まさかのスズキ新型「ジムニー」は出ない? 去年話題の「カクカクなシルエット」はどうなった? 電動化が難しい理由とは
ジムニーをEV化するには…別の課題も? それはなに?
さらにジムニーをEV化するには、別な難点もあると筆者は考えます。それはメカニズムです。
まずeビターラは、駆動モーターとインバーターを一体化した「イーアクスル」という車軸を使っています。FFはフロントに1本、4WDでは前後に2本配置しています。
一方、ジムニーは鋼鉄製のアクスルというケースの中に、車軸とディファンレンシャルギアを内包。これが前後に2本配され、さらにこれをプロペラシャフトで結んでいます。
クロスカントリー4WDが悪路走破性を発揮するのは、左右のタイヤがアクスルで繋がっているためで、一方のタイヤが凸で持ち上がると、猛一方のタイヤは凹の路面にタイヤを押しつけます。
これでタイヤのトラクション性能がより発揮されるという仕組みです。
仮にリジッドアクスル式でイーアクスルを造った場合、不可能ではないと思いますが、耐久性などの面で不安が出てくるのではないでしょうか。
またオフロードでは舗装路とは違う予期せぬタイヤの回転や負荷があります。こうした動きが電動モーターに与える影響も未知数です。
さらに、現在サブトランスファーで実現しているローレンジの駆動力を、果たして2モーターで実現可能なのかという疑問もあります。
サブトランスファーは2WD(FR)と4WDの切り替えを行うだけでなく、「4WD H」「4WD L」という4WD時のギア比の変更も行うことを担っています。
2WDや4WD Hでは、エンジンの力:1を駆動力:1(ATの場合は約1.3)としてディファレンシャルギアに伝えます。
しかし、4WD Lにシフトするとエンジンの力:1を駆動力:2.002(ATの場合は約2.643)としてディファレンシャルギア(最終減速比はMTが4.090、ATは4.300)に伝えるのです。
つまり同じエンジンの力でも、サブトランスファーのギア比を変えることで、より大きな駆動力に変えることができるわけです。
これはオフロードでは非常に重要であり、例えばフル乗車満載の状態で走っても力不足と感じることはありません。
さらに、岩など大きな段差を乗り越える時には大きな駆動力が必要になりますが、ローレンジにすれば1.5L(ジムニーは660cc)という排気量以上のパフォーマンスを発揮してくれるわけです。
かつて動画サイトで、大雪の中を自分の何倍もの大きさのトレーラーをジムニーが牽引する様子が話題になりました。
これはまさに、サブトランスファーの恩恵をよく表したものと言えるでしょう。
こうしたジムニーの性能こそが、世界のプロフェッショナルに愛される由縁なわけですが、EV化してしまうと担保できないという結論にスズキは達したというのが筆者の見方です。
すでにこの夏、欧州向けとしてのジムニーの生産を終了すると発表されています。
これはより厳格化される環境規制に対して、ジムニーが十分に対応できないためだと思われます。
かつてスズキが計画の中で発表したeジムニーは、この規制への対応策だったわけですが、白紙状態に戻ったわけです。
ちなみに鈴木社長は前述のインタビューの中で、「ジムニーをプロフェッショナル向けの道具として提供し続けるとすれば、eフューエルやバイオ燃料を使用したICE(内燃機関)技術がジムニーの未来を支え続ける技術かもしれない」と語っています。
スズキの未来的なICE技術開発がどこまで進んでいるかは分かりませんが、数年内に欧州で新しいジムニーが登場するというのは難しくなったと言えます。
日本でも660cc版ジムニーの環境性能がギリギリだという話は数年前から出ており、今後の対応が業界やユーザーから注目されていました。
まだ規制がそれほど進んでいないアジアや南米を除いて、先進国でのジムニーの立ち位置は一大転機を迎えたと言えます。
2025年夏には日本で5ドアモデルが導入されるかもしれないという情報もあるジムニーですが、シリーズの今後の成り行きに注目したいところです。
Writer: 山崎友貴
自動車雑誌編集長を経て、フリーの編集者に転向。登山やクライミングなどアウトドアが専らの趣味で、アウトドア雑誌「フィールダー(笠倉出版社刊)」にて現在も連載中。昨今は車中泊にもハマっており、SUVとアウトドアの楽しさを広く伝えている。
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