まるで「いも虫」か「アンパンマン号」!? どんな悪路も怖くない“8輪”仕様の「ワーゲンバス」の正体とは
クルマの電動化という未来に向かって進化を続ける印象の強いフォルクスワーゲンですが、その一方で約60年前に生産された奇妙なクルマのレストアも実施しています。それは一体どのようなモデルなのでしょうか。
ナニコレ!? タイヤが8輪の「ワーゲンバス」とは
フォルクスワーゲンは、新世代EVと銘打つ「IDシリーズ」のコンパクトモデル「ID.3」の改良モデルを、2023年3月1日に世界初公開すると発表しています。
クルマの電動化という未来に向かって進化を続ける印象の強いフォルクスワーゲンですが、その一方で過去に生産された奇妙なクルマのレストアを2022年に実施していました。
2022年5月、ドイツに身を置くフォルクスワーゲンの商用車部門は、約60年前に生産された「T1(ワーゲンバス)」をベースとする8輪ミニバン「ハーフトラック・フォックス」をレストアし、現代に蘇らせました。
ハーフトラック・フォックスは、1962年にVWの工場で生産されたT1をベースとしながら、VWのメカニックのクルト・クレッツナー氏によって4軸8輪のモデルに改造された異色のモデルです。
一見すると珍妙にも思える見た目をしていますが、その特徴は走破性の高さにあり、実態は合理的な構造をしています。前2軸はダブルタイヤ、後2軸はチェーンドライブで走行する、世界でもっともオフロード性能の高いワーゲンバスなのです。
改造をおこなったクレッツナー氏はスキーの愛好家だったということで、誰でも簡単に運転できてアルプスを駆け登ることの可能な、オフロード性能の高いバンの需要が高まっていることに着目ました。しかし満足のいくクルマが見つからず、自分で作ることにしたということです。
ハーフトラック・フォックスについてクレッツナー氏の残した記録には、「山小屋の管理人、猟師、林業家、医者、スキーリフト、テレビ塔、ラジオ塔、パイプラインのメンテナンスエンジニアなど、すべての人にとって理想的なヘルパー」だと記載しています。
その後、クレッツナー氏は4年以上の歳月をこのクルマの開発に投じ、1968年までには2台が完成。残念なことに3台目の製造は途中で中断され、現在残っている個体は1台のみとなっています。
雪道走破性や優れた登坂能力など、ハーフトラック・フォックスの走行性能は存外に高く、さらにフロント2軸で操舵をおこなうため最小回転直径は10m以下と、見た目以上に小回りも利きました。
8輪すべてにブレーキが装備されるため制動力も高く、LSDも装備したことで凍結路や雪深い山道でも前方に推進する力を備えます。
搭載するエンジンはベースモデルのT1と同じ1.2リッター水平対向エンジンで、34馬力を発揮しますが、最高速度は35km/ほどだといいます。
ハーフトラック・フォックスは長い期間にわたって発見されずにいましたが、1985年にウイーンでその存在が明らかになり、1990年代にはポルシェ博物館に収蔵されました。
その後、T1の愛好家団体に所有され、2005年にレストアを開始するものの、その際には完全なレストアには至りませんでした。
2018年にフォルクスワーゲンの商用車部門のコレクションに入ったことで、ハーフトラック・フォックスの本格的なレストアがスタート。
クラシックカーのエキスパートの手によって、外装は開発当時と同じ鮮やかなオレンジ色に塗り直され、内装や駆動系など全面的に修復されました。
レストアの完了したハーフトラック・フォックスは、2022年2月には雪上での走行テストもおこなわれ、誕生当時の性能を多くの人に披露することができました。
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