遅すぎ? 時代には合わない? 道路の「速度規制」は誰がどう決めるのか
多くの人が疑問、55年前から変わらない高速道路の速度規制
そして多くのユーザーが疑問に感じる速度規制は、高速道路ではないでしょうか。多くの高速道路に適用される「時速100キロ」の速度規制は、1963年に開通した名神高速道路から始まりました。
この時からすでに55年が経過しており、高速道路で重要なクルマの走行安定性とブレーキ性能は、商用車を含めて格段に向上しました。それでも規制速度はいまだに時速100キロが上限で、一部区間の新東名高速道路と東北自動車道が限定的に、時速110キロへ引き上げたにとどまります。クルマの性能が大幅に高まったのに、高速道路の速度規制がほとんど変わらない理由を尋ねました。
「高速道路の規制速度は、本線の車線数や方向別の分離状況に応じた上限速度(時速100キロ)の範囲内で行われます。勾配、カーブ、幅員などの道路構造要素によって算出される構造適合速度を尊重しつつ、交通事故の発生状況や渋滞の発生状況等も踏まえて決定されます。
なお、現在一部区間において規制速度を時速110kmに引き上げる試行を実施しており、今後はこれに伴う交通事故実態、実勢速度の変化などを分析した上で、時速120キロへの引き上げについても検討することとしています」とのことです。
55年にわたり「上限速度は時速100キロ」が前提であり続けましたが、今になってようやく見直しが開始されました。
高速道路では、速く走ることで移動時間を節約するクルマの機能が、最大限度に発揮されます。そこを重視するなら、車両の安全性の向上に合わせて、規制速度はなるべく高く設定すべきです。
しかし最近は、燃料消費量やCO2を含めた排出ガスの発生を抑える観点から、規制速度に対する考え方が変わってきています。高速で走ると空気の抵抗が増し、燃料消費量や排出ガスの発生量が増えるからです。それでも高速道路の実勢速度を考えると、時速100キロキロでは低すぎると感じるユーザーが多いでしょう。高速で移動するメリットも踏まえて、バランスの取れた速度規制を実施する必要があります。
現在、運転免許の保有者が8200万人を超えており、クルマは日常生活のツールとして定着しました。公共の交通機関を利用しにくい地域では、クルマは生活する上で欠かせない移動手段です。規制速度は、従来以上に地域に密着した考え方で決めて欲しいものです。
【了】
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。