ポルシェの「“6人乗り“タマゴ型ミニバン”」!? ツルツルボディ&全ドアスライドドア採用! “ファミリーカー”とは言い難いドイツの「レンディエンスト」どんなモデル?

過去、ポルシェがミニバンのようなコンセプトカー「ビジョン・レンディエンスト」を公開し、多くの人々を驚かせました。市販には至らなかったこの一台は、いったいどのようなクルマで、何を目的としていたのでしょうか。

ポルシェのミニバン!?

 コンセプトカーは、自動車メーカーが未来の技術やデザインの方向性を示すために製作されますが、過去を振り返ると、私たちの想像を遥かに超える大胆なモデルも存在します。2020年にその存在が公開されたポルシェの「ビジョン・レンディエンスト」も、その一台といえるでしょう。

ポルシェの3列ミニバン!?
ポルシェの3列ミニバン!?

 一見すると「ポルシェ製のミニバン」という、にわかには信じがたいこのコンセプトカー。しかしこれは、市販を前提としたものではなく、「広い空間をテーマに据えたとき、ポルシェらしさはどのように表現されるのか?」という思考実験から生まれたモデルでした。

 車名の由来は、かつてポルシェのレース活動を支えたフォルクスワーゲン製のサービスバン「レンディエンスト(ドイツ語で“レーシングサービス”の意)」へのオマージュです。

 工具やスペアパーツを運んだ“移動ワークショップ”の実用精神を、現代の家族向けライフスタイルに重ね合わせ、再構築したのがこのモデルの狙いです。

 エクステリアは、スペースシャトルを思わせる滑らかな卵型フォルムが印象的。エッジを排した面構成の中に、力強く張り出したホイールアーチや、スポーツカーのDNAを感じさせるディテールが織り込まれています。

 左右非対称のサイドウィンドウ構成もユニークで、片側は大きなガラス面による開放感を、もう片側はプライバシー性の高い空間を演出。乗員の心理的快適性まで考慮された設計です。

 最大の特徴はインテリアにあります。パワートレインをすべて床下に収めたEV用スケートボード型プラットフォームを採用し、極めて広大でフラットな室内空間を実現。シートレイアウトは「1+2+3」の3列6人乗りで、運転席は中央に配置されるという異例の構成です。

 この中央ドライバーズシートは180度回転が可能で、自動運転モード時には後席と向かい合い、車内を社交空間に変えることができます。2列目は人間工学に基づく独立シート、3列目はベンチ型ラウンジシートとし、すべての乗員に快適性を提供する設計となっています。

 では、なぜこのように完成度の高いコンセプトカーが市販されなかったのでしょうか。

 その最大の理由は、ポルシェのブランドアイデンティティにあります。当時のマーケティング担当役員は、「我々は今までも、これからも、スポーツカーメーカーであり続ける」と明言。ミニバンというカテゴリがブランドの核心と相容れないと判断されたためです。

 一方で、デザイン部門責任者はアジア市場で人気の高級ミニバン市場、たとえばトヨタ「アルファード」などの存在を引き合いに出し、市場の可能性に対して前向きな姿勢を見せていました。社内では議論が活発だったことがうかがえます。

 そもそも過去にはスポーツカー以外のラインナップがなかったポルシェにおいても、現在ではSUVやスポーツセダンなどの多彩なボディタイプが存在しており、ミニバン型のポルシェが未来永劫登場しないという確証もありません。

 ともあれ、ビジョン・レンディエンストが残した技術的・造形的遺産は、すでに市販モデルへと息づいています。たとえば、このモデルで採用された4灯式LEDヘッドライトは、後の「タイカン」が採用、現在では、911をはじめとするポルシェの象徴的なデザインになりました。

 また、ドライバー中心のインテリア設計や、触感とデジタル操作のバランスも、現行ポルシェ車に反映されています。

 市販には至らなかったものの、ビジョン・レンディエンストはポルシェが未来に向けて描いた“もしも”の可能性であり、その大胆な提案は今なおブランドの一部として息づいているのです。

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Writer: 佐藤 亨

自動車・交通分野を専門とするフリーライター。自動車系Webメディア編集部での長年の経験と豊富な知識を生かし、幅広いテーマをわかりやすく記事化する。趣味は全国各地のグルメ巡りと、猫を愛でること。

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