日本が米国に「80兆円投資!?」でトランプ関税15%に! 90%の利益は米国に… 本当に一件落着? 今後の自動車産業への影響はいかに

トランプ関税がようやく落ち着きを見せています。結論からすれば関税は15%となるようですが、そのためには5,500億ドルをアメリカに投資し、その利益の90%をアメリカが受け取ることになります。対象は自動車やトラック、コメ、その他の農産品などです。果たして、今後日本はどうなるか。解説していきます。

トランプ関税15%で決着で、自動車産業やユーザーにどんな影響になるの?

 これで本当に、一件落着なのでしょうか。

 アメリカのトランプ大統領が日本時間の23日朝、SNS上で日本に対する関税を15%にすると明らかにしました。

 日米政府の交渉の成果として、各メディアが大きなニュースとして取り上げています。

米国のドナルド・トランプ大統領は、SNSで日米の関税に言及した(画像はイメージ、クレジット:マンデル・ンガン /AFP=時事)
米国のドナルド・トランプ大統領は、SNSで日米の関税に言及した(画像はイメージ、クレジット:マンデル・ンガン /AFP=時事)

 25%という数字が交渉の基準となり、一時は35%という言葉もトランプ大統領から飛び出すなど、アメリカとの貿易関係が強い産業、とりわけ自動車産業界では日米間交渉の行方を慎重に見守ってきました。

 例えば、トヨタは5月に実施した2025年3月期(2024年4月〜2025年3月)の決算報告で、

 佐藤恒治社長がトランプ関税の影響を、直近4月と5月の2ヶ月分で1800億円という具体的な数字を公開しています。

 つまり、月あたり900億円であり、年間では1兆円レベルに達する可能性を示唆したのです。

 その上で、2026年3月期の見通しでは、営業収益は前期と比べて4633億円増の48兆5000億円、また営業利益がトランプ関税などの影響を組み込むと9955億円減って3兆8000億としました。

 これがトランプ関税25%、またはそれ以上を想定していたとすれば、今回の日米政府間合意により関税15%になったことで、営業利益を圧迫する要因が減少することになります。

 こうした状況は、アメリカに向けて日本から完成車や部品を輸出している自動車関連メーカーの多くにとって基本的には共通であり、「心配していたよりは、良いニュースでホッとした」と思う人が少なくないでしょう。

 ただし、完成車でいえば、現在より大幅に税率がアップするのですから、自動車関連メーカー各社は原価低減に注力する姿勢に変わりはないはずです。

 また、アメリカの隣国であるカナダとメキシコからアメリカに対する輸出についても、何らかの見直しが自動車メーカーや自動車部品メーカーに求められることに変わりはありません。

 一方で、今回のトランプ完全15%決着に至った最大の要因が、日本からアメリカに対する5500億ドル(1ドル147円換算で80兆850億円)もの大型投資です。

 トランプ大統領はそのうちの90%がアメリカにとっての利益となると記しました。

 この大型投資の中身について、現時点では明らかになっていませんが、トランプ大統領は「自動車やトラック、コメ、その他の農産品などが対象」と言及していることから、自動車産業への負担はそれなりに大きくなることが予想されます。

 一般論で言えば、アメリカ国内にある現行の完成車工場の生産能力を拡大すること、または新規に工場を建設すること。

 それに伴う、自動車部品メーカーの取引拡大です。

 その中には、日系メーカーのみならず、アメリカ企業も含まれるでしょう。

 つまり、トランプ関税が15%でまず落ち着いたとしても、日系自動車産業全体としてのアメリカシフトが加速すると見るのが妥当です。

 自動車メーカーなどでつくる業界団体、日本自動車工業会(自工会)では4月、同会の会長でいすゞ会長でもある片山正則氏の名で、「米国による自動車・自動車部品に対する関税措置について」を公開しています。

