トヨタは姉妹車廃止するんじゃなかったの? 「ノアヴォク」「アルヴェル」なぜどっちも売る? “似たような車種”残した事情とは
販売不振だったヴェルファイアはなぜ廃止されなかった?
それでも2023年6月に発売された新型で、ヴェルファイアは廃止されずに残されました。
理由を開発者に尋ねると「新車の販売台数は下がりましたが、ヴェルファイアを使われるお客さまの愛着は強く、残すべきだと考えました」と述べています。
そもそもアルファードとヴェルファイアの販売格差が拡大した背景には、先に述べた全店で全車を売る販売体制への変更がありました。全店で全車を売ると、売れ行きが伸びる車種はさらに多く売られ、人気が下がった車種はますます落ち込むのです。
このことはホンダと日産が証明しています。この2社は、以前は国内でも複数の販売網を設け、さまざまな車種ラインナップをバランス良く販売していましたが、2000年代に両社とも全店が全車を売る体制に移行しました。そうすると車種ごとの販売格差が急速に広がりました。
2023年1月から6月の販売状況を見ると、ホンダでは、国内で売られた新車の40%を軽自動車の「N-BOX」が占めます。ほかの軽自動車と登録車でもっとも売れている「フリード」を加えると70%を超え、軽とフリードが多くを占めていることがわかります。
日産も同様で、「ルークス」などの軽自動車と「ノート/ノートオーラ」「セレナ」を合計すると、国内で新車として売られる日産車の80%近くに達します。
このように全店が全車を売ると、販売格差が広がり、残すべき車種と廃止すべき車種が明らかになります。トヨタもそこを視野に入れ、車種や販売店のリストラも狙って全店が全車を売る体制に移行しましたが、残すべき車種を切り捨ててしまう危うさもあります。
その典型がヴェルファイアだといえるでしょう。新型ではそういったことも踏まえ、新型アルファードとは異なる精悍なフロントマスクや19インチタイヤの装着、ステアリングシステムの支持剛性などを高めるフロントパフォーマンスブレースの採用などにより、デザインと走りをスポーティに仕上げました。
開発者は「仮にヴェルファイアを廃止しても、新型アルファードにエアロパーツや19インチタイヤを装着するスポーティなグレードを用意したでしょう。ただしフロントパフォーマンスブレースを採用するような個性化は行わなかったと思います」と語っています。
ノア/ヴォクシーやアルファード/ヴェルファイアは、もともとは販売系列によって売り分けて、販売総数を増やすための姉妹車でした。
しかし市場に定着すると、ヴォクシーとヴェルファイアは、スペシャルティカーの価値を身に付けました。昭和の時代でいえば、基本部分を共通化した「マークII/チェイサー/クレスタ」にも、それぞれ「ファミリー向け/走りの良さ/プレミアム」という違いがありました。
これこそが、姉妹車の本当のあり方でしょう。エンブレムを変えるといった小手先の違いではなく、世界観まで踏み込んだ個性化です。
ノア/ヴォクシー、アルファード/ヴェルファイアは、今まで多くの姉妹車を開発してきたトヨタだから可能になったクルマ造りだと筆者(渡辺陽一郎)は考えます。
これからも全店が全車を売る体制のなかで、魅力的な姉妹車を開発して欲しいものです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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