石破首相「トランプ関税15%合意」で自動車業界と意見交換! 自工会や部工会が参加
石破茂首相が、トランプ関税の合意直後に自動車業界の総本山である日本自動車会館を訪問し、業界トップと意見交換を行いました。トランプ政権が当初25%の自動車関税を課すとしていた中、最終的に15%への引き下げで合意したものの、その引き換えに日本は総額5500億ドル(約82兆円)もの巨額投資を約束しています。この電撃会談では、関税引き下げの裏で日本が抱える課題、具体的には国内のサプライチェーン支援や、アメリカからの完成車輸入促進策について議論されたと見られます。この記事では、非公開とされた会談の核心に迫り、トランプ関税合意が日本の自動車産業に今後どのような影響をもたらすのかを解説します。
日米交渉の合意に関する自動車業界との意見交換を実施
石破茂首相が7月31日、都内にある日本自動車産業界の総本山に足を踏み入れました。
東京タワーにほど近い、日本自動車会館。ここには、自動車メーカーなどでつくる業界団体の日本自動車工業会(自工会)や、自動車部品などの業界団体などの本部機構が集約されています。
今回の石破首相を交えて意見交換会には、自工会会長であるいすゞの片山正則会長、副会長のトヨタの佐藤恒治社長、ホンダの三部敏宏社長、日産のイヴァン・エスピノーサ社長、また理事のマツダの毛籠勝弘社長、スバルの大崎篤社長らが出席しました。
意見交換の目的はもちろん、トランプ関税による日本の自動車産業界への影響についてです。

日本政府の代表としてホワイトハウス詣を重ねた、赤沢亮正・経済再生担当大臣が当初25%とされていた日本に対する自動車関税を、最終的に15%に引き下げることに成功しました。
ただし、それと引き換えに、日本からアメリカに対して総額5500億ドル(1ドル150円換算で82兆5000億円)もの巨額投資を約束しています。
さらに、日本へのアメリカ生産車の輸入促進なども、関税合意の中に盛り込まれています。
これまで、石破首相は国会で自動車関税に関連して答弁をしています。
基本的には、経済産業省などからレクチャーを受けたり各種資料を準備してもらった上での答弁だと思いますが、石破首相が実際に全国各地や海外で見聞きした感想を踏まえて、自分の言葉で話している印象があります。
そうした中で、トランプ関税についての日米通商交渉が第一関門を突破した今、石破首相としては自動車産業界トップらから直接意見を聞きたいということになったようです。
さらに言えば、今回の会合開催日はトランプ関税が施行される予定の8月1日の前日です。ただし、赤沢大臣はこの日、別の場所で記者団に対して自動車関税の施行が8月1日よりも遅れそうだというコメントをしています。
今回の意見交換について、詳細については現時点では一般公開されていませんが、大きく2つの点が議論の争点だと思います。
1点目は、日本国内の自動車産業を維持していくための、部品メーカーや物流などサプライチェーンに対する支援や、国内需要喚起に向けた恒久的な措置についてです。
これは、自工会が7月23日付で発表したコメント「日米関税交渉の合意について」でも明記されている内容です。
一部報道では、自動車関税が15%になってホッとしたというサプライチェーン関係者らの声を紹介しています。
確かに交渉当初での25%、また交渉の途中で他国向けを含めて話が出てきた35%といった数字からすれば15%は低いですが、これまでの2.5%に12.5%が追加されているのですから、関税は6倍にも大きく跳ね上がっているのです。
近年、中国での激しい価格競争、また原材料費の価格高騰などがある中で、サプライチェーンでは数円単位ではなく数銭単位での厳しいコスト削減を引き続き強いられている状況です。
そこでさらに日本自動車産業にとって最重要国であるアメリカの自動車関税が6倍になったのですから、サプライチェーンとしてはアメリカへの製造移管なども含めた生き残り策を考える必要があるでしょう。
日本自動車産業界全体として、日本政府にサプライチェーンの支援を切望するのは当然です。
また、「国内需要の喚起に向けた恒久的な措置」という点では、年末に取りまとめる税制改正大綱に盛り込まれる、来年度から実施する自動車に係る税金の抜本的な改正も含まれると思います。
具体的には、自動車取得時は環境性能割を廃止して消費税に一本化、そして自動車保有時では自動車税(軽自動車税)と自動車重量税を一本化した新税の導入です。
ユーザーにしっかり理解してもらえるような、自動車の税体系が確立されることが、国内重要の喚起に結びつくはずです。

もう1点が、アメリカからの完成車輸入についてです。
一部報道では、今回の意見交換会に参加した自動車メーカーから実施に向けて前向きな意見があったと言います。
トランプ大統領は常々、アメリカには日本車が溢れているのに、日本の道にはアメ車が少ないという見方で、いわゆる非関税障壁の撤廃を主張してきました。
これに対して、石破首相は国会答弁の中で、日米の市場性の違いや、企業努力によるものという見解を示しています。
その上で、今回の日米関税交渉の合意に基づき、アメリカから日本での完成車輸入を増やすとなると、これまでも一部報道にあった日本メーカーがアメリカで生産する自動車を日本に輸入する手法があります。
一部報道で、これを逆輸入車と呼んでいますが、いわゆる逆輸入車とは日本で生産して海外に輸出した自動車を再び日本に輸入する場合に用いる造語です。
国内でたまに見かける、左ハンドル車のレクサス、インフィニティ、アキュラなどがそれにあたります。
今回話題となっているのは、アメリカの日本メーカー工場で生産する右ハンドル車を日本に輸入するという考え方です。その場合、日本ではこれまで未発売だったモデルが含まれる可能性が高く、ユーザーにとってはクルマ選びの楽しみが増えるかもしれません。
こうした日本国内における自動車産業のこれからについて、石破首相との意見交換があったものと考えられます。
その上で、自動車メーカー各社にとって今後の大きな課題は、アメリカに向けて総額5500億ドル(82兆5000億円)の追加投資うち、自動車産業としていつまでに、どの規模で投資する必要があるのかという点です。
今後も、日米関税交渉と関連した貿易交渉の行方に目が離せません。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。