 その中で、日本はこれまでアメリカに継続的な投資を行ってきており、企業としてアメリカ国民であることを強調しました。

 2024年時点で、自工会回委員企業による製造で累計660億円(1ドル147円換算で9兆円7020億円)もの投資を行い、27州で24の製造工場、43の研究開発拠点、70の物流拠点で合計11万人以上の直接的な雇用を生んでいると説明してきました。

 それが今回の日米間合意では、総額で5500億円であり、仮にその半分を自動車産業に割り当てられると、累計投資の4倍という極めて大きな投資が必要になります。
 
 現状で、5500億円投資をいつまでに、どのようにという説明はありませんが、いずれにしても自動車産業として当面、巨額投資を継続的に行う準備する必要があるのではないでしょうか。

 しかし、アメリカ国内での需要は2024年で1600万台レベルであり、この数字が一気に増えるとは思えません。

 では、日本の自動車産業界としてアメリカでの巨額投資先に、何が考えられるでしょうか。

 ひとつは、アメリカを輸出拠点とする案です。

 その中には、これまでの話題に上っていたアメリカから日本への右ハンドル車の輸出もあり得るでしょう。

 なお報道によれば、日本政府は日本の自動車メーカーが米国で生産したクルマの「逆輸入」を進めるよう各社に要請する方向で調整しているといいます。

 そうなれば当然、日本国内の自動車製造を圧迫することになってしまいます。

 もうひとつは、日本の自動車産業界がアメリカに対して大きく出遅れているとの指摘が自動車メーカー間でも最近よく出ている、AI(人工知能)を活用した量産型研究開発への投資です。

 ただし、トランプ政権としては、既存の米IT関連企業を日本企業が買収するという投資の方法は望まないでしょうから、日本としてはアメリカIT企業との連携を深める形での巨額投資が予想されます。

 いずれにしても、トランプ関税15%とワンパッケージとなった5500億円の超大型投資が、日本の自動車産業界に強烈なインパクトを与えることは間違いなさそうです。

 それがユーザーや販売店にどのような影響を及ぼすのか、今後も注意深く見ていく必要があります。

※ ※ ※

 そうした中、23日深夜に日本自動車工業会の片山正則会長は日米関税交渉の合意について以下のようにコメントをしています。

「日米間での関税交渉が合意されました。

 今回の合意に至るまでの日米両政府関係者の多大なるご尽力に敬意を表するとともに、交渉の俎上となる項目が多岐にわたる中、自動車分野を含む形で妥結いただいたことに感謝申し上げます。

 本合意により、サプライチェーン全体を含めた日本の自動車産業への壊滅的な影響が緩和されただけではなく、米国のお客さまにとっても最悪の状況は避けられたことを歓迎いたします。

 我々の基本的な立場として、開かれた自由な貿易に基づくビジネス環境を引き続き所望することに変わりはございません。

 世界の政治経済・地政学的リスクが、かつてないほどの不確実性を増す中、本合意を緒に、日米両国の自動車産業を取り巻く環境が今後、ますます改善されることを期待しております。

 日本政府におかれましては、グローバルなビジネス環境を維持発展していくためにも、引き続き、更なる関税の軽減も含めた米国との未来志向の対話を継続していただくとともに、日本の自動車産業を維持していくためのサプライチェーン支援や、国内需要喚起に向けた恒久的な措置等を切望いたします。

 我々は、常にお客さまを第一に考え、地域の皆さまに支えていただきながら、日米両国に根差した事業活動を通じ、日米自動車産業の持続的な発展と国際競争力の更なる強化に資するよう尽力してまいります」

【画像】日本で売って! 現代版”ハイラックスサーフ”な「トヨタSUV」の画像を見る!(30枚以上)

参加無料!Amazonギフト券贈呈 自動車DXサミット BYD登壇 最新事例を紹介(外部リンク)

画像ギャラリー

Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。

実績500万人超!お得に車売却(外部リンク)

新車不足で人気沸騰!欲しい車を中古車で探す

【NEW】自動車カタログでスペック情報を見る

【2025年最新】自動車保険満足度ランキング

最新記事

メーカーからクルマをさがす

国産自動車メーカー

輸入自動車メーカー