田工場を詳しく見ると、はしご車のはしご等の部品製造を行う西工場と、車両の組立や塗装を行う東工場に分かれています。

モリタ三田工場の内部(撮影:桃田健史)

 このうち今回は、東工場を視察しました。では、消防車の製造順序を見ていきます。

 まず、国内外のトラックメーカーからシャシを入荷します。

 トラックメーカーでは「キャブ付シャシ」とも呼ばれる状態で、運転席の部分と車体、そしてエンジンが搭載されて自走できる状態を指します。

 次に、キャビンを朱色に搭載して、ポンプユニットを積み込みます。

 このポンプが消防車の心臓部となり、エンジンからの動力を車輪の駆動用とポンプ用に振り分けます。

 具体的にはトランスミッション後部から別のドライブシャフトを取り付けて、それを動力にポンプを動かす仕組みです。

 これを、消防の業界ではPTO(パワーテイクオフ)と呼びます。

 ポンプは放水やはしご車の作動に使われるのですが、ポンプ作業中はかなりの出力を必要とするため、エンジン回転数はかなり高く、エンジン音も大きくなります。

1台1台仕様が異なる消防車(撮影:桃田健史)

 次の製造工程では、後部側板の取り付けやステップなどを架装します。

 さらに、後部側板を塗装した後、シャッター・ブラケット類・電気部品の取り付けは、配線工事を行い、消防車として出来上がり。

 これから先は、社内検査としてポンプの試運転や調整などを行ってから、第三者機関による受託評価を受け、問題がなければ消防車は完成となります。

 なお、モリタ三田工場の敷地内では各種のテストを行える体制を敷いています。

 例えば、直径13cmx高さ5cmの突起物を768箇所埋め込んだ全長52mの悪路走行路。

 最大傾斜角度26.6度の全長20×幅6mの登坂走行路、また最大傾斜角度40度で最大荷重44トンの転覆角度測定装置などを完備しているのです。

まさに、消防車は”一品物”(撮影:桃田健史)

 モリタホールディングス関係者は「ポンプ車やはしご車など、消防関連車両には様々モデルを用意していますが、各地の地理的な状況などを考慮してユーザーからは詳細な要望がある」と言います。

 そうした要望の中で「ボディカラーの朱色についても違いがある」とのことで、筆者は少々驚きました。

 ここでいうユーザーとは、全国720の消防本部や2174の消防団、都道府県、総務省消防庁、そして防衛省などです。

 まさに、消防車は”一品物”なのです。

モリタホールディングス関係者(撮影:桃田健史)

 今後については、EV化や現場情報をリアルタイムで集約、整理、可視化してAI(人工知能)を活用した指揮活動の実用化を目指しています。

 こうした新技術については、大阪府八尾市にあるモリタATI(アドバンスド・テクノロジー・イノベーション・センター)で研究開発しており、その成果を基に現在開催中の大阪・関西万博消防センターで実証実験を行っているところです。

 近年、火災のみならず、地震、台風、集中豪雨、土砂崩れ、火山噴火、そしてコロナ禍に見られるような感染症など災害リスクが多様化しています。

 そうした中、消防関連車両は最新型の働くクルマとして、救助される側のみらず、救助する側の仕事の効率性や的確性についても進化し続けていることを今回の取材を通じて実感することができました。

【画像】すげぇ! これが「消防車の作り方」です(12枚)

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。

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