最強レベルの武器から要人を守る「防弾車」がスゴい! G7で活躍した“旧型BMW”の正体は?

要人が移動するときに「防弾車」が用いられることがあります。そんななか、2023年5月におこなわれたG7広島サミットでは、旧型のBMW「7シリーズ」が起用されました。

どんな攻撃からもVIPを守る「防弾車」

 2023年6月17日から23日まで、天皇皇后両陛下がインドネシアを訪問している。
 
 現地で視察に向かわれた際のお召し車両はメルセデス・ベンツ「Sクラス」だったのだけれど、少しばかり驚いたことに「防弾車」ではなかった。

強靭なボディを持つ「防弾車」
強靭なボディを持つ「防弾車」

 というのも歓迎する沿道の人の間を走っているときに窓を開けてお手を振っていたのである。

 防弾車はごく一部の例外を除いて窓は開かない。もっといえば、窓を開けていること自体、元首としては異例です。

 2023年5月に広島で開催されたG7サミットで、各国の元首が異動するときに使用した車両は、米大統領を除き、旧型のBMW「7シリーズ」だった。

 ちなみに米大統領の場合、どこに行くにも通称「ビースト」と呼ばれる大統領専用車両+護衛車両群を積み込こんだC17輸送機2機飛ばす。それだけ狙われているということなんだと思う。

 少し脱線するけれど、米大統領の護衛はビーストだけじゃなかった。

 広島の北側空域は航空自衛隊のF-15戦闘機がずっと空中待機して、北側から進入する襲撃者に対しスタンバイしており、広島上空はドローンを飛ばして、これまた緊急対応できるような準備をしていた。

 米大統領以外は前述の通り旧7シリーズの防弾車だ。スペックについては警備上シークレットになっており、公開されない。なぜかといえば、どんな防弾車を使っているかということを襲う側に知られたくないからです。

 防弾車といってもさまざまなスペックがある。一般的に「その地域で手に入る一番強力な武器」で襲撃されたときに耐えられる性能が必要。米大統領用のビーストでいえば、機関砲はもちろん肩撃ち式のロケットまで対応できるといわれている。限りなく戦車に近いということです。

 しかもビーストの窓ガラスは13cmくらいの厚みを持ち、室内は5ナンバーのタクシーより狭いのだ。

 日本でいえば、自動小銃のAK-47やM-16ライフルすら使われたケースなどなく、拳銃か猟銃レベルが耐えられる強度があれば問題ないだろう。とはいえ、猟銃も弾によっては至近距離から撃たれたら手強いですが。

 そして、G7で使われた旧7シリーズは、出回っている武器のなかでもっとも強力なAK-47に耐えられるレベルだったと思われる。世界基準で見ると治安の良い日本は防弾車のニーズが極めて少なく、だからこそG7は古い7シリーズになったというワケです。

 インドネシアにおける陛下のお召し車両である。特筆したいのは防弾車ですらなかったこと。この点、日本側がリクエストすれば100%防弾車を使用したと思う。

 調べてみたらインドネシアには日本より多くの防弾車があるという。疑う余地なく、インドネシア側から防弾車のレベルについて問い合わせがあっただろう。したがって通常車両をリクエストしたのは日本側です。

 おそらく今回ご視察されたときのように「窓を開けたかった」ということなんだと思う。

 考えて頂きたい。日本国民の象徴とされている天皇陛下が窓を閉めた車両で通過するのと、窓を開けて手を振られながらにこやかに通過するのとでは、インドネシア人はどう考えるだろう。

 迷うことなく後者のほうが良い印象を持ってもらえる。宮内庁はそちらを選んだということです。

 世界の常識から外れた警備体制についてさまざまな意見はあると思う。私見ながらふたつの点で世界に誇って良いことだと考えます。

 まず「襲撃される対象の国ではない」ということ。インドネシアにも過激な勢力は存在するし、テロだって少なくない。

 でも日本という国は恨まれていないということなんだろう。考えて見れば第二次世界大戦以後、日本はどの国にも危害を加えていない。

 ふたつ目が陛下そのものです。日本でこそ防弾車は不要ながら、海外に行けばさまざまな危険要因があるのは御存知のことだと思う。でも日本人の象徴としてインドネシアの人と接する際、窓を開けて手を振ることを選んだ。

 最悪のことまで考えるのがVIPの警護だが、逆に考えれば「そうなっても仕方ないですね」という御覚悟あってのこと。世界の元首のなかでもっとも勇敢だと私は思う。大いに誇らしいです。

 繰り返しになるけれど第二次世界大戦後、戦争を放棄した日本は本当に武力を行使したことがない。だからこそどこの国からも恨みを買わず、日本国民の象徴が海外に出ても防弾車すら使わないで良い状況になっている。

 できれば今後も現在のような「世界基準からすれば良い意味で少しばかり変わった国」のままいられたら良いと思う。そんなことを改めて考えた陛下のお姿でした。

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Writer: 国沢光宏

Yahooで検索すると最初に出てくる自動車評論家。新車レポートから上手な維持管理の方法まで、自動車関連を全てカバー。ベストカー、カートップ、エンジンなど自動車雑誌への寄稿や、ネットメディアを中心に活動をしている。2010年タイ国ラリー選手権シリーズチャンピオン。

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